2000年以前に建てられた家の80%以上は「直貼りサイディング」です。この工法に弾性塗料を塗ると、壁の中の水蒸気が1,700倍に膨張して塗膜を押し上げる。水切りに定規を差すだけで、あなたの家が直貼りかどうかを確認できます。
直貼りサイディングに塗装すると膨れる──水蒸気1,700倍膨張の科学
あなたの家は「直貼り」か「通気工法」か──築年数で80%わかる
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外壁塗装を検討する前に、まず確認すべきことがあります。あなたの家のサイディングは「直貼り」か「通気工法」か。この違いで、塗装できるかどうかが決まります。
1990年代、窯業系サイディングは工期短縮の切り札として爆発的に普及しました。当時の施工基準では、柱や防水シートの上に直接サイディングボードを釘打ちする「直貼り工法」が標準。壁の中に空気を通す層(通気層)を設けるという発想は、まだありませんでした。
| 築年数 | 工法 | 直貼りの可能性 |
|---|---|---|
| 2009年以降 | 通気工法が標準 | 極めて低い |
| 2000〜2008年 | 移行期 | 40〜60% |
| 2000年以前 | 直貼りが主流 | 80%以上 |
転換点は2つありました。2000年の品確法(住宅品質確保促進法)で10年間の瑕疵担保責任が義務付けられ、壁内部の結露リスクが意識されるようになった。そして2009年の住宅瑕疵担保履行法で、通気工法が事実上の義務となりました。
さらに注意すべきは、サイディングの厚みです。直貼り時代は12mm厚の薄型ボードが主流でした。現在の標準は14mm以上。12mm厚のサイディングが使われていたら、それだけで直貼り時代の住宅と推定できます。
築25年以上の家は、まず「直貼りかどうか」を確認してから見積もりを取る。この順番を逆にすると、塗れない家に塗る見積もりを比較することになります。
水切りに定規を差すだけ──直貼りの確認方法
直貼りか通気工法かを、施主が自分で確認する方法は3つあります。
方法①:土台水切りの定規法(最も確実)
外壁の一番下にある金属の水切り板金を見てください。水切りとサイディングの間にわずかな隙間があります。ここに定規やカードを差し込みます。
| 差し込みの深さ | 判定 |
|---|---|
| 10〜16mm(ボードの厚みだけで止まる) | 直貼りの疑い |
| 20〜30mm以上(奥に空間がある) | 通気工法の疑い |
通気工法では、サイディングの裏側に15〜20mmの通気層(胴縁で作る空間)があるため、定規が奥まで入ります。直貼りでは、ボードの裏はすぐ防水シートや構造用合板に突き当たるため、浅くしか入りません。
方法②:窓サッシの出幅を確認する
窓枠(サッシ)と外壁面の関係を見てください。通気工法では通気層の厚み分だけ外壁面が前に出るため、サッシ枠との間に明確な段差が生じます。サッシ枠が外壁面からほとんど出ていない、あるいは外壁の方が前に出ている場合は、直貼りの可能性が高い。
方法③:建築図面の「矩計図」を確認する
建築時の設計図書に「矩計図(かなばかりず)」という断面図があります。壁の構成に「通気層」「胴縁」の記載があれば通気工法。なければ直貼りです。
図面では通気工法になっていても、現場で手抜きされて直貼りにされているケースもあります。必ず方法①の現物確認と併用してください。
なぜ直貼りサイディングで膨れるのか──水蒸気1,700倍膨張の科学
「直貼りに塗装すると膨れる」。多くの記事がこう書いています。しかし「なぜ膨れるのか」の物理的なメカニズムまで説明している記事はほとんどありません。
直貼り工法では、サイディングの裏側に通気層がない。そのため、室内から壁体内に透過した湿気や、シーリングの破断箇所から浸入した雨水が、ボードと防水シートの間に滞留します。
夏場、直射日光を受けた外壁の表面温度は60〜80°Cに達します。この熱がサイディング内部の水分を加熱し、蒸発を促す。
水が水蒸気に変わると体積は約1,700倍に膨張する──これは100°C・1気圧で沸騰した場合の数字です。外壁が60〜80°Cでは沸騰はしません。しかし、直貼りの壁の中は「閉鎖空間」です。蒸気の逃げ場がない。80°Cの飽和蒸気圧は約47kPa(大気圧の約半分)。小さな面積でも、塗膜を内側から押し上げるには十分な圧力です。
通気工法なら、この水蒸気は通気層を通って外部へ放出される。しかし直貼りでは逃げ場がない。さらに表面に塗装という「蓋」をしてしまうと、行き場を失った蒸気圧が塗膜を押し上げ、巨大な膨れを形成します。
弾性塗料がNGな3つの理由
直貼りサイディングに弾性塗料を塗ることは、最悪の選択です。
1つ目の理由は、弾性塗料の塗膜は緻密で厚く、水蒸気をほとんど通さないこと。透湿性が極めて低い「強力な蓋」になってしまう。
2つ目は、弾性塗料は夏場の高温下で軟化すること。柔らかくなった塗膜は、内部のわずかな蒸気圧にも容易に変形し、バルーン状に膨らみます。
3つ目は、常に水分に晒される界面では、塗膜の接着強度が低下すること。膨れが容易に剥離へと進展します。
冬場の凍害リスク
夏だけではありません。冬場は、滞留した水分が夜間に凍結。体積が約9%膨張し、この凍結圧がサイディング内部の微細な隙間を破壊する「凍害」を引き起こします。このサイクルが繰り返されると、セメント質が脆弱化し、塗装しても下地ごと剥落する。
「塗装すると膨れます」で終わらせない。水蒸気が1,700倍に膨張するという物理法則の前では、どんな高級塗料も無力。これは施工の問題ではなく、構造の問題です。
直貼りでも塗装できるケース──透湿性塗料の選定基準
直貼りサイディングは「絶対に塗装不可」ではありません。条件を満たせば「延命」は可能です。ただし、リスクを理解した上での選択になります。
適合塗料の3つの要件
1つ目は、1液水性系であること。2液形や溶剤系に比べて塗膜が薄く、透湿性を確保しやすい傾向があります。ただし、弱溶剤でも透湿性が確保されている製品は選択肢に入ります。
2つ目は、淡彩色(明度70以上)を選ぶこと。濃い色は太陽熱を吸収しやすく、内部の水蒸気圧を急激に上昇させます。
3つ目は、遮熱機能が付加されていること。下地の温度上昇を抑制し、水蒸気膨張のエネルギー源を遮断できます。
メーカー推奨製品
日本ペイントの「ファインパーフェクトトップ」は1液弱溶剤ですが、透湿性が確保されており、直貼り物件への施工実績があります。水性系が理想ですが、この製品は弱溶剤でありながら透湿性を両立させた設計です。エスケー化研の「水性セラミシリコン」は水性系の高透湿製品群で、こちらも選択肢に入ります。
ただし「保証対象外」が前提
ここが最も重要な点です。多くの塗装業者は、直貼り物件の塗装において「膨れ・剥離」を保証の免責事項とします。構造上の問題であり、施工技術ではカバーできないためです。
「直貼り物件への塗装は保証対象外」と契約書に明記する業者は、むしろ誠実です。問題なのは、契約書の免責条項に小さく書いてあるだけで、口頭では「10年保証です」と言う業者。契約後に膨れが出て初めて「免責条項に書いてありますよね」と返される。
直貼りでも塗れます。ただし「膨れても保証対象外」です。この説明を口頭でも書面でも明確にしない業者は、リスクを施主に押し付けている。
塗装 vs カバー vs 張り替え──20年トータルコストで比較
直貼りサイディングの改修には3つの選択肢があります。
| 改修方法 | 30坪目安 | 膨れリスク | 根本解決 |
|---|---|---|---|
| 透湿性塗料で塗装 | 60〜100万円 | 高い(再発の可能性) | × |
| カバー工法 | 130〜250万円 | ほぼゼロ(新規通気層) | △ |
| 張り替え | 150〜350万円 | なし(通気工法へ刷新) | ◎ |
10年の視点で見れば、塗装が一番安い。しかし20年の視点で見ると、話が変わります。
塗装を2回繰り返すと60万×2=120万円。さらに足場代が2回分(20〜30万円×2=40〜60万円)かかります。1回目の塗装で膨れが発生した場合、補修費用も加算。膨れの補修+再塗装で追加30〜50万円。トータル190〜230万円。
カバー工法なら150〜250万円で、膨れリスクはほぼゼロ。新規の通気層が確保されるため、その後の塗り替えも通常の工法で対応できます。足場も1回で済みます。
「塗装が一番安い」は10年の話。20年で見ると、直貼り住宅に塗装を繰り返す方がカバー工法より高くつく。しかし「カバー工法を勧めましょう」とはポータルは言えない。塗装の紹介手数料が入らないからです。
カバー工法を検討する場合、2026年度の補助金制度を活用できる可能性があります。詳細は「2026年、塗装単独では補助金ゼロ──窓×給湯器との同時施工で27万円を取り戻す具体的パズル」をご覧ください。
直貼り物件の塗装で人工はどう変わるか
直貼りサイディングの塗装には、通気工法にはない追加工数が発生します。
| 追加工程 | 追加人工 | 理由 |
|---|---|---|
| 洗浄後の乾燥延長 | +2〜3人工(待機) | ボード裏の水分が抜けにくく、好天で3〜4日必要 |
| 既存膨れの補修 | +1〜2人工 | スクレイピング(剥離除去)+パテ処理 |
| 含水率チェック | +0.5人工 | 塗装前に含水率を測定し、基準値以下を確認 |
合計すると、通常のサイディング塗装の1.2〜1.5倍の人工が必要になります。④ピラーで示した窯業系サイディングの標準15人工に対して、直貼りなら18〜22人工が妥当です。
直貼りに15人工の見積もりは、通気工法と同じ工数。乾燥期間も膨れ補修も計上されていない。
人工理論で見ると|直貼りの「待機時間」も人工に含まれる
塗装方程式 Q=M×T×T のT(時間=人工)には、「作業時間」だけでなく「乾燥待機時間」も含まれます。
直貼りサイディングが通常の塗装と決定的に違うのは、この「待機人工」の存在です。前節で述べた洗浄後+2〜3日の乾燥期間、既存膨れの補修作業──これらは通気工法では発生しないコストです。
Q=M×T×T の式で考えると、直貼り物件ではTが物理的に大きくなる。標準の15人工が18〜22人工に増えるのは、職人の怠慢ではなく、構造が要求する時間です。この増加分を見積もりに反映しない業者は、乾燥を待たずに塗るか、膨れ補修を省略するかのどちらか。いずれも膨れの直接原因になります。
「早く塗り終わる=早く剥がれる」。直貼り物件では特にこの因果関係が顕著です。工期の短さが品質の低さを意味する典型的なケースといえます。
人工理論の全体像は「人工理論完全講義」で詳しく解説しています。
あなたの家は直貼りですか?見積もりの前に確認を
まず水切りに定規を差してみてください。10〜16mmで止まったら、直貼りの可能性があります。
直貼りかどうかの判定と、見積もりが直貼り対応になっているかどうかのチェックは、AI見積もり診断(500円)で行えます。築年数と外壁写真、見積書をアップロードするだけ。「弾性塗料の見積もりを直貼りの家に出されていた」──そんなリスクを事前に発見します。
2年後の全面膨れを、500円で回避します。
※中立性を保つため、愛知県内の方へはサービスを提供しておりません。
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著者: 横井隆之|愛知県で50年続く塗装店「ヨコイ塗装」2代目。施工実績500件以上。著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』がある。
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