この記事の監修者
塗装方程式|塗装とカバー工法、どちらが正解かを判断する考え方
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
はじめに
屋根塗装とカバー工法のどちらを選ぶべきか。この問いに対して「初期費用が安いほう」で判断している方が大半ですが、それは30年後に大きな後悔につながる可能性があります。
30坪住宅で30年間のライフサイクルコスト(LCC)を試算すると、選択次第で40万円以上の差がつきます。しかも30年経過時点での「屋根の健康状態」は、まるで別物です。塗装を繰り返した屋根は寿命が尽きかけており葺き替えが迫っているのに対し、カバー工法で処置した屋根はさらに20年以上使える。
この記事では、塗料グレード別の具体的な費用データと年次別シミュレーションで、「本当にお得な選択」を数字で明らかにします。
塗料グレード別のコスト構造:㎡単価から30年総額まで
屋根塗装のLCCを左右する最大の変数は、塗料の樹脂成分に由来する耐用年数です。現在の市場で主流となっている4グレードの費用を、30坪住宅(屋根面積約80㎡)で整理します。
シリコン塗料
- ㎡単価(材工共):1,300〜2,100円
- 1回の屋根塗装総額:45〜60万円
- 期待耐用年数:8〜12年
- 30年間の施工回数:3回
- 30年間の累積塗装費用:約135〜180万円
フッ素塗料
- ㎡単価(材工共):2,450〜2,750円
- 1回の屋根塗装総額:60〜75万円
- 期待耐用年数:12〜15年
- 30年間の施工回数:2回
- 30年間の累積塗装費用:約120〜150万円
無機塗料
- ㎡単価(材工共):2,800〜3,850円
- 1回の屋根塗装総額:70〜90万円
- 期待耐用年数:15年以上
- 30年間の施工回数:1.5〜2回
- 30年間の累積塗装費用:約105〜180万円
「無機塗料は高いけれど回数が減るから結果的にお得」と思いきや、累積費用帯はフッ素とほぼ同等か重なります。理由は次に説明する「塗料以外のコスト」にあります。
塗料代は総費用の3割:見落とされる「付帯費用」の正体
塗料代そのものは、塗装費用全体の約3割に過ぎません。残りの7割は以下の付帯工事が占めています。
- 足場費用:1回あたり15万〜25万円(30坪住宅)
- 高圧洗浄:屋根全面の汚れ・コケ除去
- 下地補修:ひび割れ箇所のシーリング・パテ処理
- 縁切り(タスペーサー):30坪あたり約3万〜5万円
これらの付帯費用は塗料グレードに関係なく毎回同額が発生するため、施工回数が増えるほど累積コストは急激に上昇します。特に足場代は、3回組めば60万円以上になります。
2回目以降はなぜ高くなるのか:20〜30%のコスト上昇構造
初回塗装と2回目・3回目では、見積り構造が大きく異なります。2回目以降は初回に比べて20〜30%のコスト増加が一般的です。
その原因は、下地劣化に伴う補修費の増加です。築20年・30年と経過した屋根材は、吸水と乾燥を繰り返して強度が低下し、ひび割れや欠損が多発します。塗装前にこれらをすべて補修する手間が増え、旧塗膜が剥離している箇所の「ケレン作業」も難易度が上がります。
「塗装を繰り返せば安心」の落とし穴:累積塗膜の技術的リスク
塗装回数を重ねると安心感が増すように思えますが、物理的には逆のリスクが生まれます。
塗膜の過剰な厚みが引き起こす問題
- 膨れ:厚くなった塗膜は表面だけが乾燥し、内部が未乾燥の「半生」状態になりやすい。直射日光で内部の水分が膨張し、塗膜が膨らむ
- 層間剥離:旧塗膜と新塗膜では熱膨張係数(伸縮率)が異なるため、年月とともに層の間で剥がれが発生
- 4回目以降の限界:どれほど高価な塗料を使っても、塗膜が何層にも重なった状態では数年でパリパリと剥がれ落ちる
このため専門家の間では「塗装によるメンテナンスは3回まで」が定説です。それ以降は物理的に塗装が不可能な状態に移行するため、カバー工法か葺き替えが必須になります。
カバー工法の費用構造:施工内訳を丸裸にする
カバー工法(重ね葺き)は、既存屋根の上から新しい防水シートと金属屋根材を被せる工法です。30坪住宅における費用内訳を分解します。
施工項目と費用目安
- 足場設置(飛散防止ネット含む):15〜25万円
- 防水シート(ルーフィング材+施工費):9〜15万円
- 新屋根材・本体(ガルバリウム鋼板・断熱材付等):40〜70万円
- 役物・棟板金・ケラバ(部材費+取り付け加工費):10〜30万円
- 諸経費・運搬費(廃材処分費含む):10〜20万円
合計:90〜180万円
標準的に用いられるガルバリウム鋼板は、アルミニウム55%・亜鉛43.4%・シリコン1.6%の合金メッキ鋼板。従来のトタンの3〜6倍の耐久性を持ち、メーカー保証15〜20年の穴あき保証が一般的、実力値としての期待耐用年数は25〜40年に及びます。
葺き替えと比べると、既存屋根の撤去費用(約20〜30万円)とアスベスト含有廃材の処分費が不要なため、コストを2〜3割抑制できます。
30年シミュレーション:年次別の累積コスト比較
30坪住宅(屋根面積80㎡)で、2つのプランを年次別に追跡します。
シナリオA:シリコン塗装を10年周期で繰り返す
- 0年(新築):0円 → 累積0円
- 10年(第1回塗装:足場+洗浄+シリコン):55万円 → 累積55万円
- 20年(第2回塗装:足場+補修増+シリコン):65万円 → 累積120万円
- 30年(第3回塗装:足場+重補修+シリコン):75万円 → 累積195万円
→ 30年経過時点で屋根材は寿命限界。近いうちに葺き替え(+200万円級)が必要。
シナリオB:築15年でカバー工法を実施
- 0年(新築):0円 → 累積0円
- 15年(カバー工法:足場+ルーフィング+ガルバ):130万円 → 累積130万円
- 25年(棟板金交換・シーリング補修):10万円 → 累積140万円
- 30年(表面点検・部分塗装:足場なし想定):15万円 → 累積155万円
→ 30年経過時点で屋根性能は維持されており、さらに20年以上継続使用可能。
コスト推移サマリー
- 10年目:塗装累積55万円 vs カバー累積0円(差額+55万円)
- 15年目:塗装累積55万円 vs カバー累積130万円(差額−75万円)
- 20年目:塗装累積120万円 vs カバー累積130万円(差額−10万円)
- 25年目:塗装累積120万円 vs カバー累積140万円(差額−20万円)
- 30年目:塗装累積195万円 vs カバー累積155万円(差額+40万円)
20年目まではコスト差は僅少ですが、30年目で逆転し、塗装のほうが40万円高い。さらに30年時点での屋根の「残存価値」を考えると、差は数百万円に膨らみます。
足場費用の累積インパクト:40万円の差が戦略を変える
「目に見えない最大コスト」は足場代です。
- 塗装3回コース:足場3回 × 20万円 = 累計60万円
- カバー工法コース:足場1回 × 20万円 = 累計20万円
この40万円の差額だけで、塗料のグレードアップやカバー工法への切り替えが可能です。
さらに外壁塗装と同時施工すれば、足場を共有して1回分の費用で屋根と外壁の両方を処理できます。30年スパンの家計キャッシュフローを劇的に改善する最大のポイントが、この「足場を組む回数の最小化」です。
人工理論で見る「労働効率」の真実
費用だけでなく、人工(にんく)理論でも比較します。
- 屋根塗装1回:必要人工 5〜7人工
- カバー工法1回:必要人工 8〜12人工
- 30年間の合計人工(塗装3回):15〜21人工
- 30年間の合計人工(カバー1回):8〜12人工
塗装を3回繰り返すと延べ人工はカバー工法の約2倍。職人の手が入る回数が多いほど、品質のばらつきリスクも増えます。
プロが推奨する「ハイブリッド戦略」
最適解は「塗装 or カバー」の二者択一ではなく、時期に応じた使い分けです。
築10年前後(初回)→ 塗装を選択
屋根材の劣化が少なく、塗装の保護効果が最大化される時期。外壁塗装と同時施工で足場代を節約。塗料はフッ素または無機グレードを選び、次の工事までの期間を最大限延ばす。
築25〜30年前後(2回目)→ カバー工法に切り替え
スレート屋根材が物理的な寿命に近づき、塗装の限界が来る時期。ここでカバー工法に移行すれば、防水性能を根本からリセットし、家全体の寿命を30年以上延長できます。
この「ハイブリッド戦略」が、LCCを最小化する最も確実な手法です。
「カバー工法しかない」と言われた時の防衛チェック
業者から「もう塗装では無理」と言われたら、以下で真偽を判断してください。
まだ塗装で対応可能な状態
- チョーキング(手で触ると白い粉がつく程度)→ 洗浄+塗装で回復可能
- 軽微なヘアクラックが数箇所 → 下地調整材で埋められる
- 築15年以内かつ初回メンテナンス → 下地の野地板が健全な可能性が高い
カバー工法が必須となる症状
- 屋根の上を歩くとフカフカ沈む → 野地板の腐食。塗装しても釘が効かない
- スレートの著しい反り・層状剥離 → 塗装の密着が期待できない
- 室内への雨漏りが発生 → ルーフィング交換が必要
- すでに3回以上の塗装歴 → 塗膜の累積限界
不安な場合は、業者の言葉だけで判断せず、見積もり診断で屋根材の品番と状態から適正工法を第三者に判定してもらうことをおすすめします。
まとめ
初期費用だけで判断すると、30年後に大きなツケが回ってきます。塗料グレード別の㎡単価、足場の累積コスト、人工数、そして30年後の屋根の「残存価値」——すべてを含めた上で、自分の家に最適なタイミングと工法を選んでください。
関連リンク
- 屋根の長寿命化戦略(ピラーページ) →
- 縁切りとタスペーサーの真実 →
- 塗装できない屋根材リスト →
- 人工理論完全講義 →
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この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県扶桑町でヨコイ塗装を経営。塗装業界50年以上の経験と500件を超える施工実績を持つ外壁塗装の専門家。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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