「手抜き工事」と聞くと、雑な職人の顔が浮かぶかもしれません。けれど、ある座談会の記録を読むと、その印象は揺らぎます。2013年、リフォーム産業新聞が下請けの塗装職人たちを集めて、現場の本音を聞きました。そこで語られたのは、手を抜きたい職人の話ではありませんでした。手を抜かざるを得ないところまで追い込まれた職人たちの話でした。そして、その削られた現場を——10年以上、黙って直し続けてきた職人もいます。
「僕たちもちゃんと仕事はしたい」
2013年の座談会で、職人たちは口を揃えていました。請負金額が上がれば手は抜かない、と。「請負金額でしょうね。それが上がれば手を抜きませんから」——これは当時の職人の言葉です。
彼らは怠けていたのではありません。本来20〜25人工かかる工事を、7〜8人工で終わらせろと言われていました(人工の詳しい話は「なぜ安い業者は人工を削るのか」で解説しています)。
削られた現場は、誰かが尻拭いをする
削られた現場のツケは、消えてなくなるわけではありません。次に塗り替えるとき、別の職人が引き受けることになります。
ヨコイ塗装の横井は、こう振り返ります。他社が塗った現場で、塗膜が浮いている(密着不良の)現場に何度も出会してきた。下地処理が省かれた結果です。「しっかり下地処理しろよ」と、昔はその現場を見るたびに怒っていた、と。
もう一つ、横井の言葉があります。手を抜いて儲かる業者がいる一方で、下地処理を一生懸命やると利益が出ない。「割に合わない」と、いつも思っていた——。
この矛盾こそ、横井が「人工」を可視化しようとする出発点です。下地処理に手間をかける職人が報われ、削る業者が選ばれない。そういう世界をつくるために。
ガムテープが剥がした真実
座談会で語られた、ある職人の話です(2013年の証言)。下請けで塗った塗膜が剥がれ、「手抜きだ、やり直せ」と言われた職人がいました。彼は反論しました。自分はちゃんとやった、材料が悪いのだ、と。
証明のため、彼は壁の半分を自分がいつも使う塗料で、もう半分を上から指定された材料で塗りました。両方にガムテープを貼って剥がすと——指定された材料だけが剥がれたといいます。手を抜いたのは職人ではありませんでした。安い材料を押し付けた構造のほうでした。
では、誰が悪いのか
職人個人を責めても、何も変わりません。変えるべきは、人工を削る構造のほうです。
中間マージンが何層も重なり、施主が払ったお金が職人に届くまでに削られていきます。下請けの職人は施主と顔を合わせません。一度きりの関係だから、逃げられる立場に置かれてしまう。逆に、地元で施主と長く付き合う職人は逃げられません。だから背負う。これは善悪ではなく、構造が生む立場の違いです。
2013年から、今へ
この座談会は2013年のものです。10年以上が経ちました。
職人の仕事の値段は、確かに上がってきました。公共工事設計労務単価は14年連続で上昇し、令和8年3月適用で全国全職種の加重平均は25,834円になりました(国土交通省・令和8年2月17日公表)。塗装工事業の倒産は2025年度に143件(過去20年で最多・東京商工リサーチ)と、職人の希少性も高まっています。人手不足を背景に、価格決定権が下請け側に移りつつあるという見方も業界にはあります(断定はできませんが、潮目は変わりつつあります)。
構造は変わり始めています。でも、施主が「人工」を見る目を持つことが、その変化を後押しします。あなたが現場の手間を見ようとすることが、職人が逃げなくていい現場を増やすのです。
あなたにできること
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良い塗装工事は、施主と職人が協力して初めて成り立ちます。
よくある質問
塗装の「手抜き工事」は職人が悪いのですか?
多くの場合、職人個人の怠慢ではなく、人工(手間と時間)を削る構造が原因です。2013年のリフォーム産業新聞の座談会では、下請け職人たちが「請負金額が上がれば手を抜かない」と語り、本来20〜25人工必要な工事を7〜8人工で終わらせるよう追い込まれていた実態が記録されています。
なぜ安い材料だと塗膜が剥がれるのですか?
2013年の座談会で、ある職人が壁の半分を自分の塗料、半分を指定された安い材料で塗り、ガムテープで剥がしたところ、指定材料だけが剥がれたという証言があります。材料の質そのものが密着性を左右します。
信頼できる職人をどう見分ければいいですか?
施主と長く付き合う地元の自社施工業者は、逃げられない立場ゆえに手間を惜しみにくい傾向があります。見積もりの人工数や工程内訳を質問し、答えられるかを確かめるのが一つの目安です。
この記事は、外壁塗装専門のヨコイ塗装2代目・横井隆之(施工歴25年・施工実績250件超・著書3冊)が監修しています。
この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県丹羽郡扶桑町でヨコイ塗装を経営。施工歴25年・250件超の施工実績を持つ外壁塗装の専門家。著書3冊(外壁塗装の品質公式・外壁塗装の不都合な真実・外壁塗装 工程別チェックポイント21)。独自理論「塗装方程式」の提唱者。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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