2026年2月末のホルムズ海峡封鎖以降、外壁塗装に使う塗料やシーリング材の供給が急速に悪化しています。全体像はシーリング業界5社の供給逼迫を参照してください。
問題は「値上げ」だけではありません。そもそも材料が手に入らず、工事が進められないケースが現場で発生しています。
この記事では、塗料メーカーや資材メーカーから届いた一次情報(公式通知・FAX)をもとに、施主の立場で「どの工事に影響が出ているか」を整理します。価格動向の全体像は姉妹記事「
→ 値上げの背景・タイムラインはこちら:外壁塗装の塗料が値上がり?2026年の価格動向と「急ぐべきか」を現場の職人が正直に解説
【6月1日】アイジー工業18%値上げ──金属サイディング・屋根の波及範囲
アイジー工業(金属サイディング・金属屋根の業界最大手)は、2026年6月1日出荷分から全商品で18%以上の値上げを実施すると発表しました。
値上げ対象はサイディング、ルーフ、ヴァンドの全商品。塗装工事と同時に行われる金属外装の交換・補修工事では、外壁工事で防水シート含め+30万円前後、屋根工事で+15万円前後の価格上昇が見込まれます(出典:アイジー工業6/1値上げ報道・日本金属デイリー2026年5月)。
外壁塗装の見積もりにどう波及するか
外壁塗装の上塗りに直接効くわけではありません。ただし、足場を共用する付帯工事(金属サイディング張替え・板金補修)で、間接的に塗装工事の総額が押し上がります。
特に「外壁塗装+板金補修」のセット見積もりは、6月1日以降、5月までの見積もりとの差額が大きくなる可能性が高くなります。
6月1日までに発注すべき工事の判断軸
現役塗装職人として25年の経験からは、以下の3条件のすべてが当てはまるなら、6月1日までの発注を検討する価値があります。
・既に板金補修を要する状態
・足場を組む外壁塗装と同時施工予定
・業者の見積もり有効期限が5月末まで
一方で、塗装単体(金属外装の交換なし)の場合は、6月1日以降に焦って動く必要はありません。
ここからは塗料・シーリング・金属外装の3軸クライシスを整理する
金属外装の値上げが「材料クライシス」の一面を示しましたが、2026年5月時点で塗装業界が直面しているのは、塗料・シーリング・金属外装の3軸が同時に動く構造的な変動です。
それぞれの軸で何が起きているか、どの工事に影響するか、施主として何を確認すべきか──以下、順に整理します。
経産省4/13要請の影響範囲──「①シンナー」「②塗料・水性樹脂・錆止め」の切り分け
2026年4月14日、経済産業省は塗装業界に対して「シンナーの目詰まり解消」への要請を行いました。この要請の対象は、①ナフサ系シンナー(溶剤)に限定されており、②塗料本体・水性樹脂・錆止め下塗材といった主材は対象外です。ここから先は、その「対象外」となった主材の供給状況について整理します。
③ 塗料本体・水性樹脂・錆止め下塗材の出荷制限は、今回の要請対象ではありません
今回の経産省要請は「シンナー(希釈剤)」を対象としたものです。塗料本体の値上げ、水性エポキシ樹脂や錆止め・エポキシ系下塗材の出荷制限は、ナフサ由来のアクリル・エポキシ樹脂や副資材の別の問題であり、シンナーの目詰まりとは構造が異なります。本記事の他セクション(錆止め・下塗材の出荷停止、水性樹脂値上げ等)で扱った問題は、引き続き継続中です。
整理すると、「パニックによる目詰まり」は解消に向かいますが、「原材料そのものの供給不安」は何も変わっていません。
ナフサの調達コスト上昇は構造的な問題として継続しており、ホルムズ海峡リスクも解消していません。経産省が是正したのは「川中が先回りして絞った出荷」であって、「川上の供給そのもの」は政府の力で増やせるわけではないからです。
「経産省が解決した」という報道だけを見て「もう材料は手に入る」と判断するのは早すぎます。5月以降に川上の供給が実際に絞られれば、同じ目詰まりが再発する可能性があります。
業者への確認ポイント──「シンナー」と「他材料」で工期見通しを切り分ける
工期の見通しは、シンナーと他材料を切り分けて確認
シンナーの供給は改善方向ですが、錆止め・下塗材・水性樹脂の問題は別途残っています。「どの材料のどの工程が、いつ頃の入荷見通しか」を工程ごとに業者に確認し、契約前に工期のリスクを共有しておきましょう。
→ 値上げの背景・タイムラインの全体像はこちら:外壁塗装の塗料が値上がり?2026年の価格動向と「急ぐべきか」を現場の職人が正直に解説
→ 業者選びで経営健全性を見抜くチェックポイント:外壁塗装の業者が倒産?契約前に見抜く経営健全性チェック
【2026年5月20日から】雨とい・塩ビ管も値上げ——副資材の「最後の砦」が動く
塗料・シンナー・コーキング・下塗材に続いて、副資材である雨とい・塩ビ管・塩ビデッキの値上げが発表されました。積水化学工業が2026年4月2日に発表した建材値上げは、中東情勢に起因するナフサ由来素材(塩化ビニル・ポリエチレン)の調達環境悪化を理由としています。外壁塗装を検討中の方への本当の影響を整理します。
積水化学5月値上げの内容
2026年5月20日出荷分より:雨といおよびとい関連製品が20%以上、カラーパイプ本体が30%以上、カラー継手関連が15%以上、塩ビデッキ・クレガーレ・ゼットロンが20%以上の値上げ。
2026年5月7日出荷分より:塩化ビニル管が12%以上、継手が6%以上、バルブ類が10%以上の値上げ。
値上げ理由(プレスリリース記載):中東地域の情勢不安により、石油・ナフサに由来する塩化ビニル・ポリエチレン原料の調達環境が急速に悪化しているため。
なぜ雨といまで値上げされるのか
雨といの主材料は塩化ビニル(塩ビ)。この塩ビは、石油から精製される「ナフサ」を中間原料として製造されます。シンナー・塗料樹脂・コーキング、そしてこの雨とい・塩ビ管・塩ビデッキまで、外壁塗装に関わる資材はほぼすべてが同じナフサ系の供給体制の中にあります。一社が30%動かすと業界全体がそのラインに近づく傾向が、過去の値上げサイクルで見られます。
現場感覚——施主側の認知はまだ追いついていない
施工歴25年・施工件数250件超の現場感覚として、2026年4月時点で雨とい値上げを理由とした施主からの駆け込み相談はほとんど入っていません。これは雨とい交換が外壁塗装と同時施工されるのが一般的で、雨とい単独のタイミングで話題になりにくいためです。しかし業界内(メーカー・商社・塗装業者)では積水化学の5/20値上げは既知の情報。この情報の非対称性が施主側のリスクです——5月以降に外壁塗装の見積もりを取る際、雨とい本体価格が上がっていることを施主側から確認しない限り、値上げ分が見積書の中に吸収されて気づけない可能性があります。
外壁塗装への実際の影響
一般的に30坪住宅で、雨とい交換のみで足場を単独で架けると15〜20万円、雨とい本体の交換費が15〜25万円程度が目安でした(2025年以前の相場)。外壁塗装と同時施工なら足場代が不要になるため、この15〜20万円分がそのまま施主の節約になります。現在は値上げ局面のため、雨とい本体価格部分が20%以上上がり、実際の金額にはさらに変動があります。足場共用の経済合理性は、値上げ後ほど高まる構造です。
業者への確認事項3点
①見積書に雨とい交換が含まれているか、含まれる場合の材料費単価を確認する。②業者の雨とい材の調達見通し(在庫確保済みか、都度発注か)を聞く。③外壁塗装と雨とい交換を別タイミングで検討している場合は、同時施工の見積もりを並行で取り、足場代の重複分と材料値上げ分を合算で比較する。
シーリング(コーキング)打ち替え工事
シーリング材(コーキング)は、サイディングボードの目地や窓まわり・ドアまわりの防水処理に使われる材料です。外壁塗装とセットで「コーキング打ち替え」を行うのが一般的で、これができなければ塗装工事全体がストップするリスクがあります。
オート化学工業:全製品で供給制限(4月9日〜)
シーリング材大手のオート化学工業が、2026年4月9日付で全製品の供給制限を開始しました。
- 対象:弊社製品全製品
- 制限基準:2025年4月〜2026年3月の月間平均販売実績を上限
- 解除時期:原料供給の回復が確認でき次第(未定)
- 背景:ホルムズ海峡封鎖による原油・石油関連原料の供給網混乱、注文量が通常を大きく上回り供給維持が困難
※出典:オート化学工業 FAX通知(2026年4月9日付、NO.4191)
カネカ・セメダインにも影響
カネカは変成シリコーンポリマー(シーリング材の主原料)の異例の値上げを実施。セメダインも安定供給が困難になっていることを公式に発表しています。シーリング材の原料は石油化学製品に依存しており、塗料と同じく中東情勢の影響を直接受けています。
施主への影響
シーリング材が手に入らないと、サイディング目地の打ち替え・窓まわりの防水処理ができません。外壁塗装工事の中でコーキング打ち替えは欠かせない工程のため、シーリング材の不足は塗装工事全体を止めてしまう可能性があります。
ルーフィング材も受注停止——屋根工事への波及が始まっています
【2026年5月1日実施日速報】田島ルーフィング値上げ40-50%が今日から──足場連動の判断ポイント
本日2026年5月1日出荷分から、田島ルーフィングのアスファルト系防水材・断熱材(ポリスチレン/ウレタンフォーム)が40-50%値上げで実施されます。あわせて4月10日17:30以降の新規受注停止も継続中です。
出典:田島ルーフィング公式リリース(2026年4月1日付・2026年4月10日付)
ルーフィング材は屋根の下葺き材です。一見、外壁塗装とは別の話に見えますが、屋根工事と外壁塗装は足場を共用するため、判断は連動します。
【判断ポイント】屋根の下葺き材交換が必要な築年数(築20年以上が目安)の住宅では、外壁塗装と同時施工することで足場代を1回分に抑えられます。今回の値上げで屋根側の材料費は上がりますが、別々に発注して足場代を二重に払うよりは、同時施工のほうが総額は抑えやすい構造です。
★ヨコイ塗装での直近の対応事例(4月後半の駆け込み発注実態、5/1以降の納期見通し、屋根+外壁同時施工の見積もり対応など)を後日追記予定★
ただし、屋根側の劣化が進んでいない場合は、無理に「同時施工」を勧める業者には注意が必要です。屋根の劣化診断(15年点検等)の結果を見てから判断してください。
塗料値上げ全体の判断軸については、塗料値上げ2026|いつから・いつまで続く?もあわせてご確認ください。
2026年4月9日、ルーフィング材大手の田島ルーフィングが製品の受注を一時停止しました。ルーフィングとは屋根の下に敷く防水シートのことで、屋根塗装や屋根カバー工法の際に必ず使う副資材です。
田島ルーフィングの製品は40〜50%の値上げに加え、受注そのものが停止された状態です。テイガク(屋根修理専門メディア)の4月9日更新記事でも、見積有効期限を「1ヶ月→2週間に短縮」せざるを得ない状況が報告されています。
これまでの塗料値上げ・シンナー不足に加え、副資材にまで供給問題が広がっています。
シーリング材(オート化学工業)→ 値上げ済み
ルーフィング材(田島ルーフィング)→ 受注一時停止
養生資材(養生テープ・マスカー等)→ 入荷遅延
特に屋根塗装と外壁塗装の同時施工を予定している方は要注意です。外壁塗装の塗料が確保できても、ルーフィング材が手に入らなければ屋根側の工事が止まります。業者に「全ての資材が揃うスケジュール」を確認してください。
現場からのコメント
私の現場でも、屋根と外壁の同時施工で使うルーフィング材の納期確認は必須になっています。塗料だけでなく副資材の確保状況まで説明できる業者かどうかが、今の時期の業者選びのポイントです。
油性(溶剤系)塗料を使う外壁・屋根塗装
油性塗料の施工で最大のボトルネックになっているのが、シンナー(希釈溶剤)の不足です。
シンナーの値上げ・出荷制限の状況
- 日本ペイント:シンナー75%値上げ+1社1缶制限
- エスケー化研:溶剤系20〜30%値上げ(4/21〜)+ 水性15〜25%(5/11〜)
- 関西ペイント:シンナー50%以上値上げ+出荷統制(4月13日出荷分〜)
- 大信ペイント:シンナー60〜70%値上げ(4月1日出荷分〜)
- プレマテックス:PXシンナー欠品
- アイカ工業:シンナー受注停止
「塗料はあるが、薄めるシンナーがないから塗れない」——これが現場で起きているパラドックスです。シンナーの一斗缶は通常4,000〜5,000円ですが、現在は15,000〜20,000円と3〜4倍に高騰。フリマサイトでの転売も社会問題になっています(毎日新聞 2026年4月3日報道)。
影響を受ける塗料
溶剤系のシリコン塗料・ウレタン塗料・フッ素塗料が影響を受けます。シンナーがなければ適切な粘度に調整できず、そのまま塗ると仕上がりや耐久性に問題が出ます。
※出典:プレマテックス PXシンナー欠品通知(2026年3月31日確認)、各メーカー公式通知
菊水化学工業:2026年5月1日〜15日に全製品の出荷を一時停止
菊水化学工業について、複数の塗装業者ブログで「2026年5月1日から5月15日まで、全製品の出荷を一時停止する」という情報が報じられています(2026年5月12日時点)。期間は2週間に限定されていますが、特定品番ではなく「全製品」が対象とされている点が、これまでの業界最大手の一角(特定シリーズ)・日本ペイント(錆止め中心)・プレマテックス(シンナー)とは性質が異なります。
施主の方が知っておくべき要点は次の3つです。
- 出荷停止期間は5月1日〜5月15日の2週間(あくまで現時点の情報)
- 対象は全製品とされており、外壁仕上げ材・下塗り材を問わず影響が出ている可能性がある
- 公式サイト上の正式アナウンスは2026年5月12日時点で確認できておらず、流通ルートを経由した情報がベース
注目すべきは、出荷停止が「品目別」ではなく「全製品×期間指定」で発生している点です。これは、原材料の調達不足というよりも生産計画そのものの一時停止に近い性質を持ちます。業界最大手の一角(特定シリーズ)、日本ペイント(錆止め系)、プレマテックス(PXシンナー)と比べると、全社一律で休止する判断は、業界全体の供給制約が個別品目から「製造ライン全体」に波及しつつあることを示唆しています。
なお、出荷再開予定日が5月16日となっているため、本記事は5月16日以降に「予定通り再開」または「延長」のいずれかを追記更新する予定です。
鉄部の塗装(雨戸・手すり・鉄骨階段)
雨戸、手すり、鉄骨階段、シャッターボックスなどの鉄部塗装には、必ず「錆止め塗料」を下塗りとして使います。この錆止め塗料が手に入りにくくなっています。
日本ペイントの錆止め塗料が品薄〜出荷不可
業界最大手の日本ペイントの錆止め塗料が品薄から出荷不可の状態に陥っています。錆止めは鉄部塗装の最初の工程(下塗り)であり、これがなければ鉄部の塗装工程そのものが進みません。
鉄部は錆が進行すると腐食して穴が開くため、「材料が入るまで待つ」ことにもリスクがあります。特に築年数が経った住宅では、鉄部の劣化が建物全体の防水に影響するケースもあります。
※出典:塗料販売店への直接確認(2026年3月31日)
【5月12日実情】塗料3社の出荷停止──下塗材・錆止めが買えない
2026年5月12日時点で、日本ペイント・エスケー化研・大日本塗料の3社で、鉄部錆止め・下塗材の出荷停止または受注制限が確認されています。塗装業界の3大メーカーが同時に止まる事態は、過去25年の現場経験でも記憶にありません。
以下、地域大手の塗料販売店からの2026年5月12日付仕入れ情報、および取引先メーカーから直接届いている通知をもとに、3社の状況を整理します。
【5/12実情】日本ペイント「ハイポン」系シーラーが買えない──外壁塗装の鉄部工事が止まる構造
地域大手の塗料販売店から2026年5月12日付で受けた仕入れ情報によると、日本ペイントの「ハイポンファインデクロ」「ハイポン20」など、鉄部用エポキシシーラー系製品で在庫がゼロになっています。1〜2ヶ月の受注停止状態です。
影響は鉄部錆止め工事全般に及びます。雨戸・手すり・鉄骨階段の塗装で標準的に使われる下塗材であり、これが買えないと工事が物理的に進められません。
一般的に、鉄部の上塗りだけ別メーカーに変えても、下塗材がエポキシ系で揃わなければ密着不良のリスクが高まります。「別メーカーに変えれば大丈夫」という単純な代替は成立しない構造になっています。
エスケー化研「マイルドサビカット」系の供給状況
エスケー化研は2026年4月21日に水性下塗材の新規受注を停止、続いて5月11日に水性塗料の値上げ(15〜25%)を施行しています。鉄部用の溶剤系錆止め(マイルドサビカットなど)については、4月から5月にかけて納期遅延が継続している状況です。
エスケー化研は5月上旬に水性シリーズの一部追加供給を発表しましたが、鉄部錆止めの即納は依然として困難です。溶剤系から水性への切り替え促進路線が、結果として水性側にも需給逼迫を引き起こす構造になっています。
価格改定の全体像と4社比較は、別記事2026年塗料メーカー値上げ比較も参照してください。
大日本塗料「エポオールSプライマー」の納期遅延
大日本塗料(DNT)の「エポオールSプライマー」など鉄部・下塗材系製品についても、2026年4月14日時点で出荷遅延が報告されています。
大日本塗料は日本ペイント・エスケー化研に次ぐ業界中堅大手で、戸建ての外壁塗装でも一定のシェアを持ちます。ただしナフサ由来の原材料調達は他2社と同じ構造を抱えており、エポキシ樹脂の供給逼迫を他社の代替で吸収できる関係にはありません。
鉄部錆止めにおいて、日本ペイント・エスケー化研・大日本塗料の3社が同時に詰まると、地域の塗装業者は「在庫払底待ち」の状態に置かれます。代替メーカーを探しても、すでに同じ原材料調達ボトルネックに直面しているためです。
【2026年4月14日更新】錆止め・下塗材も出荷停止——鉄部工事への波及が始まっています
シンナー不足(第1波)→ 塗料本体不足(第2波)に続き、鉄部塗装で必須となる「錆止め」「エポキシ系下塗材」の出荷制限が、主要3社に拡大しました。工程そのものが成立しにくい局面に入ろうとしています。
原因:ホルムズ海峡情勢による石油化学原料の供給不安定で、塗料原材料の調達に支障が出ています。加えて、一部他社製品の供給停止を受けて代替注文が急増し、在庫が逼迫している状況です。
制限内容:
① 出荷数量は前年の購入実績ベースに制限
② 下塗材単品での注文は不可。上塗材との組み合わせで想定される数量のみ出荷
③ 大口注文は内容確認の上、受けられない場合あり
製品在庫状況(2026年4月13日時点):
・ブラック:在庫切れ(次回入荷6月以降)
・ブラウン:在庫僅少(次回入荷6月以降)
・ホワイト:在庫僅少(次回入荷5月以降)
・グレー:在庫僅少(次回入荷5月以降)
日本ペイント——錆止めも出荷不可に
業界最大手・日本ペイント系列でも、錆止め製品の出荷不可が確認されています。既報のシンナー出荷困難(本記事内「油性(溶剤系)塗料を使う外壁・屋根塗装」セクション参照)に加え、下塗材にも供給影響が拡大しています。
【2026-04-21 追記】日本ペイント下塗材、4月17日〜4月25日の新規受注一時停止
2026年4月17日13時から4月25日までの期間、日本ペイントは下塗材の新規受注を一時停止している。これは同社公式からの案内で、期間中に発注した注文は全てキャンセル扱いとなる運用が明記されている。さらに「業務の正常化に時間を要する場合は期間延長の可能性がある」と注記されており、本記事執筆時点(4月21日)では期間終了後の再開時期は確定していない。
この運用は、前節で解説した「錆止め出荷不可」よりも踏み込んだ措置である。出荷不可は「物理的に製品が出せない」状態だが、今回は「受注自体を受け付けない」という、流通のもう一段階上流での制限である。
横井は2026年4月21日の朝、日本ペイント担当者に発注電話で直接確認した。回答は「今週(4月25日金曜終業時まで)新規受注停止」であり、土日は日本ペイントが休業のため、実質的に4月25日金曜終業時が区切りとなる。
特にエポキシ系のシーラー(下塗材)と錆止めが厳しい状況とのことだった。横井のパートナー(販売代理店)からは、水性下塗材であるパーフェクトサーフ(日本ペイント製)も同様に厳しいとの情報が入っており、「水性に変えれば大丈夫」というこれまでの代替品ルートも崩れ始めている。塗料シンナーについては継続して入手困難な状態が続いている。
期間中(4月17日〜4月25日)に横井の現場で発生した個別の顧客対応実例については、後日本記事に追記予定である。
施主側への直接的な影響は次の3点である。(1)4月17日から25日までの期間に鉄部塗装の見積もりを受けた場合、業者が日本ペイントの下塗材を調達できないため、工期が事実上スライドする可能性がある。(2)業者が「在庫を確保している」と説明しても、それが「確保済(自社倉庫にある)」か「これから確保(発注予定)」かで意味が大きく変わる。(3)期間が延長された場合、5月以降の着工予定も影響を受ける。
関連情報として、塗料本体の値上げ動向は「塗料値上げ2026の最新動向」で、便乗値上げチェックは「見積もりの便乗値上げチェック」で解説している。
エスケー化研——溶剤下塗り・錆止めが出荷停止
エスケー化研でも、溶剤系の下塗り・錆止めが出荷停止となっています。これで大手2社(日本ペイント・エスケー化研)すべてで、鉄部に使う下塗材の供給が止まっている状況です。特定メーカーに絞って代替品を探す従来の逃げ道が、現時点では機能しづらくなっています。
施主への影響——鉄部工事(屋根板金・雨戸・手すり・鉄骨階段)が止まる可能性
鉄部塗装の工程は、下塗り(錆止め)→ 中塗り → 上塗り の3工程が基本です。下塗材が確保できないと、工程そのものが前に進みません。
施主が確認すべきポイントは次の3つです。
① 使用する錆止めの銘柄と在庫確保状況を業者に確認してください。 見積もりに鉄部塗装が含まれている場合、「どのメーカーのどの錆止めを使う予定か」「在庫は確保できているか」「入荷予定はいつか」を具体的に聞きましょう。
②「錆止めなしで上塗りだけ」は絶対に受け入れないでください。 下塗りを省略すると、密着不良で数年のうちに剥がれたり、鉄部の錆が内側から進行するリスクがあります。「今ある塗料で塗ってしまいましょう」という提案には慎重になってください。
「今すぐ契約しないと間に合わない」と急かされるケースがあっても、鵜呑みにする必要はありません。材料を確保できる業者かどうか、冷静に見極めることのほうが大切です。
→ 値上げの背景・タイムラインの全体像はこちら:外壁塗装の塗料が値上がり?2026年の価格動向と「急ぐべきか」を現場の職人が正直に解説
→ 業者選びで経営健全性を見抜くチェックポイント:外壁塗装の業者が倒産?契約前に見抜く経営健全性チェック
「別メーカーに変えれば大丈夫」が解決にならない理由
鉄部の下塗材が大手3社で同時に止まっているという情報をお伝えすると、「それなら別のメーカーに変えればいいのでは」「水性に切り替えれば大丈夫では」というご質問をいただきます。結論から申し上げると、どちらも今回の局面では解決策になりません。その理由を、原材料のサプライチェーンの観点から整理しておきます。
錆止め塗料の原料は、どのメーカーも同じ
エポキシ系錆止め塗料の主成分は「ビスフェノールA」と「エピクロルヒドリン」と呼ばれる2つの化学物質です。どちらも、ナフサ(原油から作られる石油化学の基礎原料)を出発点として作られています。
日本ペイント、エスケー化研だけでなく、大日本塗料(DNT)、ロックペイント、関西ペイントなど、国内の塗料メーカーはいずれも同じナフサ由来の原材料を使っています。
さらに、国内でこれらの原料を製造しているのは、三井化学・三菱ケミカル・DICなど、ごく少数の化学メーカーに集約されています。
つまり、「メーカーを変えれば手に入る」のではなく、上流の原材料そのものが日本に入ってきていない、という構造になっています。塗料メーカーごとの違いは、最終製品の配合や色・仕上がりにあり、原料の出所は共通しているのです。
「水性に変えれば大丈夫」も誤り
「シンナーが問題なら、水性塗料に変えれば解決するのでは」というお考えも、半分正しく半分間違いです。
水性エポキシ錆止めは、希釈剤がシンナーではなく水になるだけで、塗膜を形成する樹脂(エポキシ樹脂)自体は、溶剤系と同じナフサ由来の原料から作られています。
もしシンナー不足だけが問題であれば、水性化で解決できます。しかし今回はナフサそのものが止まっているため、樹脂の供給問題は水性にしても変わりません。「水性なら大丈夫」という説明には、こうした前提があります。
ウレタン系に変えても同じ
エポキシ系がダメならウレタン系に、という切り替えも、今回の局面では限定的な解決にしかなりません。
ウレタン樹脂の主原料(MDI)も、ナフサから作られるベンゼンを出発点としています。エポキシ → ウレタン → アクリルと樹脂の種類を切り替えても、すべて同じナフサというボトルネックに行き着きます。
ナフサに依存しない代替品は存在する——ただし施主は「確認」が必要
それでも、ナフサへの依存度が比較的低い選択肢がまったくないわけではありません。以下は「技術的にはこういう選択肢がある」という情報提供であり、すべての住宅で推奨できるものではありません。施工実績や相性は現場ごとに違うため、必ず業者に確認してください。
① タンニン酸系錆転換剤(サビキラーPRO など)
主成分は植物由来のタンニン酸で、ナフサへの依存度は低い製品です。赤錆を安定した保護皮膜に変換する技術で、住宅の雨戸・手すり・フェンスなどで使われた実績があります。ただし、エポキシ錆止めと完全に同じ仕上がりや耐用年数を保証するものではなく、従来より耐用年数が短くなる可能性があります。
② 油性さび止め(JIS K 5674適合品)
原料の約60%が植物油(大豆油・亜麻仁油)で、ナフサへの依存度は「中」程度です。昔から使われてきた伝統的な錆止めで、乾燥に16時間以上かかる点が難点ですが、既存の流通在庫が確保できる場合は現実的な選択肢になります。
③ 工程を分割する(鉄部だけ後日施工)
サイディング・モルタル・シーリング・木部は、鉄部と別の塗料を使うため先に施工できます。鉄部だけ正規品の入荷(5〜6月以降)を待って後日施工する、という進め方もあり得ます。ただし、足場の維持コスト(月額5〜10万円程度)が別途発生するため、費用とのバランスで判断する必要があります。
業者から「代替品で対応します」と言われたら確認すべき3つのこと
以上を踏まえて、業者から「別の塗料で対応します」と提案された場合、以下の3点は必ず書面または記録で確認しておくことをお勧めします。
① 代替品の製品名・メーカー名を具体的に確認する
「別の塗料で大丈夫です」という口頭説明だけでは、後から判断できません。製品名・メーカー名まで確認し、契約書や工事見積書に記載してもらいましょう。
② 上塗り塗料との組み合わせが、メーカー仕様として認められているか確認する
異なるメーカーの下塗り・上塗りを組み合わせると、メーカー保証の対象外になるリスクがあります。「この下塗材に対して、上塗りはこのメーカーのこの製品でOK」という組み合わせがメーカーの仕様書に明記されているかを、書面で確認してください。
③ 保証内容が変わるかどうかを書面で確認する
代替品の使用によって保証期間や保証範囲が変わる場合、その内容を契約書に明記してもらいましょう。「7年保証」が「5年保証」に変わる、「剥離は保証対象外」になるなど、具体的な条件まで確認することが重要です。
水性の錆止めや錆転換剤を住宅の外壁塗装で本格的に使った経験はまだない。従来のエポキシ系錆止めで25年やってきた。代替品の性能データは調べているが、現場で自分の手で塗って確認するまでは「使える」とは言い切れない。施主に対して責任を持てる工程でなければ採用できない、というのが現場の本音だ。
→ 値上げの背景・タイムラインの全体像はこちら:外壁塗装の塗料が値上がり?2026年の価格動向と「急ぐべきか」を現場の職人が正直に解説
→ 契約後に値上げ・追加請求を言われた場合の対応:外壁塗装の契約後に値上げ?追加請求への対処法と契約書の確認ポイント
→ 業者選びで経営健全性を見抜くチェックポイント:外壁塗装の業者が倒産?契約前に見抜く経営健全性チェック
遮熱塗料での屋根塗装
屋根に遮熱塗料を使う塗装工事にも大きな影響が出ています。
遮熱塗料の中でも、原料調達が逼迫している製品が複数確認されています。特定メーカーの製品名を明示しての出荷停止情報は錯綜しているため、ここでは販売店ベースで把握できている全体感のみ整理します。
他メーカーの遮熱塗料も、原料調達が不安定なため納期が不透明になっています。
フッ素塗料を指定した工事
フッ素塗料は耐久性の高さから、マンションの大規模修繕や高耐久を求める戸建ての外壁に指定されることがあります。しかし、フッ素樹脂の原料となる特殊モノマーの輸入ルートが混乱し、納期が大幅に延びています。
納期の目安
- 通常時:発注から約1ヶ月で納品
- 現在:3〜4ヶ月以上(見通し不透明)
特にAGCのボンフロン水性調色品に顕著な遅延が出ています。
PFAS規制リスクも重なる
フッ素塗料にはPFAS(有機フッ素化合物)規制の長期リスクもあります。欧州では規制強化の動きが進んでおり、将来的に原料の入手がさらに困難になる可能性も指摘されています。
大規模修繕の仕様書でフッ素塗料が指定されている場合、納期の遅延や将来の規制を踏まえ、管理組合として仕様変更を検討する必要が出てくるケースもあります。
ウレタン防水工事(ベランダ・屋上)
ベランダや屋上の防水工事に広く使われるウレタン防水材も、原料不足の影響を受けています。
原料(MDI/TDI)がナフサ由来で直撃
ウレタン防水材の主原料であるMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)とTDI(トルエンジイソシアネート)は、いずれもナフサ由来の化学品です。ホルムズ海峡封鎖によるナフサ供給の混乱は、ウレタン防水材の製造にも直結しています。
延期が許されにくいジレンマ
防水工事は「やらないと建物が傷む」性質のものです。雨漏りが始まってからでは、内装や構造躯体にまで被害が及びます。しかし材料が手に入らなければ工事はできない。このジレンマが、特にマンションの大規模修繕でクリティカルパス(工程全体を遅らせる要因)になっています。
【2026年6月1日・現場実情】防水材が複数社で約1ヶ月入手できない——防水を含む工事が止まっています
2026年6月時点で、現場で使う防水材が複数のメーカーで約1ヶ月前から入手できない状態が続いています。ウレタン系だけでなく、水性のポリマーセメント系塗膜防水材まで品薄が広がっています。注文しても材料が入らず、価格も提示されないため見積もりが組めず、防水を含む工事そのものが止まっているのが実情です。(施工歴25年・250件超の現場実感として、防水材がここまで全般的に止まるのは異例です。)
メーカー各社の公表でも、防水材の供給制限と大幅値上げが裏付けられています。
- 田島ルーフィング:4月10日に防水材の新規受注を全面停止(再開時期未定)、5月1日納品分から防水材・断熱材を40〜50%値上げ。
- 日新工業:4月13日に防水材料全般を出荷停止、4月21日出荷分から建築防水材・ルーフィングを約40%値上げ。
- AGCポリマー建材(サラセーヌ):4月にウレタン関連製品の受注を一時停止。
施主にとっての意味:外壁塗装に付随する防水(ベランダ・屋上・笠木・雨仕舞い)が組めないと、雨漏りリスクへの対処そのものが先送りになります。「待てば入る」という見通しが立たず、価格も納期も読めないのが今の局面です。
【2026年6月2日 続報】その後、田島ルーフィングと日新工業は受注再開に動き出しました。田島はウレタン系防水材を6月上旬目途に順次、アスファルト系・塩ビシート系防水材や屋根下葺材は6月中〜下旬目途に新規受注を段階的に再開する予定です。日新工業も5月1日、防水材料・アスファルトルーフィングの新規受注を段階的に再開しています(ウレタン塗膜防水材・塩ビシート防水材を除く)。(出典:新建ハウジング2026年5〜6月報道)
ただし重要なのは、受注が再開に向かっても、4月に発表された価格改定(田島:アスファルト系防水材料・断熱材を5月1日納品分から40〜50%程度/日新:約40%)は据え置きで、撤回されていない点です。「受注再開=価格も元に戻る」わけではありません。これは塗料・シンナーで『供給の目詰まりは解消に向かっても、値上げそのものは撤回されない』という流れと同じ構造です。現時点では、防水材が"いつ・いくらで"確保できるかを業者に確認したうえで判断するのが安全です。(値上げ率の出典:新建ハウジング2026年4月報道)
ただし「慌てて契約を急ぐべき」という意味ではありません。防水を含む工事では、まず業者に「その防水材が確保できているか/いつ入る見込みか」を確認することが先決です。材料の裏付けがないまま着工すると、工程が途中で止まるリスクがあります。
大規模修繕工事(マンション・ビル)
マンションやビルの大規模修繕工事は、上記すべての影響が重なる「最も影響を受けやすい工事」です。
工程管理が崩壊するリスク
大規模修繕では、塗料・シーリング材・防水材・錆止めなど複数の材料を使います。どれか一つでも調達できなければ、その工程でストップし、後続の工程もすべて遅延します。
- シーリング打ち替え → 塗装 → 防水 の順で進む工程が、シーリング材不足で最初から止まる
- フッ素塗料の納期遅延で、仕様変更が必要になる
- 仕様変更には管理組合の総会決議が必要 → 意思決定に数ヶ月かかる
足場コストの膨張
大規模修繕では建物全体に足場を組みます。材料が届かず工事が止まっている間も、足場のリース費用と現場管理費は発生し続けます。
最悪のケースは「空足場」——足場は組んであるのに材料がなくて工事が進まない状態です。1日あたりの足場リース費用は数万円〜十数万円。工期が1ヶ月延びれば、足場代だけで数十万円〜百万円単位の追加費用が発生します。
【塗装方程式】材料費が上がると、現場で「何が削られる」のか──値上げが手抜きに化ける構造
ここまで見てきたとおり、塗料・シーリング・防水材・金属外装まで、材料は軒並み値上がりし、一部は出荷が止まっています。では、見積もりの「総額」が据え置かれたまま材料費だけが上がったとき、その差は現場のどこから捻出されるのか。ここを冷静に追うと、「値上げ」と「手抜き」がどうつながるか――そして、どこではつながらないのか――が見えてきます。
工事の総額は「材料費+人工+経費」――動かせるのは人工
外壁塗装の総額は、大きく「材料費」「人工(職人の労働量)」「経費」に分かれます。人工とは、職人1人が1日働く労働量を「1人工」と数える単位です。30坪・2階建ての標準的な現場なら、足場・洗浄・養生・下地調整・シーリング・下塗り・中塗り・上塗り・付帯部・点検・片付けまで含め、適正にはおよそ20〜25人工を要します。
※運営者の標準施工実測では32〜36人工(詳細は人工充足度計算機)。
注意したいのは、材料費が総額に占める割合はそれほど大きくない、という点です。塗料代は外壁塗装の総費用のおよそ15〜20%。仮に塗料本体が3割上がっても、同じ総額のなかで消える人工は1人工強――20〜25人工のうちの数%にすぎません。希釈に使うシンナーなどは使用量がごくわずかで、価格が何%上がろうと、人工への影響はほとんど無視できる範囲です。
つまり、値上げの「報道」は大きく見えても、それが人工=品質を直接削る度合いは、実はそれほど大きくありません。ここを混同すると、「値上げされたから仕方なく手抜き」という説明を鵜呑みにしてしまいます。
では、なぜ「安い見積もり」で品質が崩れるのか──中間マージンと人工
人工が大きく削られる本当の原因は、材料やシンナーの値上げではなく、総額のうち現場の職人に届く前に抜かれる分――中間マージンにあります。外壁塗装の費用の解説でも一般に指摘されるとおり、大手や訪問販売を経由して下請けに発注される場合、中間マージンはおよそ20〜30%とされます。一括見積もりサイト自身が「中抜きをカット」と訴求していること自体、中間マージンの存在が業界の共通認識であることを示しています。
これを人工に置き換えてみます。適正に20〜25人工を要する工事で、総額の2〜3割が中間で抜かれれば、現場に届く人工はその分だけ薄くなりえます。先ほど見たとおり、塗料が3割上がっても削られる人工はせいぜい1人工――全体の数%にすぎません。一方、中間マージンは20〜30%。桁が一つ違います。本当に人工=品質を削っているのは材料の値上げではなく、中間で抜かれる構造のほうだ、という対比が見えてきます。
なお、紹介手数料を取らないと謳うサービスでも、送客手数料という別の形で中間に費用が入る場合があります。「同じ家を、同じ塗料で、よそより安く」と言われたとき、その安さが材料の工夫から来ているのか、現場の人工を削った結果なのか、それとも中間の取り分が本当に薄いのか――そこを冷静に見分けることが、施主にできるいちばん確かな自衛です。
人工が減ると、最初に飛ぶのは「目に見えない工程」
現場に届く人工が足りなくなると、工期内に終わらせるために省かれるのは、完成直後には見えない工程です。下地調整(ケレン)、規定の乾燥時間、養生、付帯部のひと手間――いずれも、塗り終わった直後の見た目には出ません。
とりわけ「乾燥を待つ時間」は削られやすい工程です。私の現場では基本を1日1工程とし、下塗り・中塗り・上塗りのあいだに十分な乾燥を取ります(メーカーが示す最短の塗装間隔より、現場ではかなり保守的に見ます)。冬は通常より1〜2日長く乾燥を見ますし、気温が5℃以下、あるいは面が冷え切っていれば塗りません。夏は乾きが速すぎて仕上がりに影響するため希釈を調整し、湿度が高い日や夜露の出る時間帯は、水分の蒸発が妨げられて艶引け・白化の原因になるため、露が降りる前に作業を終える段取りを組みます。
工程の順序を、その住まいの日当たり・風通し・劣化具合に合わせて組み替える判断そのものが、人工です。人工とは単なる作業日数ではなく、状況を読んで段取りを設計する力――ここを削ると、品質は静かに崩れます。
材料が同じでも、時間と職人が欠ければ品質は出ない
塗装の品質は「材料 × 時間 × 職人」の掛け算で決まります。掛け算なので、どれか一つがゼロに近づけば、結果もゼロに近づきます。良い塗料を「使った」ことは、それを規定どおりに塗りきる時間(乾燥・工程数)と職人(手間・技能)がそろっていたことを保証しません。材料が同じでも、時間と職人が欠ければ、出来上がる塗膜の質は落ちます。
あなたが「手抜き」と感じる症状は、どこが削られた結果か
施主が数年後に気づく不具合は、原因が一つではありません。大きく「人工(時間×職人)が削られた」「材料や配合のミス」「そもそも現場に人工が回っていない(中抜き)」の三系統に分かれます。同じ「早く劣化した」でも原因が違うため、ここを正直に切り分けます。
人工(時間×職人)が削られて起きる症状
・1〜2年で剥がれた … 水分が残ったまま塗装/下塗りの省略/乾燥時間が短すぎ・長すぎ(長すぎも盲点)
・色ムラ … 撹拌不足/刷毛・ローラーのムラ/劣化外壁の吸い込み対策の甘さ
・シーリングが早く切れた … 断面の水分/下塗り剤(プライマー)の省略/押し付けすぎで厚み不足
・サビが再発した … ケレン不足/錆止めの塗り忘れ
・付帯部の塗り残し、早期劣化 … 横樋の上の破風は構造的に塗りにくく省かれやすい/雨樋はツルツルで足つけ(ケレン)が要る
材料・配合のミスで起きる症状(人工の問題ではない)
・艶引け、早期再劣化 … 希釈しすぎ/配合割合の間違い/材料違い
・チョーキングが早く出た … 上と同様 + 塗料そのものの性能
上流(中抜き)が根にある症状
・工期が異常に短い(数日で完了) … 現場にいくら人工が回っているか/中抜きの厚さ。これがほぼ全症状の根にあります。
このように、艶引けやチョーキングのように「材料・配合」が主因のものもあり、これらは人工の問題ではありません。すべてを人工不足のせいにするのは正確ではない――一つひとつ、どの系統かを見ることが、冷静な判断につながります。
早期に劣化した他社の現場から、推測できること
仕事柄、ほかの業者が過去に塗った外壁が、早い時期に劣化しているのを見かけることがあります。はっきりお断りしておきたいのは、私はその工事の「手抜きの瞬間」を見たわけではない、ということです。ですからここから先は、断定ではなく、現場を見たうえでの推測として読んでください。
仲間うちの職人――複数の信頼できる職人が共有している標準的な仕事――と比べると、早期に剥離している現場では、下地のケレンや古いコーキングの撤去(削ぎ落とし)といった「見えない手間」が省かれていたのではないか、と推測されます。本来であれば10年以上もつはずの塗膜が、2〜3年で剥がれていた例もありました。原因を一つに断じることはできませんが、人工が薄いときに削られやすいのがこれらの工程であることは、現場の感覚と一致します。
値上げより怖いのは「材料が手に入らない」こと
値上げ以上に工事を直撃するのが、材料そのものが手に入らない「欠品」です。品質は「材料 × 時間 × 職人」の掛け算ですから、材料がゼロなら、どれだけ人工をかけても積はゼロ――工事は物理的に成り立ちません。
実際、2026年6月初旬の時点で、ある屋根用塗料(ビッグサンコートUトップ)が入荷せず、ベランダの再塗装をご依頼いただいていた以前のお客様には、事情を正直にお伝えし、無理に着工せずお待ちいただいています。背景にあるのは中東情勢に由来する構造的な供給の逼迫で、特定のメーカーの責任ではありません。
「値上げ前に急いで」と材料の確保もあいまいなまま着工を急ぐより、材料がそろうまで正直に待つ――その判断ができるかどうかも、人工と材料をきちんと確保できる業者を見分ける一つの目安になります。
ここまでの連鎖を一本にすると、こうです。材料は確かに上がっている。けれど、それが直接削る人工はわずかで、人工が大きく薄くなる本当の原因は中抜きなど別のところにある。人工が薄くなると、乾燥や下地調整といった見えない工程と段取りの判断が飛び、方程式の右辺が崩れ、数年後に施主が症状として受け取る――。だからこそ、見るべきは「値上げしたか・しないか」ではありません。次の二つを、業者に落ち着いて聞いてみてください。
一つ、「使う材料は、すべて確保できていますか。予定どおり完工できますか」。これは方程式の材料項の確認です。二つ、「この総額で、わが家にはおよそ何人工が入りますか」。これは右辺の時間と職人――現場に届く人工の確認です。即答できる業者か、言葉を濁す業者か。その一点に、多くが表れます。
【判断フレームワーク】今、待つべきか発注すべきか──3つの判断軸
ここまで読んで、施主の方が抱える疑問は次の一つに集約されます。「で、今すぐ発注すべきか、それとも待つべきか」。
判断は3つの軸で整理できます。
軸1:劣化の緊急度
既に雨漏りやシーリングの完全断裂など、放置すると構造体に影響が出るレベルの劣化があるか。あるなら「待つ」選択肢はありません。6月1日のアイジー工業値上げや、塗料3社の出荷停止が解消するまで半年から1年かかる可能性も視野に入れて、即発注の判断が妥当です。
軸2:使用塗料の影響度
業者の見積もりで使用予定の塗料が、今回出荷停止になっている3大メーカー(日本ペイント・エスケー化研・大日本塗料)の鉄部錆止め系製品を含むか。含む場合、発注しても工事着工が遅れる可能性があります。業者に代替製品の検討状況を確認すべきです。
業者の代替案が現実的か判断するうえで、業者の経営健全性も合わせて確認しておきたいところです。詳細は別記事業者の経営健全性チェックを参照してください。
あわせて、業者に「この総額で、わが家にはおよそ何人工が入りますか」と聞いてみてください。使用塗料の影響度(軸2)と同じく、現場に届く人工の量が、仕上がりを左右します。
軸3:見積もり有効期限と値上げ発効日のタイミング
業者の見積もり有効期限が、6月1日のアイジー工業値上げ発効日や5月20日積水化学値上げ発効日を跨ぐ場合、再見積もりが必要になる可能性があります。有効期限内に発注確定すれば、現行価格で工事できるケースが多いです。
一方で、契約後に値上げ請求が来るケースも増えています。契約書のエスカレーション条項や、値上げ請求への対応については別記事契約後の値上げ請求への対応で詳しく整理しています。
「待つことが得になる」シナリオは、現時点ではほぼ存在しません。材料費は上がり続け、供給は逼迫しています。劣化緊急度と費用負担のバランスで判断するのが現実的です。
とはいえ、業者選びを焦るのは別の話です。焦って業者を選ぶと、施工品質や費用面でかえって損をするリスクがあります。業者選びは慎重に、発注タイミングは適切に──この区別が重要です。
材料不足が、あなたの工事計画に意味すること
ここまでお読みいただいた方は、シーリング・錆止め・ルーフィング材など、現在の資材不足の全体像を把握されたと思います。
では、あなたの工事が実際に影響を受けるかどうか。それは使用予定のコーキング材や塗料と、業者の在庫状況によって変わります。
・契約済みの方:業者に「使用予定の材料は在庫を確保済みか」を確認しましょう。在庫がない場合の対応も合わせて聞いておきます。
・これから契約する方:受注停止になった銘柄が指定されている場合、代替品の提案があるかを確認しましょう。
・工事を延期するか迷っている方:延期のリスク(雨漏り進行・劣化加速)と、メリット(材料状況の落ち着きを待てる)を天秤にかける判断基準が必要です。
ホームセンターの店頭で見えるリアルな影響
材料不足は業者だけの話ではない。2026年4月15日時点で、愛知県内のホームセンターバローでは以下の購入制限が店頭に掲示されていた。
・ペイントうすめ液、ラッカーうすめ液、業務用シンナー → 一業者様2缶まで(予約不可)
・布コロナマスカー各種(養生テープ) → 一業者様5個まで(予約不可)
シンナーの不足はすでに報じられていたが、養生資材(マスカー)にまで制限が広がっている点は業界内でもまだ十分に認識されていない。
施主の方が「本当に材料不足なの?」と感じたら、最寄りのホームセンターの塗装コーナーを見てみてほしい。業者向けの購入制限が出ているかどうかで、地域の供給状況が一目でわかる。
【2026-04-21 追記】2026年4月21日の朝、横井は地元のホームセンターでマスキングテープを買うついでに、塗料売場の担当者へ最近の入荷状況を尋ねた。返ってきた言葉は「シンナー、特に薄め液が一番ひどい」だった。
ホームセンターという一般消費者向けの小売現場ですら、薄め液の品薄が明確に認識されている状態である。これは上流(備蓄放出・ナフサ)の議論とは別次元で、末端の塗料関連製品の棚が既に影響を受けていることを示す。
横井の現場感覚としては、メーカーの出荷制限が流通末端の棚に波及するまでには通常1〜2ヶ月のタイムラグがある。今回は既に小売の棚まで影響が到達しており、備蓄放出による原油→ナフサ→溶剤→流通の回復も同程度のタイムラグが見込まれる。「備蓄放出で塗料が値下がり」という楽観論は、末端の実感とは一致していない。
副資材波及は「張り替え工事」にまで拡大している
2026年4月10日、外装建材大手のニチハが、透湿防水シートの供給制限を販売店に通知した。4月14日受注分からは、アルマ(金属系壁面材)や防水テープなどの副資材にも受注制限が広がっている。
透湿防水シートは、外壁サイディングの張り替え工事で必須となる資材だ。塗装だけでなく「外壁を新しくする」張り替え工事の現場でも、今は副資材が揃わない状況が発生している。塗料・コーキング・シンナー・養生資材に加え、防水シートまで制限対象になったことで、外装リフォーム全体が副資材ボトルネックに直面している。
施主が知っておくべきポイントは、「見積時点で在庫が確保できる保証がない」という一点だ。工事契約を結んでも、実際の着工時に資材が揃わなければ工期は後ろ倒しになる。特に張り替え工事を検討している方は、業者に「透湿防水シートの銘柄と在庫状況」を確認しておくことを勧める。
今、施主ができること
水性塗料なら比較的スムーズ
現時点で最も供給が安定しているのは水性塗料です。シンナーを使わないため、溶剤不足の影響を受けません。外壁塗装の多くの場面で水性塗料は使用可能であり、性能面でも近年の水性塗料は油性塗料に遜色ないレベルに進化しています。
ただし、すべての工事で水性に切り替えられるわけではありません。使用条件や下地の状態によっては、油性塗料でなければ対応できないケースもあります。
業者に聞くべき3つの質問
見積もりを受け取っている方、これから業者を探す方は、以下の3点を確認してください。
- 見積もりに記載の塗料・シーリング材の在庫は確保できていますか?
- 材料が手に入らない場合の代替案はありますか?
- 工期への影響はどの程度ですか?
この3つに具体的に答えられる業者は、現在の供給状況を把握している証拠です。逆に「大丈夫ですよ」としか言わない業者は、状況を把握できていないか、知っていて伝えていない可能性があります。
4つ目――「使う材料はすべて確保できていますか。予定どおり完工できますか」。材料の欠品が起きている局面では、価格より「確保できているか」が先決です。
「値上げ前に急いで契約」は正解ではない
材料不足の今、最も危険なのは「値上げ前に急いで契約しよう」という判断です。急いで契約しても、材料が手に入らなければ工事は始められません。契約だけして着工できない状態が、施主にとっても業者にとっても最悪のシナリオです。
大事なのは、材料の確保状況を確認できる業者を選ぶことです。在庫や仕入れルートについて具体的に説明できる業者は、この状況下でも信頼できる判断材料になります。
見積もりの適正判断
材料費が上がっている今、見積額が「高い」か「適正」かの判断は以前より重要になっています。人工(にんく)理論を使えば、見積もり総額から職人の日当を逆算し、手抜きのリスクがあるかどうかを数字で判断できます。
→ 値上げの背景と価格影響の詳細はこちら:外壁塗装の塗料が値上がり?2026年の価格動向と「急ぐべきか」を現場の職人が正直に解説
より詳しい数値分析が必要な方は → AI見積もり診断で即日レポート
材料不足が続くいま、自分の工事は「今」やるべき?「待つ」べき? 答えはほぼ一つで決まります──工事の予算は、用意できますか?
予算を用意できる方へ:いま動くのが正解です。円安もインフレも続く以上、待つほど工事費は上がります。値上げ前の単価で握れる今が、おそらく一番安く済みます。
まず下の無料チェックで、ご自宅にどれだけ手間(人工)がかかるかを確認してください。その見積もりが適正かが気になれば、第三者の目でも確認できます。
今は予算が厳しい方へ:「待つ」と決める前に、できることがあります。
- 屋根や傷みの激しいところだけ、先に直す
- お住まいの自治体の補助金(※有無も金額も自治体ごと・年度ごとに変わり、予算が尽きれば締切。最新はご自身の市区町村に直接ご確認を)
どれが自分に合うかは、一人では判断が難しいもの。まずは無料で、今の状況を相談する と、あなたの状況に合った進め方をお伝えします。
この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県丹羽郡扶桑町でヨコイ塗装を経営。施工歴25年・250件超の施工実績を持つ外壁塗装の専門家。著書3冊(外壁塗装の品質公式・外壁塗装の不都合な真実・外壁塗装 工程別チェックポイント21)。独自理論「塗装方程式」の提唱者。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
プロフィールを見る →まず無料で人工充足度をチェック
見積総額 ÷ 坪数 → 必要人工と足りているかを物理計算
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