「この見積もり、安すぎて逆に不安なんですが…」
私のもとには、こうした相談が毎週のように届きます。そして、見積書を分析すると、ほぼ例外なく職人の日当が15,000円を下回っているのです。
結論から言います。職人の日当15,000円未満は、手抜き工事の危険信号です。
この記事では、見積書から職人の日当を逆算する計算式と、なぜ15,000円がボーダーラインなのかを、公共工事単価や労働市場のデータを使って解説します。
塗装方程式で理解する「日当」の意味
私が提唱する塗装方程式では、品質を決める3つの変数を定義しています。
品質 = モチベーション × 技術 × 時間
この「モチベーション」を支えるのが、適正な報酬です。
日当15,000円から社会保険・年金・交通費・道具代を引くと、実質手取りは10,000〜11,000円程度。時給換算で約1,300円。これはコンビニの深夜バイトと変わりません。
熟練した技術と高所作業のリスクを負う専門職が、最低賃金水準で質の高い仕事を維持し続けることは、経済的に不可能です。
公共工事単価との衝撃的な乖離
職人の適正な賃金水準を測る指標として、国土交通省が定める「公共工事設計労務単価」があります。
令和6年度の塗装工 全国平均単価:29,226円/日
橋梁塗装など高度なスキルを要する場合は35,572円/日に達します。
この「約29,000円」という公的基準と、民間リフォーム市場で見られる「15,000円未満」の間には、約2倍もの開きがあります。
| 市場 | 日当水準 |
|---|---|
| 公共工事(国土交通省基準) | 29,226円 |
| 民間優良店 | 20,000〜25,000円 |
| 民間激安業者 | 15,000円未満 |
この乖離が意味することは明白です。まともな技術を持った職人は、日当の安い現場には来ないのです。
見積書から日当を逆算する計算式
見積書を受け取ったら、総額を見る前に以下の計算をしてください。
危険信号の判定式
日当 = 総額 ÷ 人工数 ÷ 職人人数
例えば、以下のような見積書があったとします。
- 総額:100万円(税抜)
- 工期:10日
- 職人:2人
この場合の計算:
100万円 ÷ 10日 ÷ 2人 = 50,000円/人日
一見、50,000円なら問題なさそうに見えます。しかし、ここから材料費・足場代・諸経費を差し引く必要があります。
より正確な計算式
職人日当 = (総額 − 材料費 − 足場代 − 諸経費) ÷ 人工数
一般的な30坪の住宅の場合:
- 材料費:約20〜30万円
- 足場代:約15〜20万円
- 諸経費:総額の10〜15%
先ほどの100万円の見積もりで計算すると:
(100万 − 25万 − 17万 − 10万) ÷ 20人工 = 24,000円/人日
この24,000円が職人の日当に相当します。公共工事単価の29,000円を下回っていますが、民間市場としては許容範囲です。
危険な見積もりの具体例
では、日当15,000円未満になる見積もりとはどのようなものでしょうか。
パターン1:激安業者の見積もり
- 総額:60万円
- 工期:7日
- 職人:2人
(60万 − 20万 − 15万 − 6万) ÷ 14人工 = 13,571円/人日
結果:危険信号。この単価では熟練工は来ません。
パターン2:中間マージンが乗った見積もり
訪問販売や大手ハウスメーカーの外壁塗装では、中間マージンが30〜50%乗っていることがあります。
- 総額:150万円
- 中間マージン:50万円(33%)
- 実質工事費:100万円
- 人工:20人工
(100万 − 25万 − 17万 − 10万) ÷ 20人工 = 24,000円/人日
この場合、総額は高いのに職人の日当は適正水準にとどまります。つまり、
高い見積もり ≠ 高品質な工事
ということです。
なぜ15,000円がボーダーラインなのか
15,000円という数字には、明確な根拠があります。
1. 生活可能な最低ライン
- 日当15,000円 × 22日 = 月収33万円
- 社会保険・年金を差し引くと手取り約26万円
- これが塗装職人として生活できる最低ライン
2. 技術習得へのインセンティブ
塗装技能士の資格を持ち、10年以上の経験がある職人が、最低限の報酬しか得られないなら、誰も技術を磨こうとしなくなります。
3. 労働市場の現実
日当15,000円以下の現場には、以下のような人材しか集まりません:
- 経験の浅い若手
- 他の仕事が見つからない職人
- アルバイト感覚の作業員
「安い」には必ず理由があるのです。
「人工」で見積もりを比較する方法
人工(にんく)とは、職人1人が1日働く作業量の単位です。
30坪の住宅の外壁塗装では、一般的に18〜22人工が必要とされています。
人工が少なすぎる見積もりの危険性
- 12人工以下:工程を省略している可能性大
- 15人工以下:乾燥時間を守れない可能性
- 18人工以上:適正な工程を踏んでいる
人工で見積もりを見極める詳しい方法は、「人工で品質を見極める」の記事をご覧ください。
安い見積もりが手抜きに直結する理由
安い見積もりがなぜ手抜き工事につながるのか、そのメカニズムを解説します。
日当が安いと何が起きるか
- 熟練工が来ない → 技術不足
- 工期を短縮したがる → 乾燥時間を守らない
- 材料を節約する → 塗料を薄める
- 下地処理を省く → 数年で剥離
これらはすべて、日当の低さを補うための「合理的な行動」です。職人を責めることはできません。問題は、そうした状況を生み出す価格設定にあるのです。
まとめ:見積書を受け取ったらまず計算
この記事のポイントをまとめます。
- 見積書から職人の日当を逆算する
- 15,000円未満は危険信号
- 公共工事単価(約29,000円)を参考に
- 安すぎる見積もりには必ず理由がある
- 人工数も合わせてチェック
見積書は「総額」ではなく「中身」で判断する。この視点を持つだけで、手抜き工事のリスクを大幅に減らせます。
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→ 人工関連の総合ガイド: 外壁塗装は「人工」で見抜く|見積もり比較の新常識
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