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モニエル瓦の塗装で「やってはいけないこと」|スラリー層を知らない業者に任せると3年で剥がれる

この記事の監修者

高圧洗浄の確認ポイント|モニエル瓦のスラリー層処理に必須

ヨコイ塗装 代表 横井隆之

愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。

はじめに

モニエル瓦(乾式洋瓦)の塗装は、通常のスレート屋根とは全く異なる施工手順が必要です。表面の「スラリー層」を適切に処理せずに塗装すると、2〜3年で塗膜がシート状に剥がれ落ちます。

1970年代〜1980年代の洋風住宅に多く採用されたモニエル瓦は、築30〜50年を迎えた現在、メンテナンス時期の真っ只中にあります。しかし2010年に日本モニエル社が撤退し、交換用の瓦の入手が極めて困難になっています。だからこそ、正しい塗装で既存の瓦を延命させることが不可欠です。

この記事では、スラリー層の処理技術、セメント瓦・陶器瓦との判別法、専用プライマーの選び方、そしてラバーロック工法の危険性まで、モニエル瓦の塗装で失敗しないためのすべてを解説します。

モニエル瓦の構造:なぜ「スラリー層」が厄介なのか

モニエル瓦の製造工程

モニエル瓦は、セメント・砂・砂利を混合し高圧で圧縮成型したコンクリート体です。陶器瓦のように粘土を焼き固めるのではなく、常温で硬化させます。

着色工程に最大の特徴があります。瓦表面が未硬化の状態で、セメント粉末と顔料を混合した「着色スラリー」を厚く吹き付け、その上にアクリル樹脂系のクリア塗料をトップコートとして施します。この着色スラリーの層こそが、塗装を困難にする原因です。

スラリー層はなぜ剥離するのか

製造直後、スラリー層は強固に固着しています。しかし経年とともに以下のメカニズムで劣化が進行します。

  • 中性化:大気中の二酸化炭素や酸性雨の影響で、セメント質の結合力が徐々に低下する
  • クリア塗膜の消失:紫外線や熱で最表層のクリア塗膜が消失すると、スラリー層が直接外気に曝される
  • 凍結融解の繰り返し:多孔質のスラリー層が水分を吸収し、冬場の凍結と融解を繰り返すことで微細なひび割れと粉化が進行

通常のスレート屋根のチョーキング(塗膜の粉化)とは異なり、モニエル瓦の場合はセメントそのものが脆い粉末に変化するため、はるかに深刻な剥離要因になります。

この粉体の上に塗料を塗ると、塗料はスラリー層にだけ密着し基材には到達しません。スラリー層ごと塗膜が剥がれ落ちる——これが「砂の上に城を建てる」と表現されるモニエル瓦特有の施工不良です。

メーカーの歴史と現在の入手状況

日本モニエル株式会社(後のラファージュルーフィング株式会社)は1973年に設立され、「センチュリオン」「ホームステッド」「ニューシャプレ」等の製品を展開しました。2010年に日本市場から完全に撤退し、現在は国内での新品生産は行われていません。

瓦本体(コンクリート基材)の寿命は30〜40年とされていますが、これは表面の防水性を維持する定期的な塗装メンテナンスが前提です。メーカー廃業により交換用瓦の入手が極めて困難なため、割れや欠けを最小限に抑える丁寧な塗装がこれまで以上に重要になっています。

セメント瓦・モニエル瓦・陶器瓦の見分け方

塗装現場で最初にして最大の失敗要因は「瓦の種類の誤認」です。モニエル瓦をセメント瓦や陶器瓦と間違えて通常の工程で施工すれば、数年で塗膜が剥離します。

3種類の瓦の比較

【陶器瓦(和瓦・洋瓦)】

  • 主原料:粘土
  • 製法:高温焼成(釉薬使用)
  • 断面(小口):滑らかで緻密
  • 表面の状態:ガラス質の釉薬層
  • 裏面の刻印:産地や窯元の名
  • 塗装の必要性:不要(防水性が永続的)
  • 主な劣化症状:割れ、ズレ、漆喰の脱落

【セメント瓦】

  • 主原料:セメント・砂
  • 製法:圧縮成型・常温乾燥
  • 断面(小口):比較的滑らか
  • 表面の状態:塗装による着色
  • 裏面の刻印:特になし、または製造番号
  • 塗装の必要性:必要(10〜15年ごと)
  • 主な劣化症状:色あせ、苔、中性化

【モニエル瓦(乾式洋瓦)】

  • 主原料:コンクリート(セメント・砂・砂利)
  • 製法:圧縮成型・スラリー吹き付け
  • 断面(小口):凹凸がありザラついている
  • 表面の状態:厚い着色スラリー層+クリア層
  • 裏面の刻印:「M」「MONIER」等のロゴ
  • 塗装の必要性:必須(10〜20年ごと。特殊処理必須)
  • 主な劣化症状:スラリー層の粉化・剥離、苔の繁茂

最も確実な判別法:断面(小口)の観察

瓦の先端部分である「小口(断面)」に注目すれば確実に判別できます。

  • セメント瓦:細かな砂とセメントのモルタルをプレス成型しているため、断面は比較的滑らかで均一
  • モニエル瓦:比較的大粒の砂利(骨材)を含むコンクリート製のため、断面はザラザラとした凹凸が目立ち、石の粒が見える

瓦の裏面に「MONIER」の社名ロゴや「M」マーク、「MF」といった識別コードの刻印があれば確定です。

重要:陶器瓦(いぶし瓦、和瓦)は高温焼成でガラス質の釉薬を形成しているため、塗装の必要はほとんどありません。業者から「瓦を塗りましょう」と提案された場合、まず自宅の瓦がセメント系か陶器系かを確認してください。

スラリー層の正しい処理方法:8ステップの施工フロー

モニエル瓦塗装の成否は、すべて下地処理で決まります。以下の8ステップを省略する業者は、確実に2〜3年で剥離する塗装をしています。

ステップ1:現地調査(瓦の特定)

小口のザラつき、裏面の「M」マーク、図面の確認でモニエル瓦であることを確定させます。

ステップ2:バイオ洗浄液の散布

スラリー層には苔やカビが根を張りやすく、これが残存すると塗料の密着を阻害します。次亜塩素酸などのバイオ洗浄剤をあらかじめ散布し、植物組織を分解させてから洗浄することで、スラリー層の除去効率が飛躍的に高まります。

ステップ3:高圧洗浄(第一段階)

一般的なスレートの洗浄圧力が8〜10MPaであるのに対し、モニエル瓦では12MPa(120kgf/cm²)以上の高圧で、瓦一枚一枚を執拗に洗浄します。この段階で古い塗膜と劣化スラリーを削り落とします。

ステップ4:高圧洗浄(第二段階)

最も重要な完了基準は、「屋根から流れる水が透明になるまで洗う」こと。水が茶色や黒く濁っている間は、まだ劣化スラリーが残っています。透明になるまで繰り返します。

高圧洗浄だけで除去しきれない、強固に固着した半端なスラリー層に対しては、ワイヤーブラシやマジックロンを用いた手作業のケレン(研磨)を併用します。瓦の重なり部分や小口付近は特に洗浄不足になりやすいため、入念な手作業が必要です。

ステップ5:乾燥(最重要)

瓦深部の水分まで飛ばすため、最低でも2日間は乾燥期間を空けます。ここを急ぐと、残留水分が塗膜剥離の原因になります。

ステップ6:下塗り(1回目)——専用強化プライマー

ここが最大の分岐点です。通常のスレート用シーラーでは不十分です。モニエル瓦のような厚い粉化層を抑え込む固化能力を持つ「スラリー強化プライマー」が必須です。

【代表的なスラリー強化プライマー】

  • ベスコロフィラーHG(スズカファイン):厚膜形成で凹凸を埋める下地調整材
  • ハイパーシーラーエボ(日本ペイント):2液形エポキシ樹脂系。高い浸透力でスラリーを固める
  • エクセルガード(エーエスペイント):モニエル瓦塗装の標準的な下地補強材

ステップ7:下塗り(2回目・3回目)

瓦の状態が悪い場合、1回の下塗りでは樹脂が吸い込まれて表面に膜が形成されません。表面が「濡れ色(艶あり)」になるまで2回、3回と下塗りを繰り返します。

ステップ8:中塗り・上塗り

下塗り完了後は、乾式瓦対応の塗料で中塗り・上塗りを行います。合計3回塗り以上が基本です。

人工理論で見るモニエル瓦塗装のコスト構造

人工理論で比較すると、モニエル瓦の塗装はスレート屋根より大幅に人工がかかります。

【スレート屋根 vs モニエル瓦の人工数比較】

  • 高圧洗浄:スレート屋根 0.5〜1人工 / モニエル瓦 1〜2人工(スラリー層の除去に通常の2〜3倍の時間)
  • 下塗り:スレート屋根 1人工 / モニエル瓦 1.5〜3人工(2〜3回の重ね塗りが必要)
  • 中塗り・上塗り:スレート屋根 2〜3人工 / モニエル瓦 2〜3人工(同等)
  • 合計:スレート屋根 5〜7人工 / モニエル瓦 7〜11人工

安価な見積もりを提示する業者は、洗浄時間の短縮、下塗り回数の削減、通常シーラーでの代用——これらの「見えない重要工程」を省略している可能性があります。見積書に「スラリー強化プライマー」の記載がなければ要注意です。

瓦屋根の補修技術:塗装だけでは足りない

塗装は表面の保護に過ぎません。屋根としての機能を全うするには、瓦本体や付帯部位の補修も不可欠です。

漆喰(しっくい)の補修

屋根の頂上部(棟)を支える漆喰は、瓦よりも先に寿命を迎える部位です。

劣化のサイン:漆喰のひび割れ、剥がれ、内部の「葺き土」の流出。放置すると棟瓦がズレ、最終的には崩壊します。

【漆喰補修の費用目安(1mあたり)】

  • 詰め直し工事:4,000〜7,000円(表面を整える軽微な補修)
  • 積み直し工事:15,000〜20,000円(棟を解体して組み直す根本的補修)

瓦の差し替え

モニエル瓦は廃番のため、割れた瓦の交換は在庫を持つ専門業者や解体現場からの中古品調達に頼ることになります。部分補修でも出張費・高所作業費・調達費を含め1万〜5万円程度の費用が発生します。

銅線・番線の交換

棟瓦を固定する銅線は酸性雨で細くなり、最終的に断線します。近年の補修では、耐久性に優れたステンレス製の被覆線や芯材入りの強力番線に交換することで、強風や地震による瓦の飛散を防止します。

雪止め金具の設置

降雪地域に限らず、近年の異常気象による局地的な大雪に備え、雪止めの設置需要が高まっています。既存の瓦の隙間に雪止め金具を差し込み、下の桟木に固定する後付け工法が一般的です。モニエル瓦は重量と厚みがあるため、対応した専用金具を選定する必要があり、無理な差し込みは瓦の割れを招くため熟練した技術が求められます。

ラバーロック工法の危険性:なぜ原則非推奨なのか

「万能の雨漏り対策」「耐震工事」として一部の訪問販売業者が提案する「ラバーロック工法」には、屋根の寿命を著しく縮める重大なリスクが存在します。

ラバーロックとは

瓦と瓦の重なり部分(T字やL字の接合部)を、シーリング材(コーキング)で接着して固めてしまう工法です。

なぜ危険なのか——排水・通気の遮断メカニズム

瓦屋根は、完璧に水を遮断する構造ではありません。瓦の下には防水シート(ルーフィング)があり、瓦を通り抜けたわずかな雨水はシートの上を伝って軒先へ流れるよう設計されています。また、瓦同士の適度な「遊び(隙間)」が屋根内部の通気性を保っています。

ラバーロックはこの排水経路と通気経路を完全に遮断します。

  • 排水の阻害:隙間をシーリングで埋めると、瓦の下に侵入した水が逃げ場を失い滞留する
  • 毛細管現象の発生:不完全に埋められた隙間から、毛細管現象で雨水が内部に吸い上げられ、かえって浸水量が増加する
  • 結露と木材の腐食:通気が失われた屋根内部で湿気が飽和し、野地板(下地合板)や垂木、防水シートを急速に劣化させる

数年後には屋根の下地そのものが腐り、大規模な葺き替え工事を余儀なくされます。

正しい耐震対策:ガイドライン工法

現在の建築基準法と業界標準では、ラバーロックではなく「ガイドライン工法」が推奨されています。これは瓦一枚一枚をステンレス製の釘やネジで下の桟木に直接固定する方法で、通気性や排水性を損なうことなく、瓦の飛散やズレを物理的に防ぐことが可能です。

失敗事例:2〜3年で塗膜が剥離するパターン

モニエル瓦の塗装失敗は、施工直後ではなく2〜3年後に露呈します。

通常のシーラーを使用した場合、塗料は表面の脆いスラリー層としか密着していません。スラリー層が湿気や熱で動くと、その上の塗膜ごと基材から浮き上がり、パリパリとした「かさぶた」のように剥がれます。

本来10〜15年の耐久性を持つシリコン塗料であっても、下地処理の不備によりわずか2〜3年でその機能を失う。これは塗料の品質ではなく、100%「下地処理の瑕疵」に起因する問題です。

見積書で以下の項目を確認してください。

  • 「モニエル瓦専用プライマー」「スラリー強化プライマー」等の記載はあるか
  • 高圧洗浄の工程が「スラリー層除去」として明記されているか
  • 下塗りが2〜3回で計上されているか

これらが欠けている見積書は、通常のスレート屋根と同じ工程で済ませようとしている可能性が高い。施工管理アプリで8ステップの施工写真をリアルタイムに確認すれば、「見えない場所」の手抜きを防止できます。

まとめ

モニエル瓦は「最も難易度の高い屋根材」です。メーカーが市場から去った今、この瓦を守れるかどうかは施工者の技術的誠実さにかかっています。

判断のポイントは3つ。①まず瓦の種類を特定する(断面のザラつき、裏面の刻印)。②見積書にスラリー強化プライマーの記載があるか確認する。③ラバーロック工法を提案してきたら断る。

「高圧洗浄を徹底→専用プライマー→3回塗り」の手順を踏めるかどうかが、業者選びの分水嶺です。

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