この記事の監修者
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。200件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
はじめに
「工事が終わったから、書類は捨ててもいいですよね?」
200件以上の現場を経験してきた中で、このような質問を何度も受けてきました。答えは明確に「NO」です。
外壁塗装に関する記録は、工事が終わってからが本当の価値を発揮するのです。
私の著書『外壁塗装の不都合な真実』でも触れていますが、塗装業界には「情報の非対称性」という構造的な問題があります。施主は塗装の専門知識を持たないため、業者の施工内容を正確に評価することが難しい。この知識格差が、手抜き工事やトラブルの温床になっています。
しかし、記録を残すことで、この非対称性を逆転させることができます。
この記事では、外壁塗装の記録を「住まいの履歴書」として体系的に残す方法を、契約段階から工事完了後まで、時系列に沿って完全解説します。
記録を残す3つの意義
1. 手抜き工事の抑止力になる
経済学では、依頼主が代理人(業者)の行動を監視できない状況で、代理人が自己利益のために依頼主の利益を損なう行動を「モラルハザード」と呼びます。
施主が詳細な記録を残すという行為は、このモラルハザードを強力に抑止します。
私が提唱する「塗装方程式」では、品質 = モチベーション × 技術 × 時間と定義しています。
業者は「記録されている」と認識することで、手を抜くリスクが高まることを理解します。結果として、職人のモチベーションが上がり、契約通りの施工を行うインセンティブが働くのです。
2. 将来の資産価値を守る
中古住宅市場において、適切なメンテナンス履歴の有無は成約価格に直接影響します。
「いつ、誰が、どのような仕様で」修繕を行ったかが明確な物件は、インスペクション(建物状況調査)でも高く評価されます。逆に、記録が散逸している物件は、隠れた瑕疵のリスクが高いと見なされ、資産価値が毀損される可能性があります。
塗装工事の記録は、将来の売却益を最大化するための投資と捉えるべきです。
3. 次回塗装の判断材料になる
外壁塗装は10〜15年周期で行うメンテナンスです。次回の塗り替え時に、前回の記録があれば:
使用塗料の耐久性を検証できる(「フッ素塗料で15年持った」など)
前回の不具合箇所を重点チェックできる
同じ色番号で発注できる(部分補修時に重要)
前回の業者の仕事ぶりを評価できる
記録がなければ、また一からの手探りになります。
契約段階で保存すべき5つの書類
工事着手前の契約段階は、プロジェクトの「憲法」を定める最重要フェーズです。口頭での約束は法的効力の立証が困難なため、すべての合意事項を書面化し、体系的に保存してください。
必須書類一覧
工事請負契約書:工事名称、場所、工期、請負代金、支払条件、署名捺印。印紙の貼付も確認
請負契約約款:契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)、工期遅延時の損害賠償、紛争解決方法
請負代金内訳書:「一式」表記の排除。工程ごとの単価、数量(㎡)、塗料名が詳細に記載されているか
工程表:着工から完工までの日別作業予定。天候による予備日が設定されているか
保証書(案):保証対象、保証期間、免責事項を契約段階で確認
「一式」見積もりは記録価値ゼロ
「外壁塗装工事一式 100万円」という見積もりは、記録としての価値が皆無です。
内訳書には、以下の詳細が記載されていなければなりません:
仮設工事:足場架払い、飛散防止ネット(㎡単価)
下地調整:高圧洗浄、クラック補修、シーリング打ち替え
塗装工事:下塗り・中塗り・上塗りの各工程ごとの塗料名と㎡数
付帯部塗装:破風、鼻隠し、軒天、雨樋のm数または箇所数
これらの数値が、実際の建物の図面や実測値に基づいているかを検証し、その根拠資料も保存してください。
→ 詳しくは「外壁塗装 契約後にやることリスト」をご覧ください。
工事中の写真記録テクニック
撮影の基本原則
写真は「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうした」かが客観的にわかるものでなければなりません。
3つの基本ルール:
1. 黒板の活用:工事用黒板(またはスマホの電子小黒板アプリ)に「工事名」「撮影日」「施工箇所」「工程」を記載し、被写体と一緒に写し込む
2. 全景と近景のセット:工事箇所の全体がわかる「引きの写真」と、施工状況の詳細がわかる「寄りの写真」をセットで撮影
3. スケールの使用:クラックの幅を記録する場合、定規を当てて撮影し、数値的な根拠を残す
工程別撮影チェックリスト
施工前(Before)
着工前に建物の現状を詳細に記録します。工事によって生じた傷や破損との因果関係を明確にするためです。
✓施工前の撮影
- 外壁・屋根:既存のクラック、チョーキング、藻・苔の発生状況
- 外構・植栽:フェンス、門扉、庭木、車庫の状態
- 既存不具合:すでに破損している箇所(雨樋の割れなど)
足場設置・高圧洗浄
✓足場・洗浄の撮影
- 足場の安全性:飛散防止ネットに隙間がないか
- 高圧洗浄後の「乾燥した状態」:濡れた状態では汚れが落ちたか判別しにくい
- 洗浄から塗装までの乾燥期間(24〜48時間)を記録
→ 詳しくは「乾燥時間の確認方法」をご覧ください。
下地処理(最重要)
塗装の寿命を左右するのは、仕上げの塗料ではなく下地処理です。しかし、この工程は塗装後に完全に見えなくなります。
✓下地処理の撮影
- シーリング:既存撤去状況、プライマー塗布、新規充填、ヘラ押さえの各段階
- クラック補修:補修跡が残っている状態を撮影
塗装工程(下塗り・中塗り・上塗り)
✓塗装工程の撮影
- 各工程完了時の壁面
- 使用塗料の缶ラベル(商品名、色番号)を撮影し、契約内容と照合
色変え工法のすすめ:中塗りと上塗りの色を微妙に変えてもらうことで、塗り残しや工程省略が一目瞭然となります。
空き缶監査による品質証明
外壁塗装における最大のリスクは、塗料の「希釈率超過(薄めすぎ)」と「塗布量不足」です。これらは写真だけでは判別が難しい。
「空き缶」という物理的証拠を用いた定量的監査が必要です。
必要缶数の計算方法
塗料メーカーは、製品ごとに「基準塗布量(kg/㎡/回)」を定めています。
必要缶数 = 塗装面積(㎡) × 基準塗布量(kg/㎡) × 塗り回数 ÷ 1缶あたりの内容量(kg)
塗装面積150㎡、基準塗布量0.15kg/㎡、2回塗り(中・上)、1缶15kgの場合: 150 × 0.15 × 2 ÷ 15 = 3缶
空き缶監査の手順
1. 事前合意:契約時に「完了時に空き缶を確認し、写真に収めたい」と伝える
2. 実数カウント:現場の空き缶を数え、事前計算した必要数と照合
3. 内容確認:缶の中を覗き、本当に空か確認(底に数センチ残っていれば塗布量不足の疑い)
4. 希釈剤の確認:塗料缶に対して希釈剤が異常に多い場合、規定以上の希釈が疑われる
不整合発生時の対応
計算より空き缶が少ない場合、業者は「伸びが良かった」と弁明することがあります。
その弁明を記録し、メーカーのお客様相談室に問い合わせる。メーカーの見解(通常はNG)を証拠として、再塗装や減額交渉を行う。
乾燥時間の記録方法
塗料が本来の耐久性を発揮するには、適切な「乾燥時間(塗り重ね乾燥時間)」の遵守が科学的に不可欠です。
手抜きのメカニズム
多くの現場では、工期短縮のために「生乾き」状態で次の工程に進む不正が行われています。
朝に下塗り → 昼に中塗り → 夕方に上塗り(1日で完了) これでは塗膜が形成されず、数年後に剥離や膨れが発生します。
例えば日本ペイントの「パーフェクトトップ」は、23℃環境下で工程間に「3時間以上」の乾燥が必要と仕様書に明記されています。
タイムスタンプによる証明
この「見えない時間」を記録する方法は、写真のExifデータ(撮影日時情報)です。
定点撮影による時間差記録:
下塗り完了時:「2026/01/28 10:00」の日時入り写真
中塗り開始時:同じ場所で「2026/01/28 14:00」の日時入り写真
差分が4時間あれば、仕様書の「3時間以上」を満たしていることが証明できます。
天候・環境ログ
塗料の乾燥は気温と湿度に支配されます。一般的に「気温5℃以下、湿度85%以上」での塗装は禁止されています。
記録すべき項目:
工事期間中の毎日の天気・気温(天気予報アプリのスクショでOK)
雨天時の作業中止確認
雨上がり直後に濡れた壁に塗装していないかの確認
見守り塗装(ペイント)で自動記録する
アナログな写真整理は煩雑で、紛失リスクも伴います。見守り塗装(ペイント)を活用することで、施主主導の高度な情報管理が可能になります。
アプリ活用のメリット
リアルタイム性:チャット機能で気になった箇所を即座に質問、回答履歴が残る
クラウドバックアップ:スマホ故障やデータ消失のリスクがない
「言った言わない」の防止:すべてのやり取りが記録される
長期保存:工事完了後も数年後に振り返れる
当社の見守り塗装(ペイント)
私が開発した「見守り塗装(ペイント)」では、21工程の進捗をスマホで確認できます。
工程ごとの写真が自動で時系列整理
乾燥時間の自動計算・通知
職人との直接コミュニケーション
工事完了時に「品質レポート」を自動生成
→ 詳しくは「見守り塗装(ペイント)の詳細」をご覧ください。
完了検査の記録
工事が終わっても、すぐに足場を解体させてはいけません。足場がある状態でしか確認できない箇所をチェックする「完了検査」が品質確保のラストチャンスです。
完了検査チェックリスト
✓完了検査
- 高所・隠蔽部:軒天と外壁の取り合い、雨樋の裏側、破風板の継ぎ目
- 塗り残し・透け:太陽光の角度を変えて確認
- ライン出し:窓枠やサッシ周りの塗装ラインが真っ直ぐか
- 飛散・汚れ:窓ガラス、網戸、室外機、植栽への塗料飛散
- 塗り忘れ:雨戸の裏、戸袋の中、配管の裏
是正記録の残し方
1. 不具合箇所にマスキングテープを貼る
2. 「是正前」の写真を撮影
3. 修正後、「是正後」の写真を撮影
4. テープを剥がす
すべての是正完了後、業者が作成した「工事完了報告書」を受領し、自分の写真と照合してから署名捺印を行ってください。
長期保存と継承
デジタル+アナログのハイブリッド保存
デジタル保存:
撮影した全写真(整理済み)
契約書・見積書・保証書・報告書のスキャンデータ(PDF)
クラウドストレージ(Google Drive等)とUSBメモリの両方に保存
フォルダ名は「202601_外壁塗装工事_〇〇邸」のように具体的に
アナログ保存:
契約書・保証書の原本
塗料のカタログ(色番号が記載されたもの)
色見本帳の切り抜き
色番号の記録は特に重要です。将来、部分的な補修が必要になった際、同じ色の塗料を発注するために不可欠な情報となります。
「住まいの履歴書」としての活用
国土交通省が推進する「いえかるて(住宅履歴情報)」等の仕組みを活用し、記録を登録しておくことも有効です。
将来、住宅を売却する際、これらの詳細なメンテナンス記録が開示できれば、買主の安心感を醸成し、適正価格での売却、早期成約に繋がる強力な武器となります。
まとめ
外壁塗装の記録を残すことは、単なる思い出作りではありません。
手抜き工事の抑止力として機能する
将来の資産価値を守る投資である
次回塗装の判断材料になる
「記録する施主」と「記録しない施主」では、10年後、20年後に大きな差が生まれます。
記録を残すことは業者を疑うことではありません。業者と対等なパートナーシップを築き、互いに緊張感を持って最良の施工を目指すための建設的なコミュニケーション手段です。
愛着ある我が家を守り抜くための「住まいの履歴書」。この記事を参考に、ぜひ作成してみてください。
→ 記録を自動化したい方は「見守り塗装(ペイント)」をご活用ください。
→ 契約前の準備については「外壁塗装の予行演習」をご覧ください。
関連リンク
- 人工(にんく)理論 完全講義|原価から適正品質を見極める →
この記事の解説動画
外壁塗装の記録の残し方
この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県扶桑町でヨコイ塗装を経営。塗装業界50年以上の経験と500件を超える施工実績を持つ外壁塗装の専門家。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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