外壁塗装の補助金・助成金を使うとき、最も危険なのは「安く済んだ」と喜んだ3年後に塗膜が剥がれることです。助成金対応をうたう業者の見積書には、施工品質を犠牲にしている「5つのサイン」が隠れています。この記事では、塗装歴50年の職人が見積書の読み方を人工(にんく)理論で解説します。
補助金が出ても手抜き工事なら意味がない
「助成金で20万円もらえるなら、少しでも安い業者に頼みたい」
その気持ちはよく分かります。でも、ここに落とし穴があるのです。
補助金・助成金の申請には「登録事業者」であることが求められるケースが多く、一部の業者は「補助金対応できます」という看板で集客しています。問題は、補助金の要件を満たすために塗料のグレードだけ上げて、肝心の施工時間(人工)を削る業者が存在することです。
たとえば、遮熱塗料を使えば自治体の助成金要件を満たせます。しかし、どれだけ高性能な塗料を使っても、下地処理を省略し、乾燥時間を無視して3回塗りを2日で終わらせれば、3年で剥がれます。
私が『塗装方程式』で提唱している品質の公式はこうです。
品質 = モチベーション × 技術 × 時間(人工)
塗料(技術の一部)だけ良くしても、時間=人工を削れば品質はゼロに近づきます。掛け算ですから、どれか一つがゼロなら結果もゼロです。
これから紹介する「5つのサイン」は、私が500件以上の見積書を診断してきた中で、助成金対応の見積もりに特に多いパターンです。手元の見積書と照らし合わせてみてください。
サイン①:30坪の外壁塗装が「5日で終わる」工程表
助成金対応の見積もりでよく見るのが、異常に短い工期設定です。
30坪(約100㎡)の外壁塗装をまともにやるには、以下の工程と人工が必要です。
| 工程 | 標準人工数 | 内容 |
|---|---|---|
| 足場設置 | 1〜1.5人工 | くさび式足場の組立 |
| 高圧洗浄 | 1人工 | 150気圧以上で汚れ・旧塗膜の除去 |
| 養生 | 2〜3人工 | 窓・サッシ・植栽のマスキング |
| 下地処理 | 5〜7人工 | クラック補修・シーリング打替え |
| 下塗り | 2〜3人工 | プライマー・シーラー塗布 |
| 中塗り | 3〜4人工 | 1回目の仕上げ塗装 |
| 上塗り | 3〜4人工 | 2回目の仕上げ塗装 |
| 付帯部塗装 | 3〜4人工 | 雨樋・破風・軒天など |
| 足場解体・清掃 | 1〜1.5人工 | 足場撤去と最終確認 |
| 合計 | 約22〜29人工 |
2人の職人で作業しても、最低11〜15日間かかる計算です。
ところが、助成金対応の見積もりで「工期5日」「実働7日」と書かれているものを何度も見てきました。物理的に不可能な工期が設定されている場合、乾燥時間の無視か工程の省略が前提です。
チェックポイント:見積書に「工程表」が添付されていない場合は、必ず「全部で何日かかりますか?」と聞いてください。答えが「1週間」なら、どの工程を省略するつもりなのか確認すべきです。
→ 人工理論の詳しい解説は「人工理論完全講義」をご覧ください。
サイン②:見積書に「人工」の記載がない
まともな塗装業者の見積書には、各工程の「人工数」または「職人数×日数」が記載されています。
しかし、助成金対応の見積もりで多いのが、塗料名と面積と金額だけが書かれたパターンです。
危険な見積書の例:
外壁塗装(シリコン塗料) 180㎡ @2,500円 450,000円
付帯部塗装 一式 80,000円
足場 一式 180,000円
このような見積書では、「何人の職人が何日かけて塗るのか」が全く分かりません。
安全な見積書の例:
外壁塗装(日本ペイント パーフェクトトップ)
下塗り シーラー 180㎡ 3人工
中塗り 180㎡ 4人工
上塗り 180㎡ 4人工
付帯部塗装
雨樋・破風・軒天 一式 3人工
人工が明記されていれば、その業者が「何日かけて丁寧にやるつもりか」が一目で分かります。
チェックポイント:見積書に人工数が書かれていなければ、「この工事は全部で何人工ですか?」と質問してください。この質問に即答できる業者は、工程管理ができている証拠です。答えられない業者は、そもそも施工計画を立てていない可能性があります。
→ 見積書の構造を深く理解したい方は「原価構造完全ガイド」もあわせてどうぞ。
サイン③:「一式」が3行以上ある見積書
「一式」という表記自体は悪いものではありません。足場や養生は「一式」で見積もるのが一般的です。
問題は、「一式」が3行以上続く見積書です。
外壁塗装 一式 500,000円
付帯部塗装 一式 80,000円
下地処理 一式 50,000円
防水工事 一式 60,000円
足場・養生 一式 180,000円
このような見積書は、助成金の申請書類さえ通ればいいという発想で作られたものの可能性があります。「一式」の中身がブラックボックスでは、何にいくらかかっているのか施主には分かりません。
特に「下地処理 一式」は要注意です。下地処理は外壁塗装の品質を左右する最も重要な工程で、クラック補修、シーリング打替え、ケレンなど複数の作業が含まれます。これを「一式」でまとめること自体が、工程を詳細に管理していない証拠です。
チェックポイント:「一式」の内訳を聞いてください。「下地処理の一式には何が含まれますか?シーリングは打替えですか、増し打ちですか?」と聞くだけで、業者の誠実さが分かります。
サイン④:塗料名が正式名称で書かれていない
助成金申請では、使用する塗料の仕様が要件を満たしていることを証明する必要があります。にもかかわらず、見積書に塗料の正式名称が書かれていないケースがあります。
危険な表記:「シリコン塗料」「遮熱塗装」「高耐久塗料」
安全な表記:「日本ペイント サーモアイウォールSi」「エスケー化研 クールタイトSi」「関西ペイント アレスクールウォール」
正式名称が書かれていれば、その塗料のカタログスペック(日射反射率、耐候年数、JIS規格適合)を自分で確認できます。特に遮熱塗装の助成金を狙う場合、JIS K 5602に基づく日射反射率50%以上が要件になる自治体が多いので、塗料名が曖昧では要件を満たしているかすら判断できません。
さらに怖いのは、見積書に書かれた塗料と実際に現場で使われる塗料が違うケースです。正式名称が書かれていなければ、後から「当初の予定と変更しました」と言い逃れされる余地が残ります。
チェックポイント:見積書の塗料名をメーカーの公式サイトで検索してください。ヒットしない場合は業者に正式な製品名を確認しましょう。
サイン⑤:乾燥時間を無視した工程表
塗料メーカーが定める「塗り重ね乾燥時間」は、品質を担保するための最低条件です。
たとえば、日本ペイントのパーフェクトトップ(ラジカル制御型塗料)の場合:
| 気温 | 塗り重ね乾燥時間 |
|---|---|
| 23℃ | 3時間以上 |
| 冬季(5〜10℃) | 6時間以上 |
つまり、1日に下塗りと中塗りを同じ面で重ねることは、メーカーの仕様上ギリギリ可能でも推奨されないのです。ましてや冬場に「今日中に3回塗ります」という業者は、乾燥時間を完全に無視しています。
助成金対応の工事で特に危険なのは、補助金の予算枠が埋まる前に着工・完了したいという焦りから、工期を圧縮するケースです。本来10日かかる工事を7日で終わらせれば、どこかの乾燥時間が犠牲になります。
生乾きの上に塗料を重ねると何が起きるか? 内部に閉じ込められた水分が蒸発しようとして塗膜を押し上げ、膨れ・剥離の原因になります。これが「3年後に起きる失敗」の正体です。
チェックポイント:工程表があれば、下塗り→中塗り→上塗りの間に最低1日ずつ空いているかを確認してください。同じ日に2工程が入っていたら、乾燥時間について質問すべきです。
人工理論で見積書をセルフチェックする方法
ここまで読んでいただいた方なら、見積書を見る目が変わっているはずです。
最後に、人工理論を使った簡易チェック法をお伝えします。
ステップ1:総人工数を確認する
見積書から人工数を読み取ります。記載がなければ、「全部で何人工ですか?」と業者に聞いてください。
30坪の外壁塗装の目安:最低ライン20人工、標準22〜25人工、丁寧な施工25〜29人工。
ステップ2:工期と人数で逆算する
業者から聞いた工期と職人数で、実際の人工数を逆算します。
計算式:人工数 = 職人数 × 実働日数
たとえば「職人2人で8日間」なら、2×8=16人工。30坪の標準(22〜25人工)に対して6〜9人工足りません。これは下地処理や養生を大幅に省略しないと成立しない数字です。
ステップ3:塗装方程式で品質を予測する
品質 = モチベーション × 技術 × 時間
時間(人工)が足りなければ、どれだけ良い塗料でも品質は上がりません。モチベーション面でも、助成金の予算消化を急がされる現場では職人の士気が下がります。いくら腕が良くても、物理的な時間がなければ技術を発揮できないのです。
補助金で20万円得したつもりが、3年後に100万円の塗り直し費用がかかったら、差し引き80万円の損です。
あなたの見積書、補助金の要件を満たしつつ、十分な人工が確保されていますか?
→ 見積もり診断(¥3,000)で人工理論に基づいた第三者チェックを受ける
まとめ:¥3,000で100万円の失敗を防ぐ
助成金を使って外壁塗装をすること自体は、賢い選択です。問題は、「助成金で安くなった」という安心感が、見積書を精査する目を曇らせることにあります。
今日お伝えした5つのサイン:
1. 30坪で「5日完了」の工程表 → 物理的に不可能な工期
2. 見積書に人工の記載がない → 施工計画が存在しない
3. 「一式」が3行以上 → 中身がブラックボックス
4. 塗料名が正式名称でない → 仕様の検証ができない
5. 乾燥時間を無視した工程 → 3年後の剥離リスク
一つでも当てはまったら、その見積書は要注意です。
補助金で20万円得する前に、¥3,000で100万円の失敗を防ぎませんか?
塗装歴50年の職人が、あなたの見積書を人工理論で解剖します。
この記事の監修者
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
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FAQ
Q1: 助成金対応の業者は全て怪しいのですか?
A1: いいえ。助成金対応の登録事業者は申請手続きに慣れているメリットがあります。問題は「助成金対応」を看板にして集客し、施工品質を犠牲にする一部の業者です。見積書の人工数で判断してください。
Q2: 見積書に人工が書かれていない場合、その業者は避けるべきですか?
A2: 即座に避ける必要はありませんが、「この工事は全部で何人工ですか?」と質問してください。具体的な数字で答えられる業者は信頼できます。曖昧な回答しかできない場合は注意が必要です。
Q3: 30坪で20人工より少ない見積もりは全て手抜きですか?
A3: 建物の状態(劣化が少ない・シーリング打替え不要など)によっては20人工を下回ることもあります。ただし15人工以下はどんな条件でも工程省略が疑われます。
Q4: 助成金の申請と施工品質チェックを同時に頼める業者はいますか?
A4: 助成金の申請は施工業者が行いますが、施工品質のチェックは第三者が行うべきです。「ペンキのミカタ」の見積もり診断(¥3,000)では、助成金対応の仕様を満たしつつ十分な人工が確保されているかを第三者目線でチェックします。
Q5: すでに契約してしまった場合でも見積もり診断は意味がありますか?
A5: 契約後でも工事開始前であれば、見積もり診断で問題点を指摘した上で業者に改善を求めることができます。また、契約から8日以内であればクーリングオフが可能な場合もあります。
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