なぜ?がわかる!未来の外壁塗装 〜ドローンとデジタルマネーが変える世界〜
導入:家の壁をぬる、その「当たり前」にひそむ問題
家の壁は、雨や風、太陽の光から私たちを守ってくれる大切な存在です。古くなってくると、見た目をきれいにしたり、家を長持ちさせたりするために「外壁塗装」という工事が必要になります。しかし、この工事、費用がとても高くて、しかも何にいくらかかっているのか分かりにくい、と感じたことはありませんか?
この物語には、二人の主人公がいます。
- 施主(せしゅ)さん: 「大切なわが家を、適正な価格できれいにしてほしい」と願う、家の持ち主。
- 職人(しょくにん)さん: 腕は確か。最高の技術で家をピカピカにしたいと思っている塗装のプロ。
実は、この二人、それぞれが大きな悩みを抱えています。施主さんは「高いお金を払うのに、本当にちゃんと塗ってくれるんだろうか…」と不安に思い、職人さんは「汗水たらして仕事を完璧に終えたのに、すぐにお金がもらえない…」と困っています。
もし、これらの問題を一気に解決できる「新しい技術を使ったすごい仕組み」があるとしたら、知りたくありませんか? これから、外壁塗装の未来をガラリと変えるかもしれない、そんなお話をはじめましょう。
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1. 今までの外壁塗装の「お金の流れ」と問題点
まず、なぜ外壁塗装は高額で、施主さんと職人さんの両方が困ってしまうのでしょうか?その秘密は、お金の流れに隠されています。
1.1. なぜこんなに高いの?「中間マージン」の正体
例えば、外壁塗装に100万円かかったとします。その内訳は、おおよそこのようになっています。
- 職人さんの給料: 約45% (45万円)
- ペンキなどの材料費: 約20% (20万円)
- 足場の費用: 約15% (15万円)
- 営業・会社の経費(中間マージン): 約20% (20万円)
注目してほしいのは、一番下の**「営業・会社の経費」**、いわゆる「中間マージン」です。全体の約20%も占めています。
ただし、これは単なる「中抜き」ではありません。会社が営業マンを雇って仕事を探したり、万が一塗装が剥がれた時のための保証をつけたりする費用が含まれています。そして最も重要なのが、施主さんが工事代金を払うまでの間、職人さんへのお給料を会社が立て替え払いする役割です。会社が「信用」を肩代わりし、リスクを背負うための大切なコストでもあるのです。
1.2. 施主と職人、それぞれの「困った!」
この「中間マージン」が存在する仕組みが、結果的に二人の悩みの種になっています。
- 施主さんの困った!:品質への不安 高い費用を払っているにもかかわらず、一部の業者が利益を確保するために、見えないところでコストを削ろうとすることがあります。例えば、ペンキを規定より薄めて使ったり、本当は3回塗るべきところを2回で済ませてしまったり…。これが「手抜き工事」につながり、せっかく塗装しても長持ちしないという品質リスクを生みます。
- 職人さんの困った!:お金がすぐにもらえない 職人さんは、工事がすべて完了しても、すぐにお金を受け取れません。お金が振り込まれるのは数ヶ月後、というのが業界の慣習です。これはつまり、稼いだはずのお金を待っている間、生活費や次の仕事の材料費を払うために、自分でお金を借りなければならないかもしれない、ということです。まるで、マラソンを走りきったのに、メダルがもらえるのは数ヶ月後、と言われているようなものです。
これらの「困った!」を、テクノロジーの力で解決する新しいアイデアが生まれました。
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2. 未来の仕組みを支える3つのヒーロー技術
新しい仕組みを理解するために、まずは活躍する3つのヒーロー技術を紹介します。
2.1. ヒーロー①:ドローンAI審査員
これは、**「絶対にうそをつかない、公平な目で品質をチェックする審査員」**です。 ドローンが工事現場を飛び回り、壁を隅々まで撮影します。そして、その映像をAI(人工知能)が分析。「高圧洗浄はちゃんと行われたか?」「下塗りはムラなく塗られているか?」といった各工程の作業品質を、人間の目よりも正確に、客観的にチェックしてくれるのです。
2.2. ヒーロー②:ステーブルコイン
これは、**「価値が1円=1コインで固定された、インターネットで使えるデジタルなお金」**です。 ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は、価格が激しく変動するため、支払いに使うのは少し怖いですよね。しかし、ステーブルコインは常に日本円と同じ価値を持つように設計されているため、安心して支払いに使えるデジタルマネーなのです。
2.3. ヒーロー③:スマートコントラクト
これは、**「『もし〇〇が達成されたら、△△を自動で実行する』という約束を絶対に守る、賢い自動販売機」**のようなものです。 例えば、「ジュースのボタンが押されて、お金が投入されたら、必ずジュースを出す」というルールがプログラムされています。これと同じように、「もしドローンAI審査員が『品質OK!』と判定したら、職人さんにお金を自動で支払う」という約束を、人間を介さずに、間違いなく実行してくれる仕組みです。
さあ、この3人のヒーローがチームを組むと、一体どんなすごいことが起きるのでしょうか?
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3. 新しい仕組みはこう動く!外壁塗装の未来予想図
3つのヒーロー技術が連携すると、外壁塗装のプロセスは次のように変わります。
- 契約とお金のロック まず、施主さんは工事代金をステーブルコインで「スマートコントラクト(自動販売機)」に預けます。この時点では、まだ誰にも支払われません。お金はここに「ロック」された状態です。
- 作業実行 職人さんが、最初の工程(例えば、壁の汚れを落とす「高圧洗浄」)を完了させます。
- ドローンAI審査員のチェック 作業が終わると、ドローンAI審査員が現場をチェック。「高圧洗浄の作業、完了!品質もOK!」と判定します。
- 結果の伝達役(オラクル) ここで「オラクル」という特別な助っ人が登場します。スマートコントラクトは、ブロックチェーンという「外の世界の音や光が一切届かない、密閉された部屋」の中にいるようなものです。そのため、ドローンAIの判定結果を自分で知ることができません。オラクルは、その部屋の鍵を持つ唯一の存在。AIの「OK!」判定を安全・確実に確認し、部屋の中にいるスマートコントラクトに伝える、信頼できる伝達役なのです。
- 自動で即時支払い 「OK!」の知らせを受け取ったスマートコントラクトは、約束通り、ロックされていたお金の一部(高圧洗浄の分)を、即座に職人さんのデジタル財布(ウォレット)に支払います。
この流れが、「下塗り」「中塗り」「上塗り」といった工程ごとに行われます。仕事が終わるたびに、その分の報酬が即座に支払われるのです。
この仕組みは、施主さんと職人さんの関係に、いったいどんな良い変化をもたらすのでしょうか。
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4. 誰がうれしい?施主と職人のメリットを徹底比較
この新しい仕組みは、施主さんと職人さんの両方に大きなメリットをもたらします。
今までのやり方 | 新しい仕組み |
施主(家の人) | ・費用が高い(中間マージン約20%)<br>・手抜き工事をされる不安がある |
職人(ぬる人) | ・工事が終わってもすぐにお金がもらえない<br>・実質的な手取りが少なくなる |
このテーブルが示しているのは、単なるお金の話だけではありません。もっとも大きな変化は、「信頼」の形が変わることです。
これまでは、会社の評判や営業マンの人柄といった「人」への信頼に頼るしかありませんでした。しかし、新しい仕組みでは、ドローンAIやスマートコントラクトという**「誰が見ても明らかで、ごまかしのきかない透明な技術」**が信頼の土台になります。この変化が、施主さんと職人さん双方に利益をもたらすのです。
でも、こんなに素晴らしい仕組みなのに、なぜすぐに実現しないのでしょうか?そこには、乗り越えなければならない大きな壁が存在します。
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5. 未来への大きな壁:日本の「法律」というハードル
この仕組みを実現する上で、もちろん『ドローンAI審査員』の判定が絶対に正確でなければならない、といった技術的な課題もあります。しかし、今まさに立ちはだかっている最も大きな壁は、実は技術よりも日本の金融に関する厳しい**法律(改正資金決済法)**です。
特に大きな課題が**「履行保証金制度」**というルールです。これは、少し難しいですが、とても重要なので簡単に説明します。
- 制度の目的は? この仕組みを運営する会社が、もし倒産してしまっても、利用者が預けたお金(施主さんがロックしたステーブルコイン)が必ず守られるようにするためです。
- どんな内容? 運営会社は、システムの中で預かっている利用者のお金と**「まったく同じ金額」の現金**を、会社の金庫とは別の場所(国の機関など)に預けておかなければならない、という決まりです。
- 何が問題なの? 例えば、100件の工事(合計1億円分)が同時に動いていると、運営会社は、それとは別に「現金1億円」を用意して眠らせておかなければなりません。事業が大きくなればなるほど、この負担は雪だるま式に増えていきます。せっかく技術で削減した「中間マージン」のメリットを、この規制コストが大幅に打ち消してしまう危険性があるのです。
この法律の壁を乗り越えるためには、金融の専門家や銀行と協力したり、政府と粘り強く話し合ったりしていく必要があります。
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結論:技術は、社会をより良くするための道具
今回見てきた外壁塗装の例は、一つの業界だけの話ではありません。
新しい技術は、ただ面白いだけでなく、世の中の古い仕組みが抱える課題を解決し、働く人(職人さん)とサービスを受ける人(施主さん)の両方を幸せにする大きな力を持っています。
もちろん、法律のような難しい課題も存在します。しかし、それを「無理だ」と諦めるのではなく、どうすれば乗り越えられるかを考え、挑戦していくこと。それ自体が、より公平で、より透明な社会を作るための大切な一歩なのです。ドローンとデジタルマネーが空を飛び交う未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。
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