「外壁塗装は何日かかりますか?」
この質問に対して、多くのWebサイトは「10〜14日が目安です」と答えます。それ自体は間違いではありません。しかし、この「日数」だけを見て工期の妥当性を判断しようとすると、大事なことを見落とします。
たとえば同じ「10日」でも、毎日職人が2人来る現場と、1人しか来ない現場では、投入される労働量は2倍の差があります。逆に「14日」でも、職人が他の現場と掛け持ちして実際に作業しているのは半分の日数だったら、実質7日分の仕事しかされていません。
工期の本質は「日数」ではなく「人工(にんく)」にあります。
この記事では、50年以上の現場経験から導き出した「人工理論」を使い、あなた自身の手で工期の妥当性を見抜く方法をお伝えします。
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外壁塗装の適正工期は何日?人工(にんく)理論で手抜きを見抜く方法
人工(にんく)とは何か?見積書に隠された本当の情報
「人工」とは、職人1人が1日(実働約8時間)で行える標準的な作業量を表す単位です。
たとえば、ケレン作業(下地のサビ落としや目荒し)に丸1日かかるなら「1人工」、半日なら「0.5人工」です。この単位で工事全体を積み上げていくと、その現場に本当に必要な労働力の総量がわかります。
「人工」は建設業界では当たり前に使われている単位ですが、一般のお客さんにはまず馴染みがありません。だからこそ、この概念を知っているだけで、見積もりを見る目が一段変わります。
日数と人工の決定的な違い
ここが最も重要なポイントです。
工期(日数)= 人工 ÷ 職人の人数 + 乾燥などの不稼働日
たとえば、30坪の住宅で必要な人工が20人工だとします。
- 職人2人で施工 → 作業日数は約10日 → 乾燥日を加えて工期12〜14日
- 職人1人で施工 → 作業日数は約20日 → 乾燥日を加えて工期22〜24日
同じ品質の工事でも、職人の人数によって工期は大きく変わるのです。だから「10日」と「14日」のどちらが良いかは、日数だけでは判断できません。判断に必要なのは「何人工か」という情報です。
30坪の住宅に必要な人工の目安
一般的な戸建て住宅(延床30坪程度)の外壁塗装に必要な総人工は、12〜21人工が一つの目安です。
これを工程別に分解すると、以下のようになります。
足場組立(足場・メッシュシート設置):1〜2人工 ケレン・高圧洗浄(サビ落とし、外壁洗浄):1〜2人工 養生(ビニール・マスキング):0.5〜1人工 下地補修・コーキング(クラック補修、シーリング):2〜4人工 付帯部塗装(軒天・破風・雨樋など):2〜3人工 外壁塗装・下中上塗り(3回塗り):3〜6人工 検査・足場解体(最終確認、足場撤去):1〜2人工 合計:12〜21人工
この人工数に加えて、高圧洗浄後の乾燥(1〜2日)、塗装工程間の乾燥時間が必要です。結果として、30坪の住宅では10〜14日の工期になるのが標準的です。
もし見積もりの工期が7日以内であれば、上のどこかの工程が省略されている可能性があります。特に省かれやすいのは、下地処理(ケレン)と乾燥時間です。
塗装方程式が教える「時間」の意味
私が長年の現場経験から導き出した公式があります。
品質(Q)= モチベーション(M)× 技術(T)× 時間(T)
この3つは掛け算の関係です。どれか一つがゼロなら、品質もゼロになります。
ここで注目すべきは「時間」の要素です。いくら腕の良い職人でも、会社から「3日で終わらせろ」と言われれば、手を抜かざるを得ません。丁寧に下地処理をしたくても、工期が足りなければ省略するしかないのです。
つまり、時間の問題は職人個人の問題ではなく、経営体質の問題です。
自社施工で十分な工期を確保できる会社と、下請けに丸投げして納期を切り詰める会社では、同じ職人が施工しても仕上がりに差が出ます。元請けからの納期プレッシャーだけでなく、足場屋さんから返却を急かされるケースもあります。
見積もり段階で工期を確認することは、その会社の経営体質を見抜くことと同じです。
「短すぎる工期」が引き起こす3つのリスク
7日以内の完工を謳う業者は、以下のいずれかを行っている可能性が高いです。
リスク1:洗浄後の乾燥省略
高圧洗浄後、壁面には目に見えない水分が残っています。この水分が完全に蒸発する前に塗装を始めると、下塗り材が密着しません。
洗浄自体は1日で終わりますが、その後最低24時間、天候によっては48時間の乾燥が必要です。この「不稼働日」は無駄ではなく、品質を担保するために欠かせない時間です。
特にALC外壁は注意が必要です。ALCは内部に無数の気泡を持ち、一度水を吸うと乾きにくい構造をしています。ALC塗装における失敗の大半は「乾燥不足」が原因です。
リスク2:塗装工程の1日圧縮
下塗り・中塗り・上塗りの3回塗りは、各工程の間に乾燥時間が必要です。気温23度・湿度50%の条件下で、最低でも数時間〜1日のインターバルが標準です。
これを無視して「朝に下塗り、昼に中塗り、夕方に上塗り」と1日で3回塗りを済ませると、下層の溶剤が閉じ込められます。施工直後は美しく見えますが、2〜3年で「膨れ」「剥がれ」「変色」が発生します。
冬場や梅雨時期は乾燥時間がさらに長くなります。気温5度以下や湿度80%以上の環境では、塗料が本来の性能を発揮できません。
リスク3:下地処理の省略
ケレン作業は地道で時間のかかる工程ですが、上に塗装をしてしまえば表面上はまったくわかりません。だからこそ、工期を短縮したい業者が最も手を抜きやすい工程です。
下地処理にどれくらいの手間をかけるかで、その業者の仕事に対する姿勢がわかります。
「長すぎる工期」にも注意|ダラダラ施工の正体
工期が短すぎることのリスクはよく語られますが、逆に長すぎる工期にも注意が必要です。30坪の住宅に3週間以上かかるような場合、以下の原因が考えられます。
原因1:職人の人数が少なすぎる。1人だけですべての工程を行っている場合、単純に作業日数が増えます。これ自体は手抜きではありませんが、あなたの生活に長期間の制約がかかります。
原因2:他の現場との掛け持ち。職人が毎日来るわけではなく、2日来て3日空くといったパターンです。工期は14日と言われていたのに、実際の作業日数は7日分しかないということが起こります。
原因3:職人の技量不足。経験が浅い職人による作業の遅延や、やり直しが発生しているケースです。
いずれの場合も、あなたは長期間窓を開けられず、洗濯物も干せず、足場による防犯リスクに晒され続けることになります。
高品質な塗装は「適切な時間」で行われるべきであり、不必要に時間をかけることは現場管理能力の低さを表しています。
外壁材別の工期の違い
外壁材の種類によって、必要な下地処理と工期は大きく変わります。
サイディング:シーリング工事が鍵
日本の住宅の約70%を占めるサイディング外壁では、シーリング(コーキング)の打ち替えが工期を左右します。
30坪の住宅で200m前後の目地があり、撤去・プライマー塗布・充填・乾燥で2〜3日を要します。シーリングの乾燥には3〜7日かかるため、この間にコーキングの影響を受けない付帯部(軒天・破風・横どい)を先に塗装するのが効率的な進め方です。
工程表でこの流れになっているかを確認してください。「コーキングを打った翌日に外壁塗装を始める」という業者は要注意です。
工期目安:12〜14日
モルタル:ひび割れ補修の規模次第
モルタル外壁は継ぎ目がない代わりに、経年劣化による「ひび割れ(クラック)」が発生します。クラックの数と深さによって補修の手間が大きく変わるため、工期の幅が出やすい外壁材です。
補修箇所が多い場合は下地処理だけで3〜4日を要することもあります。補修跡を目立たせない「肌合わせ(模様の再現)」にも職人の熟練度と時間が必要です。
工期目安:10〜12日(補修規模による)
ALC:乾燥がすべて
ALCパネルは吸水性が高く、高圧洗浄後の乾燥に通常より長い時間(48時間以上)が必要です。また、目地の総延長がサイディング以上に長いため、シーリング工事にも時間がかかります。
ALCの塗装で最も多い失敗は「乾燥不足による膨れと剥離」です。
工期目安:サイディングの約1.2倍(14〜17日程度)
業者に聞くべき「人工の質問」
見積もり段階で工期の妥当性を確認するために、以下の質問を業者に投げかけてください。
質問1:「ケレンはだいたい何人工ぐらいですか?」
「人工」という言葉がわかりにくければ、「この作業、1人でやったらどれぐらい時間がかかりますか?」と聞いてもOKです。「1日」と言われれば1人工、「半日」なら0.5人工です。
この質問への回答で、業者の姿勢がわかります。
- 「ケレン1人工、洗浄0.5〜1人工ですね」 → 工程を理解している。信頼できる。
- 「1人でやれば丸1日はかかりますね」 → わかりやすく答えてくれる業者。問題なし。
- 「全部で2日で終わりますよ」 → 工程を分けて考えていない可能性あり。
- 「まあ、適当にやりますよ」 → 論外。
質問2:「高圧洗浄の後、何時間乾燥させますか?」
正解は、最低24時間以上です。「洗浄した当日に下塗りまで終わらせました」という業者は要注意です。
質問3:「中塗りと上塗りを同じ日に塗ることはありますか?」
原則としてありません。塗料の仕様書通りの乾燥時間を確保するのが基本です。
質問4:「今回の工事には、延べ何人工の計画ですか?」
30坪なら12〜21人工程度という具体的な数値を即答できるかどうかで、工程管理の意識がわかります。
これらの質問に具体的な数字で答えられる業者は、工程を理解し、品質を重視していると判断できます。逆に、曖昧な返答をしたり、嫌な顔をする業者は避けたほうが安全です。
乾燥時間は「サボり」ではない|品質を作る熟成期間
工事中、「今日は職人さんが来ないけど大丈夫かな?」と不安に思う方がいます。
結論から言うと、「職人が来ない日」は品質を作っている日です。
高圧洗浄後の乾燥、シーリングの硬化待ち、下塗り後の乾燥——これらの「不稼働日」は、塗料の樹脂成分が化学結合を起こし、強固な塗膜を形成するために必要な時間です。
この「不稼働日」を「無駄」と捉えるか、「品質の熟成期間」と捉えるかが、優良業者と手抜き業者の分水嶺です。
工程表を受け取ったら、作業日だけでなく「乾燥日」がきちんと確保されているかも確認してください。乾燥日のない工程表は、品質よりもスピードを優先している証拠です。
まとめ
外壁塗装の工期を判断するときは、「日数」ではなく「人工(にんく)」で考えてください。
30坪の住宅で12〜21人工が目安。これに乾燥日を加えて、10〜14日が適正な工期です。7日以内は短すぎ、3週間以上は長すぎ。どちらにも注意が必要です。
塗装方程式 Q=M×T×T が示すとおり、品質は「時間」の関数です。見積もり段階で人工の質問を投げかけ、工程表の乾燥日を確認する。この2つの行動が、手抜き工事を防ぐ最も確実な方法です。
まずは見積書の読み方を知りたい方へ
→ 外壁塗装の見積書の見方|7つのチェックポイントをプロが解説
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