外壁塗装の見積もりが安いとき、その安さがどこから来ているのかを見抜く一番確実な方法は、見積もり総額から職人一人あたりの日当を逆算することです。
塗装工事の品質は、塗料と適正な施工 × 工事にかけられる時間(人工)× 職人のやる気と知識・経験・技術、この3つの掛け算で決まります。掛け算なので、どれか一つがゼロに近づけば全体がゼロに近づきます。なかでも「時間(人工)」は、見積もりの安さが最初にしわ寄せされる項目です。そして職人の日当が下がるということは、確保できる時間そのものが削られているサインなのです。
このページでは、愛知県の塗装工の公的な単価という「物差し」を使って、あなたの見積もりに無理がないかを逆算する方法を説明します。
公的単価33,600円という物差し(①)
まず、適正かどうかを測るための目盛りを用意します。
愛知・塗装工の設計労務単価=33,600円
国土交通省が毎年公表する公共工事設計労務単価では、愛知県の塗装工(職種番号12)の単価は 33,600円(令和8年3月1日適用・8時間労働あたり)です。前年は31,400円でしたから、単価は上昇傾向にあります。
出所:国土交通省 公共工事設計労務単価(公表資料 001981942.pdf)/愛知県・塗装工・令和8年3月1日適用・8時間あたり
33,600円は「手取り」ではない
ここで一つ重要な注意があります。33,600円は、職人がそのまま受け取る「手取り」ではありません。この単価には社会保険料の本人負担分などが含まれており、事業主が実際に負担する費用(必要経費込みの参考値)はさらに大きく、おおよそ48,700円とされています。つまり「単価=手取り」と読んではいけない、というのが最初の落とし穴です。
【重要】これは積算用の物差しであり、個々の契約を直接拘束はしません
設計労務単価は、公共工事の予定価格を積算するために国が定めている参考値です。あくまで積算用の目盛りであって、民間の塗装工事の一つひとつの契約金額を法的に直接縛るものではありません。
この点を誤解すると「公共単価どおりに払え」という乱暴な話になってしまいます。そうではなく、これは「適正かどうかを測るための物差し」です。守らせる力(法律)の話は後半で別に説明します。
混同注意:同じ「塗装」でも橋りょう塗装工は40,800円と別職種です。また、全国・全職種の加重平均25,834円もこれとは別物です。地域・職種を合わせた愛知の塗装工=33,600円が、あなたの工事を測る正しい物差しです。
横井の実勢は約22,000円——公的33,600円との差は何か
物差しがそろったところで、現場の実際の数字と並べてみます。
現場の実勢は約22,000円
愛知の塗装現場で実際に動いている職人一人あたりの日当は、ヨコイ塗装が250件超の施工を通じて体感している市場価格で 約22,000円(税込)です。応援(労務のみ)で来てもらう場合は、おおむね20,000〜22,000円のレンジになります。
出所:ヨコイ塗装の自社施工250件超に基づく体感市場価格(self/一次データ)。公的単価のような統計ではなく、一施工者の実勢観測値であることを明記します。
公的33,600円と実勢22,000円——この差は何か
| 区分 | 単価 | 性質 |
|---|---|---|
| 公的単価(①物差し) | 33,600円 | 国の積算参考値・愛知・塗装工・令和8年 |
| 実勢(横井体感) | 約22,000円 | 自社250件超の体感市場価格 |
| 応援(労務のみ) | 20,000〜22,000円 | 外注・労務のみ |
公的な物差しが33,600円であるのに対し、現場の実勢は約22,000円。ここにはおよそ1万円規模の開きがあります。
この差のすべてが「中抜き」なわけではありません。雇用形態(応援・外注か直用か)、経費の按分、元請の利益など、複数の要因が重なって生まれる差です。ただし構造として見たとき、仲介ポータルを経由する工事ほど、手数料の分だけ職人に渡る時間と費用が圧縮されやすいという傾向は指摘できます。ポータルは加盟業者から手数料を取る仕組みである以上、その手数料がどこかにしわ寄せされるとすれば、削りやすいのは「時間(人工)」だからです。
つまり、日当の目減りは品質方程式の「時間」項が痩せているサインであり、その痩せ方が大きいほど、塗料を適正に乾かす時間や下地を整える手間が削られている可能性が高まります。
削れるのは材料ではなく「人」だけ
見積もりを安くするとき、業者が削れる場所は実は限られています。塗料は日本ペイントや関西ペイントなど大手メーカーの製品なら価格がほぼオープンで、仕入れ努力で縮む幅はせいぜい2割ほど。足場も安全基準がある以上、大きくは動きません。材料と足場を削れないなら、値引きの原資はひとつしか残らない——職人が現場にいる時間、つまり人工です。
人工を削るとは、具体的には工程を省くことです。3回塗りを2回にする、高圧洗浄を短く切り上げる、乾燥を待たずに塗り重ねる。どれも塗った直後には見分けがつかず、数年後に剥がれや膨れとして現れます。
だから相場より大幅に安い見積もりを見たら、「企業努力」と受け取る前に「どの工程が削られている可能性があるか」を確かめるのが安全です。安さそのものが悪いのではなく、安さの根拠を説明できない見積もりが危険のサインです。
※職人の手間賃(労務費)が総額に占める比率は業態で変わります。自社施工・直請けでは40〜50%(運営者の実測:32〜36人工×22,000円)、広告費・仲介コストの大きい業態では25〜30%以下に圧縮され、多重下請けでは2割を切ることもあります。当サイトの計算機は業者側に最も有利な30%で判定しています。
見積書から職人の日当を逆算する
では、あなたの手元の見積もりで日当を逆算してみましょう。
逆算の考え方
外壁塗装の見積もりは、おおまかに「材料費+労務費(人件費)+諸経費+利益」で構成されます。このうち労務費は、職人の日当 × 必要な人工(のべ作業日数)で決まります。
逆算の手順はシンプルです。見積もりから材料費・足場・諸経費・利益のおおよその割合を差し引き、残った労務費を工事に必要なのべ人工数で割れば、職人一人あたりの日当が見えてきます。一般的な戸建て外壁塗装では労務費の比率はおおよそ3割が目安とされます。
危険信号のボーダーライン——15,000円未満
逆算した日当が 15,000円を下回るとき、それは危険信号です。
公的な物差しが33,600円、現場の実勢でも約22,000円である中で、逆算した日当が15,000円を割り込むということは、職人に渡る時間と費用が実勢の3分の2以下まで圧縮されている、ということを意味します。この水準では、適正な乾燥時間や工程数を確保したまま利益を出すことが物理的に難しくなります。速く・安く・高品質は、物理的に両立しません。
逆算した日当が公的単価33,600円に近いほど健全、実勢22,000円を下回りはじめたら注意、15,000円未満なら明確な危険信号——この三段階で見てください。
30坪で必要な人工の目安
屋根込みの適正は28〜36人工(中心32)が目安です。運営者自身の標準施工(シーリング打替あり・週6稼働)の実測では32〜36人工でした。なお当サイトの計算機は、業者側に有利な前提で「これを下回ると危険」を判定する道具のため、下限を広げた24〜36人工を判定帯としています。建物の条件により前後します。
あなたの見積もり、職人が働く日数(人工)は足りていますか? 総額を入れるだけで30坪あたりの過不足の目安がわかります。無料・個人情報不要・その場で結果。
工程別の必要人工数と日数
30坪の外壁塗装を工程ごとに分解すると、必要な人工数と日数は次のとおりです。
| 工程 | 人工 | 日数 | 歩掛・単価・備考 |
|---|---|---|---|
| 足場設置 | 2〜3人工 | 1日 | 0.015〜0.02人工/㎡・15〜20万円。「足場無料」は他項目への転嫁の可能性 |
| 高圧洗浄 | 1人工 | 1日 | 150〜200㎡/日/人。半日で終わるなら「散水」に近い |
| 洗浄後の乾燥 | — | 1〜2日 | 24〜48時間。翌日すぐ塗装は膨れ・剥がれの原因 |
| シーリング打ち替え | 10〜16人工 | 4〜6日 | 30〜50m/日/人・900〜1,200円/m・耐久10〜15年 |
| シーリング増し打ち | 5〜6人工 | 2〜3日 | 80〜100m/日/人・500〜900円/m・耐久5〜7年 |
| シーリング後の乾燥 | — | 2〜3日 | — |
| 養生 | 1.5〜2人工 | 1〜2日 | — |
| 下地補修・ケレン | 0.5〜2人工 | 0.5〜1日 | 劣化度で変動 |
| 外壁塗装(下塗り・中塗り・上塗り) | 6〜9人工 | 3日 | 各2〜3人工。連続塗装は密着不良 |
| 付帯部塗装 | 4〜6人工 | 2〜3日 | 外壁と並行可 |
| 点検・手直し・足場解体 | 3〜5人工 | 2日 | 点検手直し+解体 |
※ 最大の変動要因はシーリング工事です。打ち替えか増し打ちかで人工も耐久年数も大きく変わります。そして上の数値も、住まいの劣化状況によってずれます——傷みが進んだ家ほど下地補修とシーリングに人工がかかります。
なぜ「1人で長くやる職人」と「複数人で短く終える業者」で人工が変わるのか
同じ30坪でも、職人1人が連続して全工程を担う場合と、複数人で分担する場合とで、延べの人工数には差が出ます。1人で連続して施工すると、複数人現場で起きがちな「待ち時間の重複」が減るため、延べ人工はむしろ引き締まることがあります。
逆に、人工数だけが少なくても、それが「1人の職人が丁寧に背負っている」結果なのか、「複数人で工程を飛ばして早く終えた」結果なのかは、人工数だけでは見分けられません。だからこそ、工期・工程表・日報とあわせて確認することが大切です。
適正な人工数と工期のまとめ
30坪の外壁塗装の適正水準を、あらためて整理します。
| 指標 | 外壁のみ | 屋根込み |
|---|---|---|
| 適正な総人工数 | 15〜19人工 | 24〜36人工(中心30前後) |
| 控えめな業界標準 | — | 20〜23人工 |
| 正味の作業日数 | 7〜10日 | 10〜14日 |
| 乾燥・天候を含む実工期 | 約2〜3週間 | 3〜4週間 |
| 危険ライン(要確認) | — | 15人工以下 |
※ この表は標準的な住まいの目安です。劣化度・形状・立地・施工時期の天候によってずれがあります。
※工程ごとの人工を単純に足すと28〜44人工になりますが、これは「各工程に複数人を配置した場合」の積み上げです。実際には1人の職人が連続して全工程を担うと待ち時間の重複が減り、延べ人工は24〜36人工に収まります。シーリングの工法(打ち替え/増し打ち)によっても変わります。
※外壁のみの実工期(約2〜3週間)は、地域密着で全工程を自社施工する職人の実際の作業ペースに基づく目安です。
ポイントは、「背負う職人ほど工期が長くなる」ことです。乾燥時間をきちんと守り、工程を飛ばさずに施工すると、屋根込みで3〜4週間かかります。逆に「1週間で終わります」という工期は、乾燥や工程の省略を疑うサインです(断定ではなく、工程表で確認すべき点です)。
あなたの見積もりは「背負う職人」の人工が確保されていますか?
見積もりの総額を入れるだけで、30坪あたりの人工が足りているかの目安を確認できます。 → 人工充足度チェッカーで確認する
※ 結果はあくまで目安です。住まいの状況によってずれがあり、不足の判定は断定ではありません。
工期7日と14日の工程比較表
以下の表は、30坪住宅の外壁塗装における各工程を「7日工期」と「14日工期」で並べたものです。同じ家でも、工期によってここまで中身が変わります。
【足場設置】7日:1日(当日午後に洗浄開始)→ 14日:1日(足場のみで完了) 【高圧洗浄+乾燥】7日:洗浄後すぐ次工程 → 14日:洗浄後1日乾燥を確保 【下地処理】7日:半日〜1日(最低限のみ)→ 14日:2〜3日(クラック補修・目荒らし丁寧に) 【コーキング】7日:増し打ちで半日 → 14日:打ち替え(全撤去+充填+乾燥)で2日 【養生】7日:塗装と同日に実施 → 14日:1日かけて丁寧に 【下塗り】7日:午前に下塗り→午後に中塗り → 14日:1日(翌日まで乾燥) 【中塗り】7日:下塗りと同日 → 14日:1日(翌日まで乾燥) 【上塗り】7日:中塗りの翌日 → 14日:1日(翌日まで乾燥) 【上部付帯部(軒天・破風・横どい)】7日:上塗りと同日に並行 → 14日:コーキング乾燥中に1日 【下部付帯部(竪どい・雨戸・水切り)】7日:省略または最低限 → 14日:外壁塗装後に1日 【検査・手直し】7日:なし → 14日:1日(施主立会い) 【足場解体】7日:最終日 → 14日:1日 【天候予備日】7日:0日 → 14日:1〜2日 【合計】7日 → 14〜17日
7日工期で何が省略されるか
7日工期で最も犠牲になるのは「目に見えない時間」です。
1つ目は乾燥時間です。塗料メーカー(日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研)はいずれも、工程間に最低4〜8時間の乾燥時間を求めています。気温20℃の標準条件でも、水性塗料で3〜4時間、溶剤系で4〜8時間が必要です。7日工期では、午前に下塗り→午後に中塗りという「1日2工程」が常態化し、メーカー規定の乾燥時間を確保できません。
夏場(25℃以上):3〜4時間 春秋(15〜25℃):4〜6時間 冬場(15℃以下):8時間〜翌日 ※塗り重ね可能時間(リコートタイム):水性シーラーは最短2〜4時間・最長7日以内、溶剤系シーラーは最短3〜6時間・最長7日以内。早すぎると密着不良、7日を超えると次の塗りとの密着性が低下。
2つ目は下地処理です。30坪住宅の下地処理には2〜4人工が必要ですが、7日工期では半日〜1日に圧縮されます。旧塗膜の除去(ケレン)や微細なクラック補修が省略され、塗膜の密着力が大幅に低下します。
3つ目は検査工程です。上塗り完了後に施主立会いで塗り残しやムラを確認する工程が、7日工期ではまるごと消えます。足場を解体した後に高所の不具合が見つかれば、再度足場を組む費用(15〜20万円)が発生します。
14日工期で確保できること
14日工期の最大の強みは「乾燥時間の確保」です。下塗り→1日乾燥→中塗り→1日乾燥→上塗りの「1日1工程」を守ることで、塗膜内部の溶剤が完全に揮発し、塗料本来の性能を発揮できます。また、天候予備日が1〜2日含まれるため、雨天時に施工を強行する必要がありません。気温5℃以下・湿度85%以上では塗装不可という全メーカー共通のルールを、工期に余裕があるからこそ守れるのです。
付帯部塗装の工程比較——7日では何が省かれるか
外壁塗装は「外壁」だけの工事ではありません。塗装の基本原則は「上から下へ、奥から手前へ」。軒天(のきてん=屋根の裏側)→ 破風・鼻隠し → 横どい → 外壁 → 竪どい → その他付帯部という順序で進めるのが正しい施工です。付帯部は「建物の外壁以外の塗装部位」の総称で、雨樋・軒天・破風・雨戸・水切りなど10箇所以上あります。7日工期ではこの付帯部の扱いに決定的な差が出ます。
【軒天】7日:外壁塗料で一括塗装(透湿性無視)→ 14日:透湿性塗料で専用塗装。換気口を塞がない 【破風・鼻隠し】7日:ケレンなし、一律塗装 → 14日:素材別の下地処理(木製→防腐処理、金属→サビ止め) 【横どい(軒樋)】7日:目荒らしなし、専用プライマー省略 → 14日:ペーパー掛け+塩ビ専用プライマーで密着確保 【竪どい・雨戸・水切り】7日:省略または「ついで塗り」→ 14日:各部位に適切なケレン+プライマー 【破風の継ぎ目コーキング】7日:見落とし(施工なし)→ 14日:打ち替えで防水ライン確保 【雨樋金具】7日:ノータッチ → 14日:サビ止め処理。金具とサイディングの隙間もコーキング
著書『工程別チェックポイント21』で特に強調しているのは以下の3点です。
①軒天には透湿性塗料が必須:外壁用の高撥水塗料(シリコン・フッ素等)を軒天に使うと、建物内部の湿気が閉じ込められ、膨れ・腐食の原因に。7日工期では外壁と同じ塗料で一括塗装されるケースが多い。 ②破風・鼻隠しは家の中で最も劣化が早い部位の一つ:屋根の端部で雨風・紫外線の直撃を受ける。素材に応じた下地処理が不可欠。劣化が激しい場合は板金巻き(ガルバリウム鋼板等)が必要なことも。 ③雨樋は「ケレンで9割決まる」:塩ビ製の雨樋(90%以上)は表面がツルツルしており、ペーパー掛け(目荒らし)+塩ビ専用プライマーなしでは数年で剥離。7日工期ではこの下地処理が省略される。
人工数で逆算する——7日工期の「正体」
工期の問題を「人工(にんく)」で数値化すると、さらに明確になります。7日工期の場合、職人2人体制で計算すると延べ14人工。適正人工数20〜25人工に対して6〜11人工が不足しています。この不足分がそのまま「省略された工程」です。
さらに、見積もり金額から職人の日当を逆算してみましょう。
80万円 × 0.4(人件費率)= 32万円(推定人件費) 32万円 ÷ 14人工(7日×2人)= 22,857円(職人日当) 一見問題なさそうに見えますが、20〜25人工かけるべき工事を14人工で終わらせている点が問題です。
80万円 × 0.4 = 32万円 32万円 ÷ 28人工(14日×2人)= 11,428円(職人日当) 14日の適正工期で80万円は安すぎます。日当が最低ライン18,000円を大きく下回ります。適正な14日工期を確保するなら、最低でも100万円前後は必要です。
人工数で見ると、7日工期の延べ14人工は、適正20〜25人工を下回る水準です。20人工を切ると控えめな業界標準すら満たさず、15人工以下は工程省略のリスクが高い危険ラインです(断定ではなく、工程表で確認すべきサインです)。
見積書に「外壁塗装一式 ○○万円」と書かれている場合、工程ごとの人工数が不明なため逆算チェックが不可能です。「一式」表記は、それだけで注意が必要です。
短工期がもたらす3つの品質リスク
7日工期の現場で実際に起きることを、私がセカンドオピニオンや補修工事で確認した事例とともに解説します。いずれも「塗装直後には見えない」のが厄介な点です。
乾燥時間不足による膨れ・剥離
下塗りと中塗りの間、中塗りと上塗りの間に乾燥時間を確保しないと、閉じ込められた溶剤や水分が原因で「膨れ(ブリスタリング)」が発生します。ある現場では、梅雨時期に10日間で外壁塗装を完了させた結果、半年後に南面の壁一面に直径2〜5cmの膨れが無数に出現。中塗りと上塗りの間に水分が閉じ込められていました。全面やり直しで費用は当初の1.5倍に膨らみました。
下地処理の省略
工期圧縮で真っ先に削られるのが下地処理(ケレン作業)です。旧塗膜の除去やサビ落としは地味で時間がかかり、塗ってしまえば見えなくなるため、手を抜いても施主にはわかりません。しかし、ケレンを省略すると塗膜の密着力が大幅に低下し、早ければ1〜2年で剥離が始まります。
検査工程の消滅
7日工期では「上塗りの翌日に足場解体」が標準です。施主立会いの検査工程が存在しません。足場を解体した後に2階部分の塗り残しが見つかっても、修正には再度足場を設置する必要があり、足場代だけで15〜20万円の追加出費になります。
これら3つのリスクに共通するのは、問題が表面化するのが数ヶ月〜数年後という点です。膨れは半年〜1年後、剥離は2〜3年後、防水不良は次の台風で発覚します。「工事が終わったときはキレイだった」は、品質の証明にはなりません。
時間を確保できる会社の4つの特徴
職人が現場に十分な時間をかけられるかどうかは、会社の経営体質に大きく依存します。次のような特徴を持つ会社は、時間を確保しやすい傾向があります。
- 元請(自社施工)——中間マージンがないため、職人への報酬と作業時間を確保しやすい
- 足場の自社保有——レンタル費用を気にせず、足場を長期間据え置ける
- 地域密着——移動時間が少なく、現場作業に集中できる
こうした特徴は、職人の腕(スキル)よりも「施主に対して責任を負い続ける立場かどうか」というアカウンタビリティの構造から生まれます。中間マージンが何層も重なる下請けの職人は、施主と直接の関係を持ちません。施主に対応するのは元請であり、下請けは元請との関係が切れれば、その現場への責任も無くなります。逆に、地元で施主と直接つながり長く付き合う職人は、現場から逃げられません。だから背負う。これは善悪ではなく、構造が生む立場の違いです。あなたの見積もりが「塗り逃げ寄り」か「背負う寄り」か、工期と人工数で確かめられます。
なぜ日当が下がるのか——現場から見た構造要因
日当が圧縮される背景には、現場の構造的な事情もあります。
職人の高齢化で“働き手”が減っている(人工供給)
塗装職人の高齢化が進み、現場に入れる職人の数そのものが減っています。供給が細る一方で工事の需要はあるため、限られた人数で工期をこなそうとすると、一人あたりにかかる負荷が増え、結果として一日に詰め込む作業量が過剰になりやすい——これは現場で実際に起きている変化です。
現場証言(D-1):高齢化による人工供給の減少。ヨコイ塗装の現場観測に基づく。
設計労務単価は上がっているのに実勢が追いつかない
国の設計労務単価は年々上昇しています(愛知の塗装工も31,400円→33,600円)。本来であれば実勢もそれに連動して上がるべきですが、現場の実勢単価の上昇は公的単価の上昇に追いついていません。この乖離が、職人の取り分を相対的に圧迫し続けています。
現場証言(D-2):設計労務単価の上昇に実勢が追従しきれていない。ヨコイ塗装の現場観測に基づく。
法律はどう変わったか(②)——改正建設業法の標準労務費
ここまでは「測る物差し(①)」の話でした。最後に「守らせる力(②)」、つまり法律の話をします。
2025年12月施行の改正建設業法
改正建設業法が2025年12月12日に施行され、中央建設業審議会の勧告(2025年12月2日)に基づく「労務費に関する基準」が設けられました。その柱は次のとおりです。
- 労務単価は公共工事設計労務単価を下回らないことを求める
- 公共工事・民間工事を問わず適用の方向
- 重層下請(多重下請)構造の解消をうながす
- 原価割れの禁止を、元請だけでなく受注者にも拡大する
これは、これまで「積算用の物差し」にとどまっていた設計労務単価を、民間工事の現場にも「守らせる力」として近づけていく動きです。
①物差しと②法律の関係
整理すると、設計労務単価33,600円は依然として積算のための目盛り(①)であり、個々の契約金額を直接縛るものではありません。しかし改正建設業法(②)によって、その目盛りを著しく下回るような労務費・原価割れの工事は、法的にも問題視される方向へと制度が動いています。
物差し(①)と法律(②)は別のレイヤーですが、両者は近づきつつある——これが2026年時点の理解です。
詳しくは「改正建設業法と外壁塗装の労務費」(C6記事)で解説します。
よくある質問(FAQ)
Q:外壁塗装の職人の日当の相場はいくらですか?
A:愛知県の場合、公的な目安である設計労務単価は33,600円(塗装工・令和8年3月適用・8時間あたり)です。現場の実勢はヨコイ塗装の体感で約22,000円、応援・労務のみだと20,000〜22,000円が目安です。公的単価は積算用の参考値で、手取りそのものではない点に注意してください。
Q:日当が安いと何が問題なのですか?
A:塗装の品質は「塗料・適正施工 × 時間(人工)× 職人の技術」の掛け算で決まります。日当が下がるのは、工事にかけられる時間が削られているサインです。速く・安く・高品質は物理的に両立しません。
Q:見積もりから職人の日当を逆算するには?
A:見積もり総額から材料費・足場・諸経費・利益のおおよその割合を差し引き、残った労務費を工事に必要なのべ人工数で割ります。逆算した日当が15,000円未満なら危険信号です。
Q:公共工事の単価は民間の工事にも適用されますか?
A:設計労務単価は積算用の参考値で、個々の民間契約を直接拘束するものではありません。ただし2025年12月施行の改正建設業法により、設計労務単価を下回らないことや原価割れの禁止が、公共・民間を問わず受注者にも拡大される方向にあります。物差し(①)と法律(②)は別ですが、近づきつつあります。
見積書の診断を受けてみませんか?
「自分で計算するのは難しい」「この見積書が適正か判断できない」という方は、プロによる見積書診断サービスをご利用ください。
25年の経験を持つ職人が、あなたの見積書を分析し、適正価格・危険ポイント・交渉のアドバイスをお伝えします。
→ 人工関連の総合ガイド: 外壁塗装は「人工」で見抜く|見積もり比較の新常識
関連記事
この記事の解説動画
職人日当15,000円が品質の分水嶺
- 人工(にんく)理論 完全講義|原価から適正品質を見極める →
工事中の「これ大丈夫?」、AIに聞けます
21工程の知識を持つAIが、あなたの現場の不安に答えます。職人に直接聞きにくいことも、AIなら気軽に相談できます。エントリープランは500円から。
見積書を受け取ったら → 見積書の見方を確認
まず無料で人工充足度をチェック
見積総額 ÷ 坪数 → 必要人工と足りているかを物理計算
「安すぎ=工程削減」を人工(にんく)に換算して可視化します。個人情報の入力なしで、あなたの見積もりの人工が足りているかを無料で判定。話はそれからで大丈夫です。
無料で人工充足度をチェックするまず無料で人工量を確認 → 次に、その見積もり自体が適正かをプロが診る
見積書が手元にあるなら、プロが適正か診断します※ 営業目的の連絡は一切いたしません
プロが使う人工数比較シートを無料プレゼント
見積書の「人工数」を比較して、手抜き業者を見抜く
※ 個人情報は厳重に管理し、第三者に提供することはありません