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「足場なしで屋根塗装を安く」に潜む3つのリスク|法令・品質・費用の真実

この記事の監修者

ヨコイ塗装 代表 横井隆之

愛知県で50年続く塗装店の2代目。500件以上の施工実績を持ち、著書に『外壁塗装の不都合な真実』『塗装方程式』『外壁塗装 工程別チェックポイント21』(Kindle)がある。見積もり診断サービス「ペンキのミカタ」を運営し、全国の施主に中立的なアドバイスを提供している。

はじめに

「足場なしで屋根塗装ができるので安くなります」——一見お得に聞こえるこの提案には、安全面・品質面・法的リスクの3つの問題が隠れています。

足場は「工事のための仮設物」ではありません。労働者の生命を守る安全装置、施工精度を担保する品質管理インフラ、そして法遵守を証明するコンプライアンスの基盤です。

建設業の墜落・転落事故は年間80人以上が死亡しており、その多くが「足場の不備」に起因しています。この記事では、足場代が「削るべきコスト」ではなく「建物と人命を守る投資」である理由を、法令・データ・費用の3軸で解説します。

リスク①:法律違反——2m以上の高所作業で足場は「義務」

労働安全衛生規則が定める足場設置義務

労働安全衛生規則第518条では、高さ2メートル以上の箇所で作業を行う場合、事業者は足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならないと規定しています。

一般的な2階建て住宅では、軒先の高さが3〜5m、棟頂部は6〜8mに達します。1階建ての平屋であっても屋根の平均高さは2mを超えるため、実質的にすべての屋根塗装現場で足場の設置は法的義務です。

【関連法規と罰則】

  • 労安規則 第518条:2m以上の高所作業での作業床(足場)設置義務 → 違反時:50万円以下の罰金、工事停止命令
  • 労安規則 第561条:足場は丈夫な構造でなければならない → 違反時:事業者の行政処分、指名停止
  • 労安法 第119条:規則違反に対する罰則の根拠法 → 違反時:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金

2019年・2024年の法改正でさらに厳格化

【フルハーネス型の義務化(2019年〜)】

高さ2m以上の作業では、従来の胴ベルト型ではなく「フルハーネス型」の墜落制止用器具が原則義務化されました。墜落時の衝撃を全身に分散させ、内臓損傷や脊髄損傷のリスクを軽減するためです。

【本足場(二側足場)の義務化(2024年4月〜)】

建築物の外面から幅1m以上の場所では、原則として「本足場(二側足場)」の設置が義務化されました。狭小地で多用されてきた一側足場は不安定で事故の温床となっていたため、より強固な構造が求められるようになっています。

施主にも責任が及ぶ——注文者の法的リスク

足場未設置による事故が発生した場合、責任は業者だけに留まりません。

民法第716条では、注文者が「注文または指図について過失があったとき」は損害賠償責任が発生すると定めています。施主が「足場代が高いから足場なしでやってほしい」と強く要望し、それに応じた業者が事故を起こした場合、施主の「不適切な指図」とみなされる可能性があります。

過去の判例では、注文者の過失を認めて賠償責任を課した事例もあります。自宅で人身事故が起きた場合、金銭的な問題だけでなく、精神的苦痛や近隣との関係悪化など計り知れない損失を被ることになります。

リスク②:施工品質が壊滅的に低下する

足場なしで発生する施工不良

高品質な塗装は、安定した作業環境があって初めて実現します。足場がない不安定な状態では、すべての工程で「妥協」が生じます。

【高圧洗浄の不完全さ】

屋根に蓄積した苔やカビ、古い塗膜を除去するには強力な水圧を垂直に当てる必要があります。足場がなければホースの取り回しが制限され、滑落を恐れて十分な洗浄ができません。汚れが残ったまま塗装すれば、数年以内に塗膜が剥離する致命的欠陥になります。

【下地処理の見落とし】

ひび割れ補修や棟板金の釘の打ち直しなど、細かな下地処理は屋根の隅々まで近付かなければ不可能です。足場がないと、手が届く範囲だけで作業を済ませ、見えにくい箇所の劣化を放置する傾向があります。

【塗膜の不均一性と塗り残し】

不安定な体勢では、塗料を薄く伸ばしすぎたり、逆に溜まりができたりとムラが生じます。特に屋根の先端(唐草部分)や複雑な形状の箇所で塗り残しが発生するリスクが極めて高い。

【養生(飛散防止)の限界】

足場があればメッシュシートで塗料飛散を物理的に遮断できますが、足場がなければシートを張る支柱がありません。近隣の車や外壁に塗料が付着した場合、清掃・賠償費用は足場代をはるかに上回ります。

人工理論で見る「足場なし」の矛盾

人工理論で考えると、足場がない状態の屋根塗装は作業効率が30〜50%低下します。

職人は常に「落ちないこと」に意識の半分を割くため塗装への集中力が散漫になり、塗料バケツや道具を置く場所もなく、片手で身体を支えながらの作業になるため、通常の2倍以上の時間がかかります。

本来5〜7人工で完了する作業が、足場なしでは7〜10人工必要。しかし業者は「足場なしで安く」と言っている以上、人工を増やすわけがない。結果、品質=モチベーション×技術×時間の「時間」を削って帳尻を合わせることになります。

足場をケチることで工期が延び、人件費が上乗せされるため、トータルコストでは足場を設置した場合と大差がない、あるいはむしろ割高になるという逆転現象が起きます。

墜落事故の統計が示す現実

建設業は全産業の中で最も死亡事故が多い業種であり、その主因は常に墜落・転落です。

【建設業の墜落・転落死亡統計】

  • 令和5年(2023年):建設業全体の死亡者数223人、うち墜落・転落86人(約39%)
  • 令和6年(2024年):建設業全体の死亡者数232人、うち墜落・転落77人(約33%)

建設業の就業者数は全産業の約10%に過ぎませんが、死亡者数は全体の約3割を占めています。

特に注目すべきは一人親方のリスクです。2024年の統計では、一人親方の死亡者57人のうち68.4%にあたる39人が墜落・転落で亡くなっています。「足場なしで安く」を提案する業者の多くは、こうしたコスト削減を最優先する小規模事業者であるケースが多い。統計は、その選択が文字通り「命取り」であることを示しています。

屋根勾配と足場の関係:何寸から屋根足場が必要か

すべての屋根に同じ足場でいいわけではありません。屋根の角度(勾配)に応じた適切な設計が必要です。

【勾配別 足場の要否】

  • 3寸以下(約16.7度以下)緩勾配:外周足場は必須。屋根足場は原則不要だが滑り止め対策は必要
  • 4寸〜5寸(約21.8〜26.6度)並勾配:外周足場は必須。作業性を高めるため屋根足場を検討
  • 6寸以上(約31.0度以上)急勾配:外周足場+屋根足場が法律上・安全上必須

6寸以上の急勾配では、職人が屋根の上に直立して作業することは物理的に不可能です。屋根の斜面に沿って単管パイプや専用ブラケットを設置し、足掛かりを作る「屋根足場」を併用しなければなりません。

屋根足場には、以下の3つの役割があります。

  • 滑落防止:パイプがストッパーになる
  • 傾斜に対する水平な踏み場の確保:両手を使った精密な塗装が可能になる
  • 荷重分散:屋根材の破損防止

屋根足場の追加費用は㎡あたり約850円前後。30坪住宅で10万〜20万円程度ですが、急勾配屋根における安全と品質の最低条件です。

足場費用の相場と「同時施工」の経済合理性

30坪住宅の足場費用

2階建て・延床面積30坪(建坪15坪)のモデルケースで、足場費用は約18万〜25万円が相場です。部材の運搬、組立、解体、飛散防止シートの設置、およびこれらに要する人工が含まれます。

設置には通常1日(2〜3名の職人チーム)、解体にも1日を要します。数トンに及ぶ鉄製部材の使用料を考えれば、20万円前後は極めて正当な対価です。

「単独施工」vs「外壁との同時施工」

【屋根塗装のみ(単独施工)】

  • 足場費用:約20万円
  • 高圧洗浄・養生:約5万円
  • 工期:約10日間
  • デメリット:将来の外壁足場が別途必要でトータルコスト高

【外壁・屋根同時施工】

  • 足場費用:約20万円(1回で共用)
  • 高圧洗浄・養生:約7万円(同時で効率化)
  • 工期:約18〜20日間
  • メリット:足場代1回分(約20万円)がまるごと浮く

外壁塗装と同時施工すれば足場を共用できるため、足場代1回分(約20万円)がまるごと浮く計算になります。全体の工事費用は10〜20%削減でき、長期的なライフサイクルコストを劇的に改善できます。

逆に、屋根だけを足場なしで行うと、短期的には安く見えても、数年後の外壁塗装時に再び足場代を支払うことになり、生涯コストでは数倍の損をします。

「足場なし」を提案する業者の実態

梯子だけで屋根塗装は物理的に不可能

梯子1本から安全に手が届く範囲は左右約1m。屋根全体を塗るには何十回も架け替えが必要で、塗料バケツを持ったまま登り降りするのは極めて危険です。不安定な体勢で下塗り・上塗りのインターバルを適切に守り、均一な厚みを確保することは人間工学的に不可能に近い。

ロープアクセス工法の誤解

窓清掃で見られる「ロープアクセス(無足場工法)」を屋根塗装に適用しようとする動きもありますが、住宅の屋根塗装には向きません。

  • 飛散防止シートを張る支えがなく近隣トラブルのリスクを100%施主が負う
  • ロープの摩擦が屋根材を損傷する恐れがある
  • 特殊技能を要するため、人件費は実は足場代と変わらない水準

施工後の検査・手直しができない

足場がない現場の最大の問題は、「手直しができない」こと。工事完了後、施主が屋根に登って仕上がりを確認することはできません。塗り残しが見つかっても、足場がない業者は再度梯子を出すのを面倒がり、適当な言い訳をする可能性が高い。

最初から足場があれば、共に登って隅々まで確認し、納得した上で引き渡しを受けることができます。施工管理アプリで屋根上の施工写真を工程ごとに共有すれば、足場がある状態でも「見える化」がさらに強化されます。

まとめ

「足場なしで安く」は、安全を担保せず、品質を放棄し、リスクを施主に押し付ける宣言に等しい提案です。

足場を省いた結果、数年後の再塗装で足場代を含めた二重の出費が発生する——これが最も多い失敗パターンです。足場代は「削るべきコスト」ではなく、「建物と人命を守る最も確実な投資」です。外壁塗装との同時施工で足場を共用するのが、最も経済合理的な選択です。

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