この記事の監修者
3回塗りの嘘を見抜く|塗装不可の屋根に塗ってしまう手抜きパターン
ヨコイ塗装 代表 横井隆之
愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。
はじめに
1990年代後半〜2000年代前半に建てられた住宅の一部には、塗装そのものが不可能な屋根材が使われています。表面を塗装しても基材がミルフィーユ状に層間剥離するため、1〜2年で塗膜ごと剥がれ落ちます。
これが「2004年問題」と呼ばれる屋根材の不具合です。パミールだけで全国約20万棟分が出荷されたと推定されており、築15〜25年を迎えた今、まさにリフォーム時期と重なっています。知らずに塗装すれば40〜80万円が完全にムダになる。この記事で、自宅の屋根材が該当するかどうかを確認してください。
「2004年問題」とは何か?——アスベスト規制が生んだ不具合品
規制強化の歴史
アスベスト(石綿)は「魔法の鉱物」と呼ばれたほど、耐火性・引張強度・セメントとの親和性に優れた素材でした。しかし健康被害が明らかになるにつれ、段階的に規制が強化されていきます。
【アスベスト規制の年表】
- 1975年:特化則改正で5%超の吹き付けアスベスト禁止(屋根材等の成形品は対象外)
- 1995年:労安法改正でアモサイト・クロシドライト全面禁止(メーカーがノンアスベスト化を加速)
- 2004年:労安法改正で1%超の石綿含有建材の製造・輸入禁止(化粧スレートを含む10品目が全面禁止)
- 2006年:0.1%超のアスベスト製品が原則全面禁止(実質的な「アスベスト・ゼロ」時代)
特に重要なのが1995年〜2004年の移行期間です。この時期、メーカー各社は将来の全面禁止を見越してノンアスベスト化を急ぎました。この急速な転換が「2004年問題」の直接的な引き金です。
なぜノンアスベスト屋根材は壊れるのか
アスベストの代わりに採用されたのは、パルプ(紙の原料)やビニロン、アクリル樹脂などの繊維でした。しかしこれらには致命的な弱点がありました。
【パルプ繊維の問題】
吸水性が非常に高く、水分を吸うと膨張し、乾燥すると収縮する。この膨張収縮の繰り返しがセメント基材の内部に微細な亀裂を生じさせ、最終的に「層間剥離」を引き起こします。
【セメントとの結合力の問題】
アスベストはセメントと物理的・化学的に強く結合していましたが、代替の有機繊維は密着力が弱い。製造時の抄造プロセス(薄い層を重ねて厚みを出す製法)で、層と層の結合力が不十分になりました。
これが2004年問題製品に共通する「ミルフィーユ状の剥離」のメカニズムです。どれだけ良い塗料を塗っても、基材自体が自壊していくため、塗装は「砂の上に城を建てる」のと同じです。
塗装不可の屋根材 完全リスト:7製品
以下の屋根材は、塗装によるメンテナンスが物理的に不可能です。塗装を強行しても1〜2年で塗膜ごと基材が剥がれ落ち、剥がれた破片が近隣に飛散する二次被害を引き起こします。
【塗装不可の屋根材一覧】
- ニチハ「パミール」(1996〜2010年):層間剥離(ミルフィーユ状)、先端のボロボロした崩れ
- クボタ「コロニアルNEO」(2001年前後〜):不規則な無数のひび割れ、四隅の欠け
- 久保田松下電工「グリシェイドNEO」(2000年代前半〜):表面のひび割れ、木目調模様の褪色
- 松下電工「レサス」(1999〜2006年):衝撃に対する極端な脆さ、大きな縦割れ
- セキスイ「セキスイかわらU」ノンアス版(1990〜2007年):基材の脆弱化と表面剥離
- クボタ「アーバニー」ノンアス版(2001〜2005年):重厚な見た目だが非常に脆く、塗装後に割れが頻発
- 大建工業「ナチュール」(2000年代前半):吸水による強度の著しい低下
特にパミールは、約15年間の製造期間中に全国で約20万棟分が出荷されたと推定されています。大手ハウスメーカーから地域の工務店の分譲住宅まで幅広く採用されたため、遭遇する確率が非常に高い製品です。
各製品の目視による見分け方
屋根に登ることは滑落や屋根材破損のリスクがあるため、地上からの望遠鏡・高倍率カメラ・ドローンによる確認を推奨します。
パミール(ニチハ)
パミールは他の製品には見られない極めて特徴的な劣化形状を呈します。
- 層間剥離の見え方:屋根材の先端部分が、パイ生地やミルフィーユのように何層にもめくれ上がり、薄い板が重なっているように見える
- 先端の凹凸パターン:先端(軒先側)の出っ張りと凹みの横幅がすべて一定(等幅)。他のスレートは不規則な凹凸を持つため、ここが明確な判別ポイント
- 表面のスリット:表面に細かい縦方向の溝(スリット)が入っている
- 釘の腐食:付属釘のメッキが薄く、腐食で釘頭が欠損→屋根材がそのまま滑り落ちる落下リスクあり
コロニアルNEO(クボタ)
形状は一般的なスレートと酷似していますが、割れ方に特異性があります。
- ひび割れパターン:規則性のない、縦横無尽に走る細かなひび割れが1枚の中に無数に発生。通常のスレートは衝撃で1〜2本の大きな割れが生じるが、コロニアルNEOは毛細血管のように細かく割れる
- 角の欠け方:四隅や端が細かくパキパキと欠け落ち、本来直線であるべきラインが不自然にギザギザになる
レサス(松下電工)
設計デザインが判別の鍵です。
- 縦溝の特徴:屋根材の中央付近に、独自の深い縦溝デザインが入っている
- 踏むと割れる脆さ:他の製品が「しなる」のに対し、レサスは「砕ける」感覚。塗装業者やアンテナ工事業者が歩いた足跡に沿ってバキバキに割れていることが多い
グリシェイドNEO(久保田松下電工)
施工時の隙間と形状に特徴があります。
- 等間隔の隙間:隣り合うスレート同士の間に、約1cm程度の一定したスペースが空いている
- 下端の形状:下部がまっすぐ一直線の長方形型で、表面には木目調の模様がある
自宅の屋根材を特定する4ステップ
ステップ1:建築図面(仕上げ表)の確認
最も正確で迅速な方法です。住宅の引き渡し時に受け取った「設計図書(図面一式)」の中にある仕上げ表を確認してください。外部仕上げの欄に「パミール」「コロニアルNEO」「レサス」等の固有名詞が記載されています。
ただし「カラーベスト」「スレート」としか書かれていない場合は、型番までは特定できないため他の方法を併用してください。
ステップ2:屋根材の刻印の確認
スレート屋根材の裏面には、製造メーカーや型番を示す刻印が施されていることがあります。割れて落ちた破片を回収して裏面を確認するのが最も確実です。パミールの場合、裏面に「PA」や「NICHIHA」という文字が含まれていれば確定です。
ステップ3:メーカーへの問い合わせ
「築年月」「施工会社名」「当時のパンフレット等にある外観写真」を用意してメーカーのカスタマーサポートに連絡すれば、当時の出荷記録や地域ごとの採用状況からある程度の特定が可能です。
ステップ4:専門家による現地調査
経験豊富な屋根診断士や一級建築士による現地調査が最も確実です。ドローンによる高精細撮影、必要に応じた小屋裏からの漏水確認まで行います。見積もりを伴う通常の調査は無料のケースが多いですが、赤外線サーモグラフィやアスベスト含有分析を伴う詳細調査は3万〜10万円程度の費用が発生します。
写真だけで判断したい場合は、見積もり診断サービスに屋根の写真を送れば、屋根材の品番から適正工法を第三者が判定します。
アスベスト含有屋根材と間違えないために
2004年問題で最も多い誤解は「アスベストが入っているから塗装できない」というもの。実際には、この論理は逆です。
【アスベスト含有屋根材 vs 2004年問題屋根材】
- 主な製造年代:アスベスト含有=2000年以前(一部2006年まで残存)/ 2004年問題=1996〜2008年頃
- 基材の状態:アスベスト含有=強固。歩いても割れにくい / 2004年問題=脆弱。自然にひび割れ・層状剥離
- 塗装の可否:アスベスト含有=可能。メンテナンスとして推奨 / 2004年問題=不可。費用がムダになる
- 経年劣化の出方:アスベスト含有=塗膜の色あせ、コケ・藻の発生 / 2004年問題=基材の剥離、無数の破断、欠落
- 主なリスク:アスベスト含有=解体時のアスベスト飛散(適切な処置で回避可)/ 2004年問題=早期の雨漏り、屋根材の滑落、塗装費用のムダ
アスベストは建材に驚異的な耐久性を与える補強材だったため、アスベスト含有屋根材はむしろ頑丈です。塗装で表面の防水性を復活させれば、さらに10〜15年持たせることができます。
一方、2004年問題品はアスベストを抜いた代わりに十分な強度を持たせられなかった製品。基材そのものが自壊していくため、塗装をしても意味がありません。
知識のない営業担当が「アスベストが入っているから塗装しましょう」と勧めることがありますが、もしその屋根材がパミールだった場合、塗装後数年で再度工事が必要になり、二重の出費という最悪のシナリオに陥ります。
2004年問題屋根材の適正な対処法
該当する屋根材が特定された場合、選択肢はカバー工法か葺き替えの二択です。塗装は除外してください。
カバー工法 vs 葺き替え
【カバー工法】
- 費用相場(30坪):80万〜150万円
- 工期:約1週間
- 適用条件:野地板が健全であること
- メリット:撤去費用不要で安価、工期短い
- 注意点:パミールの釘腐食時は下地の安定性に要注意
【葺き替え】
- 費用相場(30坪):150万〜250万円
- 工期:約2週間
- 適用条件:制限なし(雨漏り発生時も可)
- メリット:屋根重量軽減で耐震性向上、問題製品を完全排除
- 注意点:アスベスト含有時は撤去費用が追加
アスベスト含有屋根にカバーする場合の法的義務
2023年以降、アスベスト規制はさらに強化されています。ノンアスベスト製品を上から被せるだけの工事であっても、以下の義務が課されます。
- 有資格者による事前調査:「建築物石綿含有建材調査者」による調査が必須
- 電子報告の義務:請負金額100万円(税込)以上の改修工事は自治体への報告が必要
- 粉じん防止措置:屋根材を穿孔(穴あけ)して新屋根を固定する場合、除じん性能を持つ電動工具の使用が義務
見積書に「事前調査費用」が計上されていない業者は、法規制への対応が不十分な可能性があります。
人工理論で見る「塗装不可」の意味
人工理論の塗装方程式(品質=モチベーション×技術×時間)で考えると、2004年問題の屋根材はどれだけモチベーションが高く、技術が優れ、十分な時間をかけても、品質がゼロになる唯一のケースです。
基材そのものが塗料を保持できない以上、塗装に投入するすべての人工が無駄になります。5〜7人工の屋根塗装費用(40〜80万円)を捨てることになる。
誠実な業者はこれらの屋根材への塗装を断り、カバー工法(8〜12人工)または葺き替え(10〜15人工)を提案します。「塗装できますよ」と言う業者は、屋根材の知識がないか、意図的に受注を取ろうとしている可能性があります。
まとめ
1990年代後半〜2000年代前半に建てられた家にお住まいなら、まず自宅の屋根材を特定してください。図面の仕上げ表、屋根材裏面の刻印、メーカーへの問い合わせ、専門家の現地調査——この4ステップで確認できます。
パミール・コロニアルNEO・レサス・グリシェイドNEO・セキスイかわらU(ノンアス版)・アーバニー・ナチュールのいずれかであれば、塗装ではなくカバー工法か葺き替えが正しい選択です。「塗装できます」と言われたら、この記事のリストを見せてください。
関連リンク
- 屋根の長寿命化戦略(ピラーページ)→
- 屋根塗装 vs カバー工法:30年で200万円の差がつくLCCの正体 →
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