外壁塗装の見積書を受け取って、「一式」という表記が目に入ったとき、あなたはどう感じますか?
「一式って書かれると中身がわからない」「一式=手抜きでは?」——こう考える方は少なくありません。しかし、ここで断言しておきます。
「一式=悪」は思考停止です。
見積書の「一式」には、OKな一式とNGな一式があります。運搬費や諸経費を一式で表記するのは、業界の商慣習として正常です。しかし、外壁塗装の本体工事やシーリング、ケレンといった品質を左右する工程まで一式にしている見積書は、注意が必要です。
問題の本質は、「一式」という表記そのものではなく、下地処理というグレーゾーンが「一式」の裏に隠されることにあります。
この記事では、50年以上の現場経験をもとに、一式表記の見分け方、業者に聞くべき質問、そして人工数(にんくすう)による検証方法をお伝えします。
「一式」のOK・NG判定基準
まず、見積書に「一式」と書かれている項目を見たとき、すべてを疑う必要はありません。以下の基準で判断してください。
運搬費一式:資材の運搬コストは物件ごとに大きく変わらない 諸経費一式:事務管理費や保険料など、細分化しにくい費用 産廃処理一式:廃棄物の量は施工後でないと確定しにくい 足場一式:㎡単価×面積で出すのが本来だが、一式でも許容範囲
外壁塗装一式:塗装面積(㎡)×単価で出すのが基本。面積が不明なまま金額を出している シーリング一式:打ち替えか打ち増しか不明。メートル数と単価がないと適正価格がわからない ケレン一式:下地処理の範囲と手間が不明。最も手抜きされやすい工程 下塗り一式:使用する下塗り材の製品名がわからない。外壁材に合わない汎用品の可能性
判断基準はシンプルです。「㎡」や「m」で数量化できる項目が一式になっている場合は、理由を確認すべきです。数量化できない項目の一式は問題ありません。
「一式」の裏で消える3大工程
「一式」表記が本当に問題になるのは、以下の3つの工程です。いずれも品質に直結しますが、完成後には見えなくなる工程ばかりです。
シーリング一式 → 打ち替えが打ち増しにすり替わる
サイディング外壁の目地に充填されているシーリング(コーキング)は、経年劣化でひび割れや痩せが発生します。その補修方法には「打ち替え」と「打ち増し」の2種類があります。
打ち替えは、既存のシーリングをすべて撤去してから新しい材料を充填する方法です。打ち増しは、既存のシーリングの上から新しい材料を重ねる方法です。
「シーリング一式」と書かれているだけでは、どちらの工法なのかわかりません。打ち替えは撤去作業が入るため打ち増しの2〜3倍の手間がかかります。「一式」で安くなっている場合、打ち替えが必要な箇所まで打ち増しで済まされる可能性があります。
さらに重要なのが接着面の違いです。正しいシーリング施工では、目地の底にボンドブレーカーを入れて左右2面だけで接着する「2面接着」にします。底面まで接着する「3面接着」では、建物の動きに追従できず、シーリングが早期にひび割れます。
「シーリング一式」には、こうした工法の違いが一切反映されていないのです。
ケレン一式 → 目荒らし省略、掃除程度で終わる
ケレンとは、塗装前に行う下地処理のことです。サビ落とし、旧塗膜の除去、目荒らし(塗料の密着を良くするために表面に細かい傷をつける作業)を含みます。
30坪の住宅で適切にケレンを行う場合、1〜2人工(職人1人で1〜2日分の作業量)は最低限必要です。
しかし「ケレン一式」と書かれている見積書で、金額が数千円〜1万円程度しか計上されていない場合は要注意です。その金額ではサンドペーパーで軽く撫でる程度の作業しかできません。
ケレンが不十分だと、いくら高級な塗料を塗っても密着しません。数年で塗膜が浮き上がり、剥がれが発生します。塗り替えの仕上がりを左右する最も重要な工程が、「一式」の一言で省略されるのです。
シーラー(下塗り材)一式 → 汎用品へのすり替え
下塗り材は、外壁と上塗り塗料をつなぐ「接着剤」の役割を果たします。外壁材の種類や状態によって、最適な下塗り材は異なります。
「下塗り一式」と書かれていると、具体的にどの製品を使うのかがわかりません。
特に注意が必要なのがモニエル瓦です。モニエル瓦には表面にスラリー層(着色セメント層)があり、これを適切に処理してから専用のスラリー強化プライマーを塗る必要があります。汎用のシーラーでは密着不良を起こし、塗膜が丸ごと剥離するケースがあります。
外壁材に合わない下塗り材を使われても、上塗り後の見た目は変わりません。問題が表面化するのは2〜3年後です。そのとき「一式」の中身を検証することは、もう不可能です。
なぜ下地処理が「グレーゾーン」になるのか
上記3つの工程に共通するのは、すべて「下地処理」に関わる工程だということです。なぜ下地処理ばかりが曖昧にされるのか。その構造的な理由があります。
理由1:完成後に見えない。下地処理は上塗りで完全に隠れます。お客さんが完成後に確認できるのは仕上がりの美しさだけで、下地がどう処理されたかは外見からは判断できません。
理由2:数値化しにくい。外壁の劣化状況は、実際に足場を組んで近くで見るまで正確にはわかりません。クラック(ひび割れ)の本数、シーリングの劣化度合い、サビの範囲——これらは事前の目視では限界があります。だからこそ「一式」で逃げやすいのです。
理由3:コストカット効果が大きい。元請け→下請けの多層構造では、利益を確保するために工事費を圧縮する必要があります。そのとき真っ先に削られるのが下地処理です。上塗り塗料のグレードを下げるとお客さんにバレますが、下地処理を省略しても見た目は変わらないからです。
ここで、私が提唱する塗装方程式を思い出してください。
品質(Q)= モチベーション(M)× 技術(T)× 時間(T)
「一式」で下地処理の時間が圧縮されるということは、この方程式の「時間」がゼロに近づくということです。掛け算ですから、時間がゼロなら品質もゼロになります。
業者への質問テンプレート5選
見積書に「一式」表記がある場合、以下の質問を業者に投げかけてください。回答の内容だけでなく、回答の仕方でも業者の姿勢がわかります。
質問1:「一式の内訳を教えてください」
「一式で出していますが、内訳を書き直しましょうか?」と提案してくれる。 具体的な数量(㎡・m)と単価に分解して説明してくれる。
「うちはいつもこの書き方です」と変更を拒否する。 「一式のほうがわかりやすいでしょう?」とはぐらかす。
書き直しを提案してくれる業者は、見積書の透明性を重視しています。逆に、一式表記を頑なに変えない業者は、中身を見せたくない理由がある可能性があります。
質問2:「シーリングは打ち替えですか、打ち増しですか?」
「目地は全面打ち替え、サッシ周りは打ち増しです。サッシ周りは撤去すると防水層を傷めるリスクがあるので打ち増しにしています」と使い分けの理由まで説明してくれる。
「全部打ち増しです」(コスト削減の可能性)。 「打ち替えです」と言いながらメートル数を答えられない。
打ち替えと打ち増しを適切に使い分け、その理由を説明できる業者は、シーリング工事を理解しています。
質問3:「ケレンは何日かかりますか?」
「1〜2日はかかりますね。鉄部のサビが多ければもう少しかかるかもしれません」と具体的な日数(人工数)で答えてくれる。
「高圧洗浄で一緒にやります」とケレンと洗浄を混同している。 「半日もあれば終わりますよ」と極端に短い。
ケレンと高圧洗浄はまったく別の作業です。高圧洗浄は汚れやコケを落とす作業、ケレンはサビ落としや目荒らしをする作業です。この2つを混同している業者は、下地処理への意識が低いと判断できます。
質問4:「下塗り材の製品名を教えてください」
「○○メーカーの△△プライマーを使います。お宅の外壁材には浸透性のシーラーが合うので」と製品名と選定理由をセットで説明してくれる。
「シリコン系のシーラーです」とグレード名だけで製品名を答えられない。 「現場に合わせて決めます」と曖昧に濁す。
下塗り材は外壁材との相性が重要です。製品名を即答できるということは、あなたの外壁に合った材料をきちんと選定しているということです。
質問5:「この面積の数字はどう出しましたか?」
「実測しました」「図面から算出しています」と根拠を示してくれる。
「坪数から概算で出しています」と目安だけで算出。 面積の根拠を説明できない。
正確な見積もりは正確な数量から始まります。実測や図面に基づいた数量であれば、見積もりの精度は高いと判断できます。逆に、坪数だけで概算している場合は、面積の過大・過少による金額のブレが大きくなります。
人工数で「一式」を検証する
見積書に「一式」が多い場合でも、人工数(にんくすう)で逆算すれば、工事の実態が見えてきます。
人工とは、職人1人が1日(約8時間)で行える作業量を表す単位です。30坪の住宅で外壁塗装に必要な総人工数の目安は以下のとおりです。
足場組立・解体:2〜3人工 ケレン・高圧洗浄:2〜3人工 養生:0.5〜1人工 シーリング(打ち替え):2〜4人工 下地補修:1〜3人工 下塗り:1〜2人工 中塗り・上塗り:3〜5人工 付帯部塗装:2〜3人工 検査・清掃:0.5〜1人工 合計:25〜35人工(屋根塗装含む場合はさらに加算)
このうち、下地処理(ケレン・シーリング・下地補修・下塗り)だけで5〜8人工を占めています。
見積書の工期や職人の人数から逆算して、下地処理の人工数が3人工未満になる場合は、工程が省略されている可能性があります。
「一式」と書かれた項目を人工数に分解してみてください。「シーリング一式 5万円」と書かれていても、打ち替えに必要な人工数(2〜4人工)から考えれば、その金額で足りるかどうかは計算できます。
「一式」を人工数で分解すれば、時間が見える。時間が見えれば、品質が見える。
まとめ
外壁塗装の見積書における「一式」表記は、それ自体が悪ではありません。運搬費や諸経費の一式は正常な商慣習です。
しかし、数量化できる項目(外壁面積、シーリングのm数、ケレン範囲)まで一式にしている見積書は、見積書の作成自体に手を抜いている証拠です。
「一式」は業者の姿勢を映す鏡です。見積書の書き方に、その業者の仕事への向き合い方が表れます。
迷ったら、たった一言聞いてください。「一式の中身は何ですか?」
この質問に対する反応が、その業者の信頼度を測る最も確実なバロメーターです。
まずは見積書の読み方を知りたい方へ
→ 外壁塗装の見積書の見方|7つのチェックポイントをプロが解説
工期の妥当性を人工数で確認したい方へ
→ 外壁塗装の適正工期は何日?人工(にんく)理論で手抜きを見抜く方法
見積もりの妥当性を今すぐ確認したい方へ
▶ この記事は「見積もり・費用」カテゴリのガイド記事です。見積書の総合的な判断基準は外壁塗装の見積書は「金額」で比べるな|人工で読む適正価格の判断基準をご覧ください。
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