はじめに
「10日かかる工事を3日で終わらせます」
この言葉を聞いて、お得だと感じた方は要注意です。外壁塗装において、工期の短縮は品質低下と直結します。
この記事では、塗装業界が抱える構造的な問題と、なぜ「工期」が品質を見極める重要な指標になるのかを解説します。
塗装業界は「レモン市場」である
経済学に「レモン市場」という概念があります。これは、売り手と買い手の間に情報の差(情報の非対称性)があるために、粗悪品(レモン)ばかりが出回ってしまう市場のことです。
なぜ塗装業界は「レモン市場」になりやすいのか
- 塗ってしまえば品質が見えない:下地処理が適切だったか、乾燥時間を守ったかは外見からわからない
- 結果が出るのは数年後:手抜き工事は2〜3年後に剥がれや膨れとして現れる
- 専門知識がないと判断できない:塗料の種類、工程の妥当性を消費者が評価するのは困難
この情報格差のため、消費者は「価格」という見えやすい指標で判断せざるを得なくなります。すると、安さを売りにする業者が選ばれやすくなり、丁寧な仕事をする業者が淘汰されてしまう—— これが「悪貨が良貨を駆逐する」現象です。
だからこそ「工期」で判断する
見えない品質を判断するために、見える指標を使う必要があります。その中で最も有効なのが「工期」です。
丁寧な塗装には物理的に時間がかかります。下地処理、乾燥時間、塗り重ね—— これらを省略すれば工期は短くできますが、品質は必ず犠牲になります。工期は嘘をつきません。
外壁塗装の適正工期とは
一般的な戸建て住宅(30〜40坪)の外壁塗装には、14〜21日程度の工期が必要です。これは私が50年の経験から導き出した「丁寧な仕事」の基準です。
各工程に必要な日数の内訳
- 足場設置:1〜2日
- 高圧洗浄:1日(しっかり乾燥させる)
- 養生(マスキング):1日
- 下地処理(ケレン・補修):1〜2日
- コーキング工事:1〜2日
- 下塗り:1日
- 中塗り:1日(前日の乾燥確認後)
- 上塗り:1日(前日の乾燥確認後)
- 付帯部塗装(雨樋・破風など):2〜3日
- 検査・手直し:1日
- 足場撤去・清掃:1日
「1日1工程」が品質の基本
特に重要なのは、下塗り・中塗り・上塗りを別々の日に行うことです。
塗料メーカーが指定する乾燥時間は通常4時間以上ですが、これは最低ラインです。理想は「翌日まで乾燥させてから次の工程に進む」こと。これにより塗膜間の密着が確実になり、10年以上持つ塗装が実現します。
「7日で完了」「10日で終わります」という業者は、どこかの工程を省略しているか、乾燥時間を削っている可能性が高いのです。
なぜ工期が短縮されるのか(構造的要因)
工期短縮の背景には、塗装業界特有の構造的な問題があります。
1. 下請け・孫請け構造による単価圧縮
大手ハウスメーカーやリフォーム会社から工事を受注した場合、中間マージンが30〜50%差し引かれます。
例えば、お客様が100万円で契約した場合:
- 元請け会社の取り分:30〜50万円
- 実際の施工費:50〜70万円
この限られた予算で利益を出すために、工期を短縮せざるを得なくなります。「人工(にんく)」を削減することで、表面上は同じ工事でも実質的な手間を減らしているのです。
2. 広告費回収のための件数重視
一括見積もりサイトや大規模なWeb広告を展開している会社は、1件あたり数万円〜十数万円の広告費・紹介料がかかっています。
この広告費を回収するために:
- 1件あたりの工期を短くして、月の施工件数を増やす
- 職人を複数現場で掛け持ちさせる
- 下地処理などの「見えない工程」を省略する
結果として、1件1件に十分な時間をかけられなくなります。
3. 遠方からの職人による時間的制約
地元に職人がいない会社の場合、遠方から職人を派遣することになります。
- 宿泊費・交通費がかさむため、短期間で終わらせたい
- 職人自身も早く地元に帰りたい
- 移動時間を考慮すると、作業時間が限られる
こうした事情から、乾燥時間を十分に取らずに次の工程に進んでしまうケースがあります。
4. 足場レンタル費を抑えたい
足場を自社保有していない会社は、レンタル業者から足場を借りています。レンタル期間が長くなるほど費用がかさむため、できるだけ早く足場を返却したいという動機が働きます。
天候が悪くても「足場代がもったいない」と強行施工してしまうケースもあります。
短工期がもたらす品質リスク
工期を無理に短縮すると、以下のような品質問題が発生します。
乾燥時間不足による塗膜トラブル
塗料メーカーが指定する乾燥時間を守らないと、塗膜間の密着不良が起きます。
- 剥がれ(ピーリング):塗膜が下地から浮いて剥がれる
- 膨れ(ブリスター):塗膜内部に水分や溶剤が閉じ込められて膨らむ
- クラック(ひび割れ):塗膜が硬化不良でひび割れる
せっかく塗り替えても、本来の耐用年数(10〜15年)の半分も持たないケースがあります。
下地処理の省略
時間がない場合、最初に省略されるのが下地処理です。
- 高圧洗浄を短時間で済ませる(汚れやカビが残る)
- ケレン(錆落とし・目荒らし)を省略する
- ひび割れ補修を表面だけで済ませる
- コーキングの打ち替えを増し打ちに変更する
下地処理は「見えない工程」だからこそ、手抜きされやすいのです。そして下地が悪ければ、どんなに良い塗料を使っても長持ちしません。
天候無視の強行施工
工期に余裕がないと、悪天候でも作業を強行することがあります。
- 雨天施工:塗料に水分が混入し、密着不良の原因に
- 低温時の施工(気温5℃以下):塗料が正常に硬化しない
- 高湿度時の施工(湿度85%以上):結露による密着不良
塗料メーカーは施工条件を厳密に定めています。これを守らない施工は、保証対象外になることもあります。
適正工期を確保できる業者の特徴
以下の特徴を持つ業者は、適正な工期で丁寧な施工をする傾向があります。
元請け・直請けで受注している
中間マージンがないため、工事費用がそのまま施工に充てられます。職人に十分な人工代が支払われ、時間をかけた丁寧な仕事が可能になります。
自社足場を保有している
足場のレンタル費用がかからないため、コスト面で余裕があります。また、「早く足場を返さなきゃ」という焦りがないので、天候を見ながら適切な工期で進められます。
地域密着で口コミ集客
大規模な広告費をかけていないため、1件あたりに時間をかけられます。地元での評判が命なので、手抜き工事をする動機が低いのも特徴です。
見積書に「人工数」が明記されている
見積書に「○人工」と明記している業者は、適正な作業時間を確保する意識が高い証拠です。30坪の住宅であれば、最低でも20〜25人工は必要です。人工数が極端に少ない見積もりは要注意です。
見積もり時に確認すべきこと
契約前に以下の点を確認しましょう。
工程表の提示を求める
日付入りの工程表を提示できる業者は信頼できます。「○月○日〜○日は下塗り」のように具体的なスケジュールがあるかを確認してください。工程表がない業者は、行き当たりばったりの施工になりがちです。
「何日で終わりますか?」と聞く
この質問への回答で、業者の姿勢がわかります。
- 「14日〜21日程度、天候次第で延びることもあります」→ 誠実
- 「1週間で終わります」→ 要注意
- 「できるだけ早く終わらせます」→ 危険信号
各工程の日数と乾燥時間を確認
「下塗りと中塗りの間、どのくらい乾燥時間を取りますか?」と質問してみましょう。「最低4時間」「できれば翌日」と答える業者は適切です。「すぐ塗ります」「同じ日に塗ります」は危険信号です。
雨天時の対応を聞く
「雨が降った場合、工期はどうなりますか?」という質問への回答も重要です。「予備日を設けています」「天候次第で延期します」と答える業者は品質意識が高いと言えます。「雨でもやります」は論外です。
職人の本音:50年の経験から
私は50年間、塗装職人として現場に立ち続けてきました。その経験から、はっきり言えることがあります。
丁寧な仕事をするには、14日〜21日の工期が必要です。これより短い工期で「同じ品質」は物理的に不可能です。
正直に言えば、「早く終わらせろ」と言われれば、見た目は同じでも中身が全く違う仕事になります。乾燥時間を削る、下地処理を簡略化する—— これらは表面上わかりません。でも、3年後に違いが出ます。
良い仕事をしたい職人は、適正な工期と適正な報酬があって初めて本領を発揮できます。「安くて早い」は、職人から見れば「手抜きしろ」と言われているのと同じです。
見積もりを比較する際は、金額だけでなく「工期」と「人工数」に注目してください。それが、レモン市場で良い業者を見つけるための判断基準です。
よくある質問
工期と品質について、さらに詳しく知りたい方はこちら。
- 工期が短すぎる見積もりは危険? - 適正工期の目安と確認ポイント
- 工期はどのくらいが適正ですか? - 予算と工期の関係を解説
- 外壁塗装の相場はいくら? - 30坪住宅の費用目安と「人工」で比較する方法
- ハウスメーカーと地元業者どちらがいい? - 中間マージンと工期の関係
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品質管理の実例
塗装品質は、下地処理と乾燥時間で決まります。
ヨコイ塗装では、適正な工期と丁寧な下地処理を徹底しています。実際の施工工程をご覧ください。
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