この記事の監修者
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
外壁塗装の下塗り材は「なんとなく」で選ばれていることが多く、選定ミスは3〜5年後の剥離・膨れとして現れます。この記事では、シーラー・フィラー・プライマーが「なぜ効くのか」を材料科学の視点で解説し、見積書の下塗り材が本当に正しいかを施主自身で検算できる方法をお伝えします。
なぜ「とりあえずシーラー」では失敗するのか?
外壁塗装の見積書に「下塗り:シーラー」とだけ書かれていることがあります。しかし、下塗り材にはシーラー・フィラー・プライマーの3種類があり、それぞれ効く「メカニズム」がまったく異なります。
下塗り材の基本的な分類や外壁材との対応関係については 外壁材別メンテナンスガイド で詳しく解説していますので、ここでは一歩踏み込んで「なぜその下塗り材が効くのか」という科学的な根拠を掘り下げます。
見積書に書かれた下塗り材の名前だけでなく、選定の根拠を理解することで、業者との打ち合わせで的確な質問ができるようになります。
シーラーが「密着する」科学的メカニズムとは?
水性シーラーと溶剤シーラーは「粒子の大きさ」が違う
シーラーの最大の役割は、劣化した下地に浸透して固めることです。ここで重要なのが、塗料に含まれる樹脂粒子の大きさです。
水性シーラーの樹脂粒子は直径0.1〜0.5μm(マイクロメートル)程度。一方、溶剤系シーラーは溶剤に樹脂が溶けた状態で存在するため、粒子という概念がなく分子レベルで浸透します。
これが実際の施工でどう影響するかというと、劣化が軽度な外壁(表面がまだ緻密な状態)では水性シーラーの粒子でも十分に浸透できます。しかし、劣化が進んで表層がスカスカになった外壁では、水性シーラーの粒子が表面に留まりやすく、深部まで浸透して固める力が弱い。溶剤系シーラーであれば分子レベルで奥まで入り込み、脆弱層をしっかり固化できるのです。
業者が「溶剤系シーラーを使います」と言った場合、それは臭いや環境負荷のデメリットを承知の上で、下地の状態に合わせた選定をしている証拠です。逆に、劣化が激しいのに「水性で十分です」と言う業者には、根拠を確認する価値があります。
カチオン系シーラーはなぜ「電気の力」で密着するのか
コンクリートやモルタルの表面は、化学的にマイナスの電荷を帯びています。カチオン系シーラーは、樹脂にプラスの電荷(カチオン)を付与した特殊なシーラーです。
プラスとマイナスが引き合う静電気的な力(電気二重層吸着)によって、通常のシーラーより強力に下地に吸着します。特に湿った状態のコンクリートやモルタルに対して威力を発揮するため、梅雨時期や北面の外壁など、完全に乾燥させにくい条件でも安定した密着が得られます。
見積書に「カチオン系」と書いてある場合、それだけで業者の知識レベルが一段高いと判断できます。
微弾性フィラーと硬質フィラー、何が違うのか?
「弾性」とは何を意味するか
フィラーは「隙間を埋める」下塗り材ですが、微弾性フィラーと硬質フィラーでは物性がまったく異なります。
微弾性フィラーはゴムのような伸縮性を持ち、ヘアークラック(幅0.3mm未満の微細なひび割れ)が動いても塗膜が追従して割れません。モルタル外壁は温度変化で膨張・収縮を繰り返すため、下塗りにもこの追従性が必要です。
一方、硬質フィラーは伸縮性がほぼなく、ガチガチに固まります。一見弱そうに思えますが、窯業系サイディングのように蓄熱性が高い外壁では、弾性のある塗膜は熱で軟化して膨れ(ブリスター)の原因になります。硬質フィラーはこのリスクがありません。
つまり、外壁の素材によって弾性が「良い」か「悪い」かが逆転するのです。モルタルには弾性が味方、サイディングには弾性が敵。この原則を知っているだけで、見積書の妥当性を格段に判断しやすくなります。
塗布量の差が品質を決める
フィラーはシーラーと違い、厚膜に塗ることが前提の材料です。一般的な微弾性フィラーの標準塗布量は0.7〜1.5kg/㎡で、シーラーの0.08〜0.15kg/㎡と比較すると約10倍です。
この差は施工にかかる時間にも直結します。砂骨ローラー(凹凸のある特殊なローラー)でさざ波模様に厚塗りする作業は、通常のローラー塗装の約1.5倍の時間がかかります。人工(にんく)で言えば、シーラー1回塗りが0.5〜1.0人工に対し、微弾性フィラー厚塗りは1.0〜1.5人工です。
見積書で「下塗り:微弾性フィラー」と書いてあるのに、工期が短い場合は、十分な厚さで塗られない可能性があります。
→ 人工理論で見る下塗りの適正時間については 人工の視点で考える外壁塗装の適正価格 で詳しく解説しています。
上塗り塗料と下塗り材の「相性」を知っていますか?
なぜ「二重弾性」は危険なのか
下塗り材と上塗り塗料の組み合わせには、材料科学の視点で「やってはいけない組み合わせ」があります。最も多い失敗が「二重弾性」です。
微弾性フィラー(弾性あり)の上に、弾性塗料(弾性あり)を塗ると、塗膜全体が「ゴム on ゴム」の状態になります。一見しっかりしているように思えますが、2層ともに柔らかい塗膜は熱で軟化する面積が大きくなり、内部の水蒸気圧に負けて大規模な膨れが発生します。
特に窯業系サイディングで二重弾性の塗装をすると、夏場に表面温度が60〜70℃に達した際、塗膜が風船のように膨れ上がるケースがあります。修復には全面剥離→下地調整→再塗装が必要で、30坪の住宅で80〜120万円の追加費用がかかることもあります。
高耐久塗料には「硬い下地」が必要
フッ素塗料や無機塗料など、耐用年数15〜25年を謳う高耐久塗料は、塗膜自体が硬くて丈夫です。この硬い塗膜の性能を発揮するには、下塗りも同等の硬度が必要です。
具体的には、溶剤系2液エポキシシーラーが最適です。2液型は主剤と硬化剤の化学反応(架橋反応)で硬化するため、1液型(溶剤の揮発で乾くだけ)より圧倒的に強固な塗膜を形成します。
高耐久塗料を選んだのに水性1液シーラーで済ませてしまうと、「硬い塗膜の下に柔らかい層」ができ、上塗りの性能が数年で低下します。いわば、高級な屋根を弱い柱で支えるようなものです。
塗料メーカーの「推奨セット」を確認する方法
各塗料メーカーは、上塗り塗料ごとに推奨する下塗り材を公開しています。例えば日本ペイントのパーフェクトトップ(ラジカル制御型)にはパーフェクトサーフ(専用サーフェーサー)が推奨セットです。
見積書を確認する際、上塗り塗料と下塗り材のメーカー名・製品名を控え、メーカーのカタログまたはWebサイトで「推奨セット」に含まれているかを確認するだけで、組み合わせの妥当性がわかります。メーカーカタログはほとんどの場合、各メーカー公式サイトの「製品情報」ページからPDFで無料ダウンロードできます。
見積書の下塗り材を「数字」で検算する方法
缶数の計算式
下塗り材が適正量使われるかどうかは、缶の数で逆算できます。計算式はシンプルです。
必要量(kg)= 塗装面積(㎡)× 標準塗布量(kg/㎡)
必要缶数 = 必要量 ÷ 1缶の内容量
例えば、30坪(約120㎡)の住宅に日本ペイントのファインパーフェクトシーラーを使う場合:
・標準塗布量:0.11〜0.23kg/㎡(カタログ値)
・中間値で計算:120㎡ × 0.15kg/㎡ = 18kg
・1缶15kgなので:18kg ÷ 15kg = 1.2缶 → 2缶必要
見積書に「シーラー1缶」と書いてあれば、量が足りていない可能性が高い。逆に「3缶」なら、吸い込みの激しい下地に対応した2回塗りまで見込んでいることがわかります。
微弾性フィラーの缶数チェック
同様に、微弾性フィラー(例:エスケー化研 弾性プレミアムフィラー)の場合:
・標準塗布量:0.7〜1.0kg/㎡(砂骨ローラー使用時)
・中間値で計算:120㎡ × 0.8kg/㎡ = 96kg
・1缶25kgなので:96kg ÷ 25kg = 3.84缶 → 4缶必要
フィラーはシーラーに比べて大量に使うため、缶数の過不足が品質に直結します。4缶必要なのに3缶しか用意されていなければ、全体的に薄く延ばされるか、一部の面が塗り残されるリスクがあります。
人工理論で見る下塗りの適正時間
下塗りは「材料費」だけでなく「施工にかかる時間(人工)」も重要です。
| 下塗りの種類 | 120㎡あたりの目安人工 | 相当する時間 |
|:---|:---|:---|
| シーラー1回塗り | 0.5〜1.0人工 | 半日〜1日 |
| シーラー2回塗り(吸い込み対応) | 1.0〜1.5人工 | 1日〜1.5日 |
| 微弾性フィラー厚塗り | 1.0〜1.5人工 | 1日〜1.5日 |
| 下地処理(養生・ケレン含む) | 2.0〜3.0人工 | 2〜3日 |
工程表で下塗りに割り当てられた日数が上記の目安より極端に短い場合、十分な施工がされない可能性があります。特に「下塗りと中塗りが同じ日」の場合は、乾燥時間も含めて確認が必要です。
→ 下塗り完了時の具体的な確認方法は 下塗り完了時に確認すべきこと をご覧ください。
選定ミスが起こす「3年後の惨事」と修復コスト
下塗り材の選定ミスは、施工直後には見えません。問題が表面化するのは早くて1年後、多くは3〜5年後です。
ケース1:難付着サイディングに通常シーラーを使用
難付着サイディング(光触媒・フッ素コーティング品)に通常のシーラーを塗ると、表面のコーティングが塗料を弾き、密着が得られません。施工直後は問題なく見えても、2〜3年後にシート状に大面積で剥離します。
修復コスト(30坪想定):80〜150万円(全面剥離→専用プライマーで再塗装)
ケース2:ALC外壁にシーラーだけで済ませた
ALC(軽量気泡コンクリート)は表面に無数の巣穴があります。シーラーだけでは巣穴が埋まらず、上塗り後にピンホール(針で突いたような穴)が無数に発生。ここから雨水が浸入し、凍結融解で内部から爆裂(コンクリートが割れる)するケースがあります。
修復コスト(30坪想定):100〜200万円(爆裂補修+全面再塗装)
ケース3:直貼りサイディングに非透湿性の下塗り
直貼り工法のサイディング(2000年以前の住宅に多い)は、外壁と断熱材の間に通気層がありません。透湿性のない塗料で密閉すると、壁内部の湿気が逃げ場を失い、水蒸気圧で塗膜が大規模に膨れます。
修復コスト(30坪想定):100〜180万円(塗膜全面剥離→透湿性塗料で再塗装)
いずれのケースも、最初の塗装費用(60〜100万円)に加えて修復費用が発生するため、トータルコストは適正な下塗り材を選定した場合の2〜3倍になります。
まとめ:下塗り材は「見えない投資」
下塗り材は仕上げ塗料の下に隠れて見えなくなります。だからこそ、選定の根拠を理解し、見積書を「数字」で検算することが大切です。
確認すべきポイントは3つです。
1. メカニズムの妥当性:外壁の素材と劣化状態に対して、正しい種類の下塗り材が選ばれているか。溶剤系なのか水性なのか、弾性なのか硬質なのか、その理由は明確か。
2. 上塗りとの相性:二重弾性の組み合わせになっていないか。高耐久塗料に見合った硬さの下塗りが選ばれているか。メーカー推奨セットに合致しているか。
3. 缶数と人工の整合性:塗装面積に対して十分な量の下塗り材が見積もられているか。工程表で下塗りに適切な日数が確保されているか。
見積書を受け取ったら、この3つを確認するだけで選定ミスの大半を防げます。もし判断に迷う場合は、セカンドオピニオンとして第三者に見積書を見てもらうことをおすすめします。
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この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県扶桑町でヨコイ塗装を経営。塗装業界50年以上の経験と500件を超える施工実績を持つ外壁塗装の専門家。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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