この記事の監修者
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。200件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
はじめに:施工不良は「数字」で見抜ける
「塗装して2年で剥がれてきた」
「5年もたないうちにチョーキングが始まった」
こうした相談を受けるたびに、私は心が痛みます。
外壁塗装の施工不良は、完成直後には分かりません。塗りたての外壁は美しく見えます。しかし、手抜き工事は必ず「症状」として現れます。問題は、それが数年後だということです。
私は著書『塗装方程式』で、品質 = モチベーション × 技術 × 時間という公式を提唱しています。
この中で最も数値化しやすく、最も誤魔化されやすいのが「時間」です。そして時間は、見積書上では「人工(にんく)」として表現されます。
本記事では、施工不良を主観的な「仕上がり」ではなく、客観的な数字で判定する方法を解説します。
判定の3本柱:
1. 人工(にんく):投入された労働時間
2. 塗料缶数:使用された材料の量
3. 乾燥時間:工程間に必要な待機時間
この3つの数字を理解すれば、あなたも施工不良を見抜けるようになります。
施工不良か経年劣化か:時期別の判定基準
まず、不具合が「施工不良」なのか「経年劣化」なのかを見分ける必要があります。
| 発生時期 | 判定 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 2年以内 | 🔴 100%施工不良 | 剥離、膨れ、著しいチョーキング |
| 3〜5年 | 🟠 施工不良の可能性大 | 早期の色褪せ、部分的な剥がれ |
| 6〜8年 | 🟡 要検証 | 使用塗料の期待耐用年数と照合 |
| 10年以上 | 🟢 経年劣化の可能性 | 正常な範囲の劣化 |
重要:シリコン塗料で塗装して5年で剥がれた場合、それは「塗料の寿命」ではありません。シリコン塗料の期待耐用年数は10〜15年です。5年での剥離は、明らかな施工不良です。
人工(にんく)による判定:20人工を下回れば手抜き確定
人工とは何か
「人工(にんく)」とは、一人の職人が1日(8時間)に行う標準的な作業量を指す単位です。
例えば「20人工」とは、「1人の職人が20日間働く量」または「2人の職人が10日間働く量」を意味します。
標準的な戸建て住宅に必要な人工数
延床面積30坪(外壁面積100〜150㎡)の戸建て住宅において、品質を担保するために必要な総人工数は20〜25人工です。
この数値は恣意的なものではなく、各工程で物理的に必要な作業時間を積み上げた結果です。
| 工程 | 必要人工 | 品質管理ポイント |
|---|---|---|
| 高圧洗浄 | 1〜2 | 洗浄後24〜48時間の乾燥期間が必須 |
| 養生 | 2〜4 | 緻密な養生は2人作業で1〜2日 |
| 下地調整 | 2〜4 | クラック補修、ケレン。塗装の寿命を左右 |
| 下塗り | 2〜3 | 吸い込みが激しい箇所は2回塗り |
| 中塗り | 2〜3 | 塗膜の厚みを確保 |
| 上塗り | 2〜3 | 中塗り乾燥後に施工 |
| 付帯部塗装 | 3〜5 | 雨樋、破風板、軒天など |
| 検査・清掃 | 1〜2 | タッチアップ、養生撤去 |
| 合計 | 20〜25 | - |
人工不足が引き起こす具体的な手抜き
もし見積書から算出される人工数が10〜15人工程度であれば、それは「作業効率の良さ」ではなく、「物理的工程の省略」を意味します。
典型的な手抜きパターン:
1. 中塗りの省略:下塗り→いきなり上塗り1回のみ。塗膜の厚みが半分に
2. 乾燥時間の無視:朝に下塗り→昼に中塗り→夕方に上塗り(物理的に不可能)
3. 養生の手抜き:本来2日かかる養生を半日で終わらせる
「1日で3工程」は物理的に不可能です。
乾燥時間を無視した施工は、数年後に膨れや剥離として必ず現れます。
人件費の構造から逆算する
外壁塗装工事の総額において、人件費は通常40〜50%を占めます。
例えば、総額150万円の工事であれば、60〜75万円が人件費です。これを職人の日当(2万円)で割ると、30〜37人工程度が確保できる計算ですが、親方の利益や保険料を引くと、実質的な現場投入人工は20〜25程度に収束します。
極端な値引きが行われた場合、材料費は削れない(メーカー原価がある)ため、真っ先に削減されるのが「人工」です。
これが、安すぎる見積もりが手抜き工事に直結する経済的構造です。
塗料缶数による判定:物質収支で検証する
塗料の必要量は計算できる
塗装とは、液体の化学製品を固体化させて建物を保護するプロセスです。その性能は「単位面積あたりにどれだけの塗料が残ったか」に依存します。
各塗料メーカーは、製品ごとに「設計所要量(標準使用量)」を定めています。これを使えば、必要な塗料の缶数を計算できます。
計算式:
必要総重量(kg)= 塗装面積(㎡)× 単位所要量(kg/㎡/回)× 塗装回数
必要缶数 = 必要総重量(kg)÷ 1缶あたりの重量(kg)
計算実例:150㎡の住宅の場合
塗装面積150㎡の住宅で、一般的なシリコン塗料(設計所要量0.12〜0.15 kg/㎡/回、15kg缶)を使用する場合:
| 項目 | 最小値 | 最大値 |
|---|---|---|
| 1回塗りの必要量 | 18kg | 22.5kg |
| 2回塗り(中塗り+上塗り)の総量 | 36kg | 45kg |
| 必要缶数 | 2.4缶 | 3.0缶 |
判定基準:この現場では最低3缶の塗料が必要です。
もし業者が「2缶」しか搬入していない場合、その時点で少なくとも17〜20%の塗料不足が確定します。これは明白な施工不良(膜厚不足)の証拠です。
出荷証明書を要求する
発注者が現場で空き缶を数えることは現実的に困難です。そこで最も強力な証拠となるのが「出荷証明書」です。
出荷証明書とは:
・塗料メーカーまたは正規販売店が発行する公的書類
・「いつ」「どの現場に」「どの製品を」「何缶」出荷したかが記載される
・公共工事では必須だが、民間工事では発注者が要求しない限り提出されない
契約時に「完工時に出荷証明書を提出すること」を条件に盛り込むべきです。
これを拒む業者は、規定量を守る意思がない可能性が高いです。
過剰希釈(シャブシャブ塗装)のリスク
塗料は作業性を良くするために水やシンナーで希釈しますが、その希釈率はメーカーによって厳密に定められています(例:清水で0〜5%)。
規定以上に薄めると、塗膜がスカスカになり、耐候性が著しく低下します。
「塗装して1〜2年で色が褪せた」というケースの大半は、この過剰希釈が原因です。
乾燥時間による判定:インターバルの厳守
乾燥時間は化学反応に必要なパラメータ
塗膜の形成は、溶剤の揮発と樹脂の結合(硬化反応)によって完了します。このプロセスを無視した施工は、剥離や膨れの直接的原因となります。
各塗料には、次の工程に移るまでに空けなければならない「工程内塗装間隔(インターバル)」が設定されています。
主な塗料の乾燥時間基準(気温23℃の場合)
| 塗料の種類 | 最低乾燥時間 | 塗り重ね上限 |
|---|---|---|
| 水性シリコン | 2時間以上 | 10日以内 |
| 溶剤系シリコン | 2時間以上 | 10日以内 |
| 無機・フッ素系 | 2時間以上 | 指定なし |
| シーラー(下塗り) | 環境による | 7日以内 |
気温による乾燥時間の変動
上記はあくまで「23℃」の基準です。
冬場(5〜10℃)であれば、乾燥時間は2倍以上必要になります。
つまり、冬場の工事で「朝9時に下塗り、昼13時に中塗り、夕方16時に上塗り」といったスケジュールが組まれている場合、それは物理的に乾燥時間を守っていないことを意味します。
気象条件による施工制限(JIS規格)
JIS K 5674(鋼構造物用耐候性塗料)およびJIS K 5663(水系エマルション塗料)、国土交通省の公共建築工事標準仕様書では、以下の条件下での塗装を禁じています。
| 条件 | リスク |
|---|---|
| 気温5℃以下 | 塗膜が形成されない、凍結の恐れ |
| 湿度85%以上 | 白化(ブラッシング)、密着不良 |
| 降雨・降雪時 | 塗料が密着しない |
調査手法:施工期間中の天気予報履歴と作業日報を照合してください。雨の日や極端に寒い日に「塗装作業」の記録がある場合、その部分の塗膜は将来的に剥離するリスクが極めて高いです。
塗膜厚の基準:60〜90μmが適正値
塗膜厚とは
塗膜厚(とまくあつ)とは、塗装後に形成される塗膜の厚さのことです。単位はμm(マイクロメートル)で、1μm = 0.001mmです。
適正な塗膜厚の目安
| 工程 | 塗膜厚の目安 |
|---|---|
| 下塗り | 20〜30μm |
| 中塗り | 20〜30μm |
| 上塗り | 20〜30μm |
| 3回塗り合計 | 60〜90μm |
塗膜厚が不足すると、紫外線の透過を許し、下地界面での光劣化を招きます。
10年耐久の塗料でも、膜厚不足なら3〜4年でチョーキング・剥離が始まります。
症状から見る施工不良の診断
ひび割れ(クラック)の分類
| 種類 | 幅の基準 | 判定 | 補修方法 |
|---|---|---|---|
| ヘアクラック | 0.3mm以下 | 軽度 | 微弾性フィラーで対応可 |
| 構造クラック | 0.3mm以上 | 重度 | Uカット工法が必要 |
| 貫通クラック | 深さ4〜5mm以上 | 危険 | 専門家による診断が必要 |
その他の施工不良症状
| 症状 | 主な原因 | 見分け方 |
|---|---|---|
| 膨れ | 乾燥時間不足、洗浄後の乾燥不足 | 指で押すとプヨプヨする |
| 剥がれ | 下塗り省略、ケレン不足 | ガムテープを貼って剥がすと塗膜がつく |
| 早期の色褪せ | 塗料不足(膜厚不足)、過剰希釈 | 期待耐用年数の半分以下で劣化 |
| チョーキング | 塗膜の劣化、膜厚不足 | 手で触ると白い粉がつく |
施工不良を防ぐための契約時チェックリスト
見積書で確認すべきこと
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| 人工数 | 20〜25人工が確保されているか |
| 塗料名 | 大手メーカーの製品名・品番が明記されているか |
| 塗料缶数 | 計算式で検証可能な数量か |
| 塗装回数 | 「下塗り+中塗り+上塗り」の3回塗りか |
| 工程表 | 各工程間に乾燥期間が設けられているか |
契約書に盛り込むべき条件
1. 出荷証明書の提出:完工時に塗料メーカーの出荷証明書を提出
2. 工程写真の撮影:下塗り・中塗り・上塗り完了時の写真を残す
3. 乾燥時間の遵守:メーカー指定のインターバルを厳守
4. 気象条件の遵守:気温5℃以下、湿度85%以上では施工しない
「一式」見積もりの危険性
「塗装工事一式 80万円」のように、平米数や単価、想定人工を記載しない見積もりは、施工内容のブラックボックス化を意図していることが多いです。
必ず詳細な内訳を要求してください。
施工不良が発覚したら:法的救済措置
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
2020年の民法改正により、施工業者は契約の内容に適合しない成果物を引き渡した場合、以下の責任を負います。
1. 修補請求:やり直しを要求できる
2. 代金減額請求:不具合分の値引きを要求できる
3. 損害賠償請求:損害の補填を要求できる
4. 契約解除:重大な不適合の場合
例えば、「シリコン塗料3回塗り」の契約で「2回塗り」しかなされていない場合、たとえ現在雨漏りしていなくても、契約不適合として責任を追及できます。
相談窓口
| 窓口 | 電話番号 | 対応内容 |
|---|---|---|
| 消費者ホットライン | 188 | 契約トラブル全般 |
| 住まいるダイヤル | 0570-016-100 | 技術的な相談、見積もりチェック |
| 弁護士・建築士 | - | 損害賠償、瑕疵診断 |
施工管理アプリで「見える化」する
なぜ記録が重要か
施工不良の証拠として最も有効なのは、工程ごとの写真記録です。
しかし、紙での管理は煩雑で、紛失リスクも伴います。
当社の施工管理アプリ
私が開発した「施工管理アプリ」では、21工程の進捗をスマホで確認できます。
・工程ごとの写真が自動で時系列整理
・乾燥時間の自動計算・通知
・職人との直接コミュニケーション
・工事完了時に「品質レポート」を自動生成
まとめ:発注者が持つべき自衛の視点
施工不良を見抜く鍵は、職人の「腕」という曖昧なものではなく、「人工(時間)」「缶数(物質)」「乾燥時間(化学反応)」という数字にあります。
判定の3本柱
| 指標 | 基準値 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 人工数 | 20〜25人工 | 見積書・工程表から算出 |
| 塗料缶数 | 計算式で検証 | 出荷証明書を要求 |
| 乾燥時間 | 2時間以上(23℃) | 作業日報と天気履歴を照合 |
今日からできること
1. 見積もり段階:想定人工数と塗料缶数を業者に問い質す
2. 契約時:出荷証明書の提出を条件に盛り込む
3. 施工中:工程ごとの写真撮影と乾燥時間の確認
4. 完了時:保証書の内容(免責事項)を確認
発注者がこれらの知識を持ち、業者に「管理されている」という緊張感を与えることが、最大の手抜き工事抑止力となります。
見積書に不安がある方へ
「この見積もりの人工数は適正か?」
「塗料の缶数は足りているのか?」
そんな不安をお持ちの方は、見積もり診断サービスをご活用ください。
50年の経験を持つ職人の目で、人工数・塗料缶数・工程表を検証し、手抜き工事のリスクを事前に判定します。
関連リンク
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この記事の解説動画
【保存版】外壁塗装の施工不良を「数字」で見抜く
この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県扶桑町でヨコイ塗装を経営。塗装業界50年以上の経験と500件を超える施工実績を持つ外壁塗装の専門家。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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