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外壁塗装の追加請求を断る方法|法的根拠と交渉術を職人が解説

外壁塗装で「追加工事が必要」と言われたら?民法・建設業法・消費者契約法に基づく拒否の法的根拠、京都地裁判例、契約書の防衛条項まで解説。

著者: 横井隆之

この記事の監修者

ヨコイ塗装 代表 横井隆之

愛知県で50年続く塗装店の2代目。200件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。

はじめに

「工事を始めてみたら、下地がボロボロでした。追加で30万円かかります」

外壁塗装の現場で、こんな言葉を聞かされた経験はありませんか?

追加請求は、施主にとって最も不安で、最も対処が難しいトラブルの一つです。「本当に必要な工事なのか」「断ったら工事が止まるのか」「法的に支払う義務があるのか」——判断材料がないまま、その場で決断を迫られるからです。

しかし、結論から言えば、事前の書面合意がない追加請求は、法的に支払う義務がありません。

50年間、塗装の現場に立ってきた私から見ても、「追加請求」の名を借りた不当な請求は少なくありません。一方で、本当に必要な追加工事もあります。

この記事では、追加請求を「断れるケース」と「断れないケース」を法的根拠に基づいて整理し、あなたが冷静に判断できる知識をお伝えします。

追加請求が発生する典型的なパターン

外壁塗装で追加請求が発生する原因は、大きく3つに分類できます。

パターン1:下地の劣化が想定以上だった

外壁塗装は、塗る前の「下地調整」が品質を左右します。しかし、下地の状態は足場を組み、洗浄し、既存塗膜を剥離してみるまで完全には把握できません。

| 発見される問題 | 追加費用の目安 |

|----------------|:--------------:|

| 深いクラック(ひび割れ) | 5,000〜15,000円/箇所 |

| サイディングの内部腐食 | 2,000〜4,000円/枚 |

| 白アリ被害 | 数十万円規模 |

| 既存塗膜の密着不良 | 全面ケレン費用 |

これらは「開けてみないとわからない」リフォーム特有のリスクです。

パターン2:見積書の記載漏れ・曖昧さ

業者側の見積技術や、意図的な低額提示が原因となるケースです。

・「一式」表示による範囲の曖昧化:「付帯工事一式」と書かれていると、何が含まれるか不明確になる

・付帯部分の除外:雨樋、破風板、軒天が見積から漏れている

・コーキングの「増し打ち」と「打ち替え」の混同:単価が1.5倍違う

パターン3:天候不順による工期延長

台風や長雨で工期が延びると、足場のレンタル費用や現場管理費が追加されることがあります。1日あたり3,000〜5,000円の積み重ねが、数週間の遅延で数万円に膨らみます。

追加請求を断れる法的根拠

法律は、施主を「合意なき請求」から守っています。以下の3つの法律を理解しておけば、不当な追加請求に対抗できます。

根拠1:民法第632条(請負契約の原則)

民法は、請負契約を「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその報酬を支払う」と定義しています。

ポイント:

・当初の契約に含まれない追加工事は、新たな契約または契約内容の変更である

・これには双方の新たな合意が必要

・業者が「良かれと思って」勝手に行った工事に、施主が支払う義務はない

裁判実務では、「工事をすることに同意した(施工合意)」だけでは不十分で、「有料であることを理解し、その金額で合意した(有償合意)」ことが必要とされています。

根拠2:建設業法第19条(書面交付義務)

建設業法は、請負契約の透明性を高めるため、強力な書面交付義務を課しています。

第19条第1項:契約締結時に、工事内容・請負代金・工期などを記載した書面を交付しなければならない

第19条第2項:契約内容を変更する場合、追加工事の着工前に、変更内容を記載した書面を交付しなければならない

つまり、書面なしで始められた追加工事は、建設業法違反です。書面がない事実は、裁判において「追加代金の合意が存在しなかった」ことを推認させる強力な証拠となります。

根拠3:消費者契約法第10条(不当条項の無効)

施主が個人の場合、消費者契約法が防波堤となります。

・消費者の権利を制限し、義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効

・「隠れた劣化は業者の判断で補修し、実費を請求できる」といった白紙委任条項は無効を主張できる

・消費者が何もしない(不作為)ことをもって承諾とみなす条項も無効

京都地裁判例|追加請求の大部分が棄却された事例

京都地裁平成23年10月14日判決(IS邸事件)は、追加請求トラブルにおける重要な判例です。

事案の概要

住宅新築工事で多数の施工不良が発覚。施主が残代金の支払を拒否したところ、業者が「追加・変更工事代金」として約1,240万円を上乗せして訴訟を提起しました。

裁判所の判断

業者が請求した追加代金のうち、施主が事前に認めていた約119万円分を除き、すべての請求を否定しました。

判断の決定的な要因

証拠調べの結果、施主は「追加工事が有償になる場合は、事前に見積書を要求して確認していた」という行動パターンが明らかになりました。

つまり、見積書の提示や施主の具体的な承諾というプロセスを経ていないものは、「有償での合意があったとは認められない」と断じられたのです。

実務への示唆

この判例は、工事中に口頭で「やっておきますね」と言われた程度のやり取りでは、業者は追加代金を請求できないことを示しています。

追加請求を断れない・慎重な対応を要するケース

法律は公正を原則とするため、施主側にも一定の責任が求められます。以下のケースでは、支払いを拒否することが困難です。

ケース1:施主自身が追加を依頼した場合

・「予定になかったが、門扉も同じ色で塗ってほしい」

・より高機能な塗料への変更を施主が選択した

・施主の個人的な理由で工事を中止させた

これらは当然、追加報酬の対象となります。

ケース2:緊急かつ不可避な事態への対応

足場設置後にのみ判明した重大な構造欠陥を放置すると、塗装工事そのものが無意味になる場合、業者には施主と協議して内容を変更する権利があります。

ただし、この場合も「協議」が必要であり、一方的に工事を進めて請求することは認められません。

ケース3:客観的な受益がある場合

契約上の合意が不十分でも、業者が行った追加工事によって建物に客観的な価値の増加が認められ、施主がその利益を享受する場合、実費相当額の支払が命じられることがあります。

追加請求を防ぐための契約書条項

紛争を予防する最良の手段は、契約段階で「追加工事の手続き」を厳格に定義しておくことです。

事前書面合意条項(条文例)

「本工事の遂行過程において、工事内容の変更または追加工事の必要が生じた場合、乙(請負者)は直ちに甲(注文者)に対し、その理由、内容、増減額および工期への影響を記載した書面(見積書等)を提示しなければならない。甲が当該書面に署名または記名押印して承諾しない限り、乙は追加工事に着手してはならず、また甲に対し追加代金の請求を行うことはできない。」

この条項があれば、「後出しジャンケン」を法的に無効化できます。

契約書に盛り込むべき重要事項

| 規定項目 | 目的と効果 |

|----------|-----------|

| 追加工事の定義 | 当初契約の範囲を明確にする |

| 事前書面承認 | 口約束を法的に無効化する |

| 変更代金の算定方法 | 合意なき高額請求を防ぐ |

| 工期延長の手続き | 遅延損害金の責任所在を明確にする |

| 現場写真の提出義務 | 追加工事の必要性を証明する |

追加請求を受けたときの対処法

ステップ1:即答しない

「追加が必要です」と言われても、その場で即答しないでください。「書面で見積もりをください」「現場を確認させてください」と伝えましょう。

ステップ2:書面と写真を要求する

追加工事の必要性を示す劣化箇所の写真と、追加見積書を必ず要求してください。これがなければ、支払う義務はありません。

ステップ3:第三者に相談する

判断に迷ったら、以下の窓口に相談できます。

| 相談窓口 | 連絡先 |

|----------|--------|

| 消費者ホットライン | 188 |

| 住まいるダイヤル | 0570-016-100 |

| 見積もり診断サービス | 当サイト |

私が運営する「見積もり診断サービス」でも、追加見積書の妥当性を判断するお手伝いをしています。

見積もり診断サービスの詳細はこちら

ステップ4:記録を残す

日々のやり取りを、メールやLINEなど残る形で共有してください。口頭でのやり取りは「言った・言わない」の紛争の原因になります。

追加請求防衛チェックリスト

| 段階 | チェック項目 |

|------|-------------|

| 契約前 | 見積書に「一式」が多用されていないか |

| 契約前 | 下地補修の単価が明記されているか |

| 契約前 | 追加工事の「事前書面合意」条項があるか |

| 工事中 | 隠れた劣化が見つかった際、写真を見せられたか |

| 工事中 | 追加工事の着工前に、変更契約書を交わしたか |

| 完了時 | 追加された作業が本当に行われたか |

まとめ

外壁塗装の追加請求トラブルを防ぐために、覚えておくべきポイントをまとめます。

法的原則:

・事前の書面合意がない追加請求は、支払う義務がない

・建設業法は、追加工事の着工前に書面交付を義務付けている

・消費者契約法により、不当な白紙委任条項は無効

判例の教訓:

・京都地裁IS邸事件では、見積書の提示なく行われた追加工事の請求が棄却された

・「やっておきますね」という口頭のやり取りでは、追加代金は請求できない

実践的対策:

・契約書に「事前書面合意条項」を盛り込む

・追加請求を受けたら、即答せず書面と写真を要求する

・判断に迷ったら第三者に相談する

私が提唱する「塗装方程式」では、品質を「モチベーション × 技術 × 時間」と定義しています。不当な追加請求は、この「時間」を削って利益を最大化しようとする業者の手口の一つです。

適正な工事には、適正な「人工(にんく)」が必要です。見積書の段階で人工数を確認し、追加請求のリスクを事前に把握しておくことが、最大の防衛策となります。

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この記事の著者

横井隆之

横井隆之

ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント

業界経験 50著書 3

愛知県扶桑町でヨコイ塗装を経営。塗装業界50年以上の経験と500件を超える施工実績を持つ外壁塗装の専門家。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。

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