この記事の監修者
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。200件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
はじめに
「プロに頼むと高いから、自分でちょっと直しておこう」
その気持ちはよく分かります。ホームセンターに行けばコーキングもペンキも数百円で売っている。YouTubeを見れば「誰でも簡単!外壁補修」という動画がいくらでも見つかる。
しかし、ハウスメーカーの住宅だけは、絶対にやめてください。
なぜか。ハウスメーカーの外壁は、一般住宅とはまるで違う「精密機器」だからです。光触媒コーティング、乾式ガスケット、外張り断熱通気工法——これらはすべて、プロの施工技術と純正部材の使用を前提に設計された「ブラックボックス」です。ホームセンターの汎用品とYouTubeの知識で触れるようにはできていません。
50年間この業界にいて、DIYが原因で「300円のコーキングが25万円の追加費用に化けた」「ひと冬で塗膜が全面剥離した」「100万円の雨漏り修理が必要になった」という事例を何度も見てきました。
この記事では、「何をやってはいけないか」と「何ならやっていいか」の境界線を明確に引きます。
→ ハウスメーカー住宅の保証構造と費用の仕組みは、ハウスメーカー別メンテナンスガイドで解説しています。
【レッドゾーン①】タッチアップ塗装 — 剥がれる塗装
「色が剥げたから似た色で塗る」が通用しない
一般住宅なら、傷を似た色のペンキで塗るタッチアップは有効な応急処置です。しかしハウスメーカーの住宅では、この常識が完全に逆転します。
2001年以降に建てられた大手ハウスメーカーの住宅は、外壁表面に光触媒・無機コート・フッ素コートといった特殊処理が施されています。これが「難付着サイディング」と呼ばれる厄介な存在です。
ホームセンターで売っているアクリル塗料やウレタン塗料は、この特殊表面に化学的に結合できません。塗った直後はきれいに見えても、数ヶ月〜1年の熱伸縮や降雨で、塗膜がパリパリと剥離します。
実例:築16年・光触媒サイディングへのDIY塗装
ある施主がYouTubeのDIY動画を見て「自分で塗れる」と確信。高圧洗浄機で洗い、ホームセンターの水性シリコン塗料をローラーで塗装。仕上がりは上々でした。
ひと冬越えた春、南面の外壁が日焼け後の皮膚のようにボロボロと剥がれ始めました。
この住宅のサイディングは2004年製の光触媒コーティング仕様。高圧洗浄では光触媒層は落ちず、DIY塗料の密着を阻害し続けていたのです。冬の凍結融解で、密着していない塗膜の裏に水が入り込み、剥離が一気に進行しました。
結末:全面塗り直し。中途半端に残ったDIY塗膜をディスクサンダーで削り落とす作業に膨大な手間がかかり、下地調整費だけで通常の1.5倍。
なぜ素人には判別できないのか
最大の問題は、自分の家が難付着サイディングかどうかを目で見て判別できないことです。
通常の塗装なら築10年で白い粉が出る(チョーキング)。しかし難付着サイディングは15年経ってもきれい。これを「状態が良いから塗りやすい」と誤認するのが事故の始まりです。
「きれい=塗りやすい」ではなく「きれい=塗料が乗らない」。 この逆説が理解できなければ、DIY塗装は絶対にやってはいけません。
→ 難付着サイディングの見分け方と対策は「難付着サイディング」の見分け方と正しい下塗り材で詳しく解説しています。
もうひとつの問題 — 色が合わない
仮に密着の問題をクリアできたとしても、色の問題が残ります。
近年のハウスメーカーのサイディングは、インクジェットプリント技術で3〜5色以上を重ねてレンガ調や石積み調のテクスチャを表現しています。これに単色のペンキでタッチアップすると、複雑な意匠を「塗りつぶす」行為になり、遠目にも不自然な補修跡が残ります。
さらに「メタメリズム(条件等色)」という現象があり、ホームセンターの店内照明では完璧に色が合って見えても、太陽光の下では全く違う色に見える。純正塗料と市販塗料では顔料の化学組成が異なるため、これは避けられません。
【レッドゾーン②】コーキング補修 — 最も被害が大きいDIY
タッチアップ以上にトラブルが頻発し、建物の寿命に直結するのがコーキング(シーリング)のDIY補修です。
最悪の選択:シリコンシーリング材
ホームセンターで最も安価(1本300〜500円)で手に入る「シリコンシーラント」。キッチンや浴室用として売られていますが、外壁に使うと取り返しのつかない事態を招きます。
シリコーンオイルの移行(ブリード):硬化後もシリコンオイルが表面に染み出し続け、周囲の外壁を汚染します。雨垂れと共に黒ずんだ汚れが広範囲に広がり、洗浄しても落ちません。
塗装が永久に不可能になる:シリコンオイルが付着した部分は、あらゆる塗料を弾く「ハジキ」現象を起こします。いかなる高価なプライマーを使っても密着しません。将来プロが塗装しようとしても、シリコンが流れた周辺の外壁面まで塗装不能になるのです。
実例:300円のシリコンが25万円に化けた話
築13年のサイディング住宅。退職後のご主人が、目地のひび割れをホームセンターのシリコンシーラント(防カビ剤入り)で補修。プライマーなしで、手の届く範囲すべてに塗りつけました。
2年後、ハウスメーカーの15年点検で「この部分は塗装できません」と告げられ、周辺の壁は黒く変色。
修復のため、専任の職人2名が3日間かけてシリコンを削り取り、逆プライマーで汚染を封じ込める処理を実施。追加費用25万円。しかもサイディング表面に削り跡が残りました。
「300円のシリコン数本で済ませるつもりが、25万円の赤字になった」。 これがシリコン汚染の現実です。
「増し打ち」も禁忌
DIYサイトで「古いコーキングの上から新しいものを塗る(増し打ち)」が紹介されていますが、ハウスメーカーのサイディング目地では禁忌です。
厚み不足による破断:シーリング材が防水機能を発揮するには設計上の厚み(通常10mm以上)が必要。数ミリの増し打ちではサイディングの熱収縮に追従できず、数ヶ月で剥離します。
3面接着によるサイディング破壊:目地は左右の板の動きを吸収するため、底には接着させない「2面接着」が原則。DIYで無造作に充填すると底にも接着する「3面接着」になり、収縮時にサイディングの小口を引っ張って割ります。
プライマー省略:プロは被着体とシーリング材の接着力を確保するため専用プライマーを塗布します。これを省略すると、シーリング材は「隙間に挟まっているゴム」にすぎず、防水機能ゼロです。
→ シーリング材の正しい選定は見積書の読み方ガイドで解説しています。
【レッドゾーン③】ガスケットへの介入 — 建物の止水を破壊
セキスイハイムやダイワハウスの一部で使われている乾式ガスケット(定型目地)は、一般のコーキングとは全く異なる工業化部材です。
ガスケットに塗装してはいけない
ガスケットは塩ビやEPDMゴムなどの高耐久素材で作られており、塗装を必要としない、あるいは塗装適性がない部材です。
市販の油性塗料を塗ると、ガスケットの可塑剤が塗膜に移行し、塗膜がいつまでも乾かずベタつく状態(タック)になります。空気中の汚れを吸着し、目地が真っ黒な帯状に変色します。
さらに不適切な溶剤がゴムの弾力性を奪い、硬化したガスケットは地震や熱伸縮に追従できなくなります。
実例:ガスケットを埋めて100万円の雨漏り
セキスイハイムの築20年住宅。ガスケットの一部が浮いてきたため、変成シリコンコーキングで上から埋めました。
台風の翌日、サッシ周りのクロスにシミが発生。雨漏りです。
ガスケットの上に塗ったコーキングがガスケット本来の柔軟な動きを阻害。破断した箇所が「水受けポケット」のようになり、外壁を伝う雨水を積極的に内部へ引き込む構造になっていました。
修理には外壁パネルの取り外しが必要でしたが、コーキングで固められていたためガスケットが外せず、サッシ枠も破損。修繕費100万円超。
→ ガスケットの正しい対策はセキスイハイムの外壁メンテナンスガイドと
ダイワハウスの外壁塗装ガイドで解説しています。
【レッドゾーン④】高圧洗浄 — 「洗うだけなら安全」の嘘
家庭用高圧洗浄機の普及で「塗装はしなくても、洗うだけなら安全だろう」と考える方が多いですが、10MPaを超える高圧水流は凶器です。
通気層への逆流浸水
ハウスメーカーの住宅は外壁材の裏側に通気層を持つ「通気構法」です。
下から上への噴射がNG:外壁の重ね目(あいじゃくり)から通気層内部へ水が逆流します。透湿防水シートは上からの水には強いですが、下からの吹き上げには無力。防水シートを留めるタッカー穴から壁体内へ水が侵入し、カビ・断熱材の腐食・シロアリの誘引原因になります。
素材ごとの破壊リスク
ALC外壁(ヘーベルハウス等):ALCは内部に無数の気泡を持つ多孔質素材。高圧洗浄で塗膜が剥がれるとALC素地が露出し、スポンジのように吸水。冬場の凍結膨張で爆裂を引き起こします。
ガスケット・シーリング:劣化した目地材に至近距離で高圧水を当てると、水圧カッターのように切断・欠損させることがあります。
→ ALC外壁の特性はヘーベルハウスの外壁塗装ガイドで詳しく解説しています。
メーカー保証への致命的影響
DIY補修のリスクは物理的損傷だけではありません。ハウスメーカーの長期保証が失効する可能性があります。
「改変」とみなされるDIY行為
ハウスメーカーの保証規定には「引き渡し後の改築・改変に起因するもの」は保証対象外という免責条項が必ず含まれています。DIYによる塗装やコーキング充填は、メーカーの管理外の「改変」とみなされます。
因果関係の立証が不可能
DIY施工後に雨漏りが発生した場合、それが「経年劣化(保証対象)」なのか「DIYの施工不良(免責)」なのかが問題になります。メーカーは「不適切なDIY痕跡」を理由に保証履行を拒否する正当な権利を持ちます。施主が「DIYは関係ない」と反証することは、技術的に極めて困難です。
定期点検からの排除
5年・10年ごとの定期点検でDIYの不適切な補修が発見されると、その部位は「メーカーの管理外」として点検対象から外されます。保証延長プログラムへの加入も断られるケースがあり、将来の全修繕費が自己負担になります。
→ 保証の構造的な仕組みはハウスメーカーの外壁塗装はなぜ高い?で解説しています。
DIYの「節約」は幻想 — コスト比較
プロ施工 vs DIY失敗後のリカバリー
| 工事項目 | プロに最初から依頼 | DIY失敗後のリカバリー | 増額の理由 |
|---|---|---|---|
| 足場 | 15〜20万円 | 15〜20万円 | 変わらず |
| 高圧洗浄 | 3〜5万円 | 5〜8万円 | DIY塗料の剥離作業追加 |
| 下地処理 | 5〜10万円 | 20〜40万円 | ケレン(削り落とし)、シリコン撤去 |
| シーリング | 15〜25万円 | 25〜40万円 | シリコン除去、逆プライマー |
| 外壁塗装 | 60〜80万円 | 70〜100万円 | 特殊下塗り材、高隠蔽塗料 |
| ガスケット交換 | 40〜60万円 | 60〜100万円 | 接着剤まみれの撤去手間 |
| 合計 | 140〜200万円 | 200〜300万円 | 最大100万円以上の損失 |
最大100万円の「節約」のつもりが、100万円の「追加出費」に。 しかもDIYで使った材料費と時間は丸ごと無駄になります。
さらに目に見えない損失として、将来の売却時にDIY補修跡がホームインスペクション(住宅診断)で「維持管理状態が悪い」と判定され、売却価格の減額要因になります。
「人工」で考える — プロの技術の価値
私の著書『塗装方程式』の品質公式——品質=モチベーション×技術×時間。
DIY補修で決定的に欠けるのは「技術」の要素です。
シーリングの「2面接着」「プライマー選定」「適切な充填量」。難付着サイディングの「シンナーテスト」「専用プライマー」「パッチテスト」。ガスケットの「逆プライマー」「排水経路の確保」。これらはすべて、何百件もの現場で培った技術知識です。
人工(にんく)で考えると、プロの外壁塗装費用のうち「技術料」は全体の15〜20%程度。しかしこの15〜20%こそが、残り80〜85%の材料費・足場代を「意味のある投資」にするか「無駄金」にするかを分ける要素です。
技術がゼロなら、どれだけ時間とお金をかけても品質はゼロ。 これが塗装方程式の意味するところです。
→ 人工理論の詳細は人工(にんく)という視点で解説しています。
やっていいDIY — 3つのグリーンゾーン
ここまで「やってはいけない」ことを解説しましたが、プロでなくても安全にできる、かつ建物の寿命を延ばす有効なメンテナンスがあります。
①目視点検と記録(これが最も価値がある)
半年に一度、双眼鏡やスマートフォンのカメラで以下をチェックしてください。
・外壁のクラック(ひび割れ)
・シーリングの破断・痩せ
・藻・カビの発生
・サイディングの反り・浮き
異常箇所を写真に残し、日付と場所を記録する。 これにより、プロに相談する際に「いつから発生したか」を正確に伝えられ、無駄な工事を防げます。この記録こそ、DIYで行える最も価値の高いメンテナンスです。
→ 点検の判断基準は築10年の定期点検で「塗装が必要」と言われたらで解説しています。
②低圧水洗い(ソフトウォッシュ)
高圧洗浄機は使いません。 通常の水道ホースと散水ノズル(シャワーモード)を使います。
柔らかい洗車ブラシやスポンジで、強く擦らずに表面の汚れを落とす。特にサッシ下や換気フード下の雨筋汚れは、こまめに水で流すだけで定着を防げます。
③中性洗剤による藻・カビ除去
北面に発生した青藻は、台所用の中性洗剤を薄めて塗布し、しばらく放置してから水で流す。市販の外壁用クリーナー(塩化ベンザルコニウム配合の遅効性タイプ)は、擦る必要がなく外壁を傷つけにくいので推奨です。
グリーンゾーンとレッドゾーンの一覧
| 行為 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 目視点検と写真記録 | ✅ OK | 最も価値が高い。プロへの相談精度が上がる |
| 水道ホースでの低圧洗浄 | ✅ OK | 構造に影響しない |
| 中性洗剤での藻・カビ除去 | ✅ OK | 外壁を傷つけない |
| タッチアップ塗装 | ❌ NG | 難付着サイディングで剥離。意匠を破壊 |
| コーキング充填・打替え | ❌ NG | シリコン汚染、3面接着、プライマー不足 |
| ガスケットへの塗装・充填 | ❌ NG | ブリード、排水閉塞、交換不能 |
| 高圧洗浄 | ❌ NG | 通気層への逆流浸水、素材破壊 |
| パテ埋め | ❌ NG | 美観悪化、再発率が高い |
| 梯子での高所作業 | ❌ NG | 転落事故リスク+施工品質が確保できない |
まとめ — 賢いオーナーは「自分で塗らない」
ハウスメーカーの外壁は高度に設計された精密機器です。家電製品の基板を素人がハンダごてで修理しないのと同じように、HM外壁もDIY補修を受け入れる余地は極めて限られています。
DIYが引き起こす3つの損失
| 損失 | 内容 |
|---|---|
| 物理的損失 | 塗膜剥離、シリコン汚染、雨漏り、構造体へのダメージ |
| 経済的損失 | リカバリー費用100万円超。DIY費用は全額無駄 |
| 保証の損失 | メーカー長期保証の失効。全修繕費が自己負担 |
賢いオーナーの行動原則
DIYは「洗浄」と「点検」に留め、構造防水に関わる領域は不可侵とする。
刷毛を握ることではなく、適切な時期に点検し、適切なプロを選び、適切な対価を払って維持管理を委託する ——これがマネジメント能力であり、大切な資産を守る唯一の方法です。
「うちの外壁、これはDIYで直していい範囲?」と迷ったら、見積もり診断サービスにご相談ください。写真を送っていただければ、対処が必要か、自分でできる範囲か、50年の経験で判断いたします。
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この記事の解説動画
ハウスメーカーの外壁をDIYで補修してはいけない理由
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