「外壁塗装、今やらないと値上がりしますよ」
最近こんなセールストークを聞いた方もいるかもしれません。実際、2026年に入って塗料の原材料価格に動きが出ています。しかし、「だから急いで契約すべき」とは限りません。
この記事では、塗料メーカーから届いた一次情報をもとに、いま何が起きているのかを中立的にお伝えし、「急ぐべきか、待つべきか」の判断材料を提供します。
【2026-04-25最新】ホルムズ代替ルート稼働でも塗料値下げは起きない
【2026年5月19日更新】IEA「10月まで深刻な供給不足」警告──夏まで待つ判断の根拠が崩壊
2026年5月、国際エネルギー機関(IEA)が決定的な警告を出した。「米イラン戦闘が来月終了したとしても、石油市場は10月まで深刻な供給不足のまま」——これは公式月次レポートでの公式見解だ。WTI原油は5月14日に103ドル超を週次10%上昇で推移し、ホルムズ海峡は事実上閉鎖が続いている。
施主の方からよく聞く声がある。「夏まで待てば、塗料は値下がりするのでは?」——この期待の前提が、IEA警告で根本から崩れた。塗料原料のナフサは原油から精製される。国際機関が公式に「10月まで供給不足継続」と言っている以上、原料コストの基盤が落ち着くのは早くて秋以降。塗料メーカーが「値下げを発表する局面」は、現時点では予見できない。
加えて、後述の通り過去25年で塗料メーカーが公式値下げを発表した事例は一件もない。「供給が落ち着いたから値下げします」という業界慣行自体が存在しない。IEA警告は「夏まで待てば」という最後の希望を技術的に否定したに過ぎず、業界構造として値下げが起きない事実は、25年間変わっていない。
IEAの月次レポートは英語の専門資料で、外壁塗装の文脈で施主向けに解説されることは稀だ。「なぜ秋以降まで原料コストの基盤が落ち着かないのか」を技術的に説明できる根拠は、メーカー値上げリリースだけでは見えてこない。IEA公式レポート・WTI価格動向・ホルムズ海峡の航行データという3つの独立ソースの照合で初めて、夏待ち判断の妥当性を一次情報ベースで評価できる。本記事はその照合結果を、施工歴25年・250件超の現場感覚と合わせて提示する。なお、ホルムズ閉鎖長期化に伴う資材不足が、現時点でどの工程に影響しているかについては、別途取り上げている。
2026年4月25日時点、中東情勢・メーカー動向に3つの新しい一次情報が加わりましたが、値下げアナウンスは1件も発表されていません。施工歴25年の筆者が、販売代理店経由で受領している通知類と公開情報を総合して、現時点の判断材料を整理します。
新情報① 日本ペイント 2026年6月1日出荷分 製品全般+運賃ダブル改定(溶剤25〜35%・水性20〜30%)
日本ペイントは2026年6月1日出荷分から、塗料類全般(溶剤系25〜35%・水性20〜30%)に加えて直送運賃も地域別に改定する。製品本体と物流費を同時に上げる「ダブル改定」は今回の局面で初めての構造変化だ。
〔経緯〕2026年4月下旬には「5月22日出荷分・10〜25%値上げ」と報じられたが、その後、6月1日出荷分・上記率に確定した(リフォームオンライン2026年5月18日掲載ほか/日本ペイント公式の価格改定リリース)。本記事では最終確定値(6月1日・上記率)を採用する。
本体だけでなく運賃まで上がるため、遠方現場や小口配送ほど見積もりへの跳ね返りが大きくなりうる。
〔参考試算〕30坪戸建て(総額100万円前後)なら塗料代は概ね15〜20万円。今回の水性20〜30%値上げを当てはめると、塗料の仕入れ原価ベースで+3〜6万円程度の上昇要因になる(最小:15万円×20%=3万円)。これは原価の試算で、実際の施工価格への反映幅は業者の在庫・粗利方針で変わる。「だから急げ」ではなく「6月以降の見積もりは値上げが反映されうる」という目安として捉えてほしい。
新情報② ホルムズ代替ルート稼働(4/25日本着予定)
時事通信の報道によると、UAEフジャイラ港・サウジアラビアのヤンブー港経由でホルムズ海峡を迂回するタンカーが、2026年4月25日に日本到着予定となりました。物理的な供給ルートは代替確保されつつありますが、これが塗料値下げに直結するわけではありません。メーカー各社は5月値上げの撤回を一切アナウンスしていないため、施主の視点では「代替ルート稼働でも値下げは起きない」という現実を前提に判断する必要があります。
新情報③ 米海軍 4/19 イラン船拿捕・ブレント95ドル超(4/20)
Bloomberg報道によると、米海軍が2026年4月19日にイラン船を拿捕し、翌4月20日にはブレント原油が95ドル超えとなりました。米イラン停戦合意は継続中ですが、地政学的摩擦は残っており、中東リスクの再燃可能性は排除できません。原油価格が上昇すればナフサ先物も連動し、塗料メーカーの6月以降の改定判断にも影響します。
代替ルート稼働でも値下げされない4つの構造的理由(2026-04-25版)
本記事で一貫して説明している「原油急落と塗料値下げが連動しない理由」は、代替ルート稼働後も変わりません。
- 理由① 在庫・契約のタイムラグ(既報)
- 理由② 4月末〜5月の値上げ通知が既に確定(業界最大手の一角 5/7・6/1、プレマテックス 5/1、日ペシンナー 4/17付通知、エスケー化研 4/21溶剤先行、日ペ 5/22 製品全般10〜25%)
- 理由③ ホルムズ開放 ≠ ナフサ供給回復(既報)
- 理由④ 代替ルート輸送は平時より高コストで、むしろ原価上乗せ要因(新情報)
詳細は各速報の時系列メモ(以下)と、本記事後半の各メーカー別セクションで解説しています。
【2026-04-22 最新】ホルムズ完全開放→原油急落でも塗料が値下げされない理由
2026年4月17日以降、中東情勢が再び動きました。原油市場は急落しましたが、塗料の価格改定はまったく別の論理で進行しています。施工歴25年の現役職人として、4月に手元に届いた一次情報で「値下げされない理由」を整理します。
2026年4月17日、イランのアラグチ外相が「商船の通航は完全に開放された」と表明しました(Bloomberg)。これを受けWTI原油は前日比11.4%安の83.85ドル、北海ブレント原油も88ドル台まで急落しました。
しかし2026年4月20日、一時開放から3日後には中東情勢が再び緊張化し、原油相場は方向感を失いました。「完全開放」の持続性は早くも揺らいでいます。
本記事は、ネットニュースの転載ではありません。施工歴25年の横井が、2026年4月に実際に取引先メーカーから受領した価格改定通知を根拠に、原油市況と塗料価格が連動しない理由を解説します。
理由① 在庫・契約のタイムラグ——今使っている塗料は3〜6ヶ月前の契約ロット
塗料メーカーが原料(ナフサ)を購入してから、実際に現場に塗料として届くまでには3〜6ヶ月のタイムラグがあります。2026年5月の値上げ分は、既に2025年後半〜2026年初頭の原料高騰が反映された価格であり、4月17日以降の原油急落が影響する余地はほとんどありません。「原油が下がった翌日にシンナーの原価が下がる」という即時連動は、塗料業界の仕組みとして起こりません。
理由② 4月に横井の手元に届いた「撤回されていない」値上げ通知3件
【通知②】プレマテックス 2026年5月1日出荷分より — プレマテックスから横井が2026年4月21日に受領した価格改定通知。プレマテックスは代理店を介さず塗装業者と直接取引を行う直販メーカーで、通知内容は以下の通りです。PXシンナー 30〜50%/副資材(シーリング材等)10〜20% の価格改定。塗料製品本体は据え置きですが、「市況悪化が続いた場合は改定の可能性あり」と事実上の予告が添えられています。
プレマテックスの通知にはもう一つ重要な記述があります。「2026年5月1日以降に新たにプレマテックスとの取引を開始する塗装業者」に対しては、据え置きになっている塗料製品本体も 20〜30% の改定対象として扱う、と明言しています。これは塗料メーカーと塗装業者の間(B to B)の取引条件ですが、施主の立場から見ると次の因果が生まれます。5月以降に新規でプレマテックス製品を仕入れる塗装業者では、塗料原価が 20〜30% 高くなり、その上昇分は施主への工事見積もり価格に反映されます。塗装業界の仕入れ構造が、5月を境に段差的に変化している——これは全業界共通の動きとして、記事冒頭で紹介した原油急落とは連動しない、独立した業界内事象です。
【通知③】日本ペイント 建築用シンナー製品 3月19日発注分より 75% 値上げ — 日本ペイントホールディングスが2026年3月25日に発表、Bloomberg・日本経済新聞も同日付近で報じています(Bloomberg「日本ペイントHD、建築用シンナー製品を75%値上げ」/日本経済新聞「日本ペイント、シンナー製品で75%値上げ ホルムズ封鎖受け」)。横井も施工店として販売店経由で 3月31日時点に確認済みです。3月19日の実施から1ヶ月以上経過した4月下旬現在、撤回や値下げの発表は一切出ていません。
理由③ ホルムズ海峡の開放は、ナフサ供給回復と同義ではない
ホルムズ海峡の商船通航が開放されても、日本国内のナフサ供給はすぐに回復しません。韓国ナフサの全量輸出禁止は継続中で、既に開始から5ヶ月を超えています。国内の製油所にも精製キャパの限界があり、原油から精製ガソリン・ナフサへの転換には物理的な時間が必要です。CNN・プレジデント誌も「原油流通の正常化は7月頃」と報じており、これは4月15日版でも同じ見立てでした。「海峡が開いた=塗料原料が戻る」ではありません。
業界全体の傾向としても、2026年4月21日にはエスケー化研が溶剤系塗料 20〜30% 値上げを予定通り実施しています(原油急落後も撤回なし)。3大メーカーのうち、少なくとも日本ペイント・エスケー化研の2社が、原油急落後も値上げスケジュールを変更していません。
結論をあらためて整理します。2026年4月、横井が施工店として受領した値上げ通知3件(業界最大手の一角・プレマテックス・日本ペイント)は、4月17日のホルムズ開放報道の後も1件も撤回されていません。業界全体でもエスケー化研が4/21に値上げを実施済みです。「原油が下がったから塗料も下がる」という期待で契約を先送りすると、むしろ不利な判断になります。では「値上げ前に契約を急ぐべきか」も別の話です。判断基準は別記事で整理しました:判断フレームはこちら
最終更新:2026年4月22日|情報ソース:業界最大手の一角価格改定通知(横井が施工店として2026年4月受領)、プレマテックス価格改定通知(横井が2026年4月21日受領)、日本ペイントHD 2026年3月25日発表、Bloomberg(2026-03-25・2026-04-16)、日本経済新聞、OANDA市況ニュース(2026-04-20)、エスケー化研 公式価格改定通知
【時系列メモ】2026年4月の中東情勢×塗料業界の主要イベント(本記事速報履歴)
- 2026-04-13: 米イラン交渉決裂・米海軍ホルムズ封鎖表明。原油急騰シナリオが議論された段階。
- 2026-04-15: 原油90ドル台・ホルムズ通過再開(パキスタン/トルコタンカー経由)。小康状態に入ったが、供給不足は継続。
- 2026-04-18: Bloomberg/Reuters がホルムズ完全再開を報道。原油価格は下落傾向に転じたが、メーカー値上げ撤回のアナウンスはゼロ。
- 2026-04-22: 筆者受領の値上げ通知3件(業界最大手の一角 6月改定・プレマテックス 5月改定・日ペ 3月シンナー75%)が、ホルムズ完全開放報道の後も1件も撤回されていないことを確認。
- 2026-04-25: ホルムズ代替ルート稼働・日ペ 5/22 製品全般10-25%値上げ報道・米海軍イラン船拿捕(4/19)を総合反映(本記事冒頭セクション参照)。
上記5日間の時系列は、「原油が動いても塗料価格は別構造で決まる」という本記事の主張を裏付ける証拠として記録しています。詳細な各日の速報本文はバージョン管理のため、Wayback Machine等の過去アーカイブを参照してください。
いま何が起きているか——塗料メーカーからの通知内容
2026年3月23日付で、私たちが取引している建築塗料メーカー(国内大手)から、取引先向けの通知が届きました。要点は以下のとおりです。
- ホルムズ海峡の物流停滞・供給不安により、石油化学製品全般の原材料価格が急騰している
- 塗料の主成分である溶剤・樹脂の仕入れ価格が上昇し、調達環境が悪化している
- 4月以降、事前告知なく急な価格改定を行う可能性がある
- 従来の特別価格条件についても、4月以降は維持が困難になる場合がある
重要な補足:この通知は「価格改定が決定した」という内容ではありません。「状況次第で価格改定の案内をする可能性がある」という予告です。
つまり、確定した値上げではなく、値上げの可能性がある段階です。
なぜ塗料が値上がりするのか——原材料と為替のダブルパンチ
塗料の値上がりには、2つの要因が重なっています。
要因①:原油・ナフサ価格の上昇
外壁塗装に使われる塗料(シリコン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂など)の原材料は、石油由来のナフサから作られます。ホルムズ海峡の物流停滞は、世界の原油供給の約20%に影響を与えるため、ナフサ価格の上昇に直結します。
要因②:円安による輸入コスト増
原材料の多くは海外から輸入されるため、円安が進めば仕入れコストが上がります。2026年に入ってからの為替動向も、塗料メーカーにとっては逆風です。
2026年3月末時点で、ドル円相場は160円台前半で推移しています。輸入原材料のコスト高は現在も継続中です。一部の金融機関(三井住友DSアセットマネジメント等)は年末に150円程度まで円高に戻ると予想していますが、日銀の利上げペースや米国の金融政策次第であり、現時点では不透明と言わざるを得ません。
施主の立場で言えば、「円安で塗料がさらに上がるから今すぐ契約を」という営業トークに焦る必要はありません。為替が仮に150円に戻ったとしても、塗料代は総工事費の15〜20%程度です。為替変動による影響額は、30坪住宅で数万円の範囲に収まるのが現実です。冷静に見積もりの中身(人工数・工程・塗料グレード)を確認することの方がはるかに重要です。
過去の値上げ実績
実は、塗料の価格改定はこれが初めてではありません。
- 2022年:大手塗料メーカー各社が10〜15%の値上げを実施
- 2023年:一部メーカーがさらに5〜10%の追加値上げ
- 2024〜2025年:原油価格の安定で据え置き
今回は2年ぶりの値上げリスクが浮上しているということです。
グレードごとの原価構造と30年トータルコストの比較は、塗料グレード別「原価」徹底比較で詳しく分析しています。
塗料代は外壁塗装の総費用の15〜20%——値上げの影響を冷静に計算する
ここが最も大事なポイントです。
外壁塗装の総費用のうち、塗料代が占める割合は15〜20%程度です。残りの80〜85%は、人件費(職人の日当×人工数)、足場代、諸経費です。
つまり、仮に塗料が10%値上がりしたとしても、総費用への影響は以下のとおりです。
100万円の工事の場合:
- 塗料代(20%)=20万円
- 塗料が10%値上げ → 20万円 × 1.1 = 22万円
- 総費用への影響=+2万円(2%増)
塗料が仮に20%上がっても、総費用の増加は3〜4%程度にとどまります。
「値上がりするから今すぐ契約しないと損」という煽りに対して、この数字を知っていれば冷静に判断できます。
見積もりの総額が適正かどうかは、人工単価から適正価格を逆算する方法で数字で判断できます。
「値上がりするから急いで」という業者に注意——焦らされたら警戒すべき理由
値上がりの情報自体は事実です。しかし、それを利用して契約を急がせる業者には注意が必要です。
注意パターン①:「今月中に契約すれば旧価格で」
塗料メーカーからの通知は「4月以降に値上げの可能性」です。3月中に契約しても、実際の施工が4〜5月になれば値上げ後の塗料を使う可能性があります。契約日と塗料の仕入れ日は別です。
既に契約済みで値上げ通知を受け取った方の対処は、契約後値上げ通知の防衛マニュアルを参照してください。
注意パターン②:「今だけ特別割引」
値上がりを理由にした「今だけ割引」は、訪問販売や悪質業者の常套手段です。値上がり前だから安いのではなく、もともと適正価格でない可能性があります。
注意パターン③:値上げ分を手抜きで吸収する業者
ここが最も深刻なリスクです。
塗料が値上がりすると、業者の利益が圧迫されます。真っ当な業者は価格転嫁(見積もりへの反映)で対応しますが、悪質な業者は価格を据え置いたまま、見えない部分で手を抜きます。
人工(にんく=職人1人が1日で行う作業量)の視点で見ると:
- 塗料を規定より薄める(希釈過多)→ 塗料代を1〜2万円削減
- 下塗りを1回省略 → 1〜2人工を削減(日当分18,000〜25,000円×1〜2=最大5万円削減)
- 3回塗りを2回塗りで済ませる → 同上
塗料が値上がりした後こそ、「安すぎる見積もり」は手抜きのサインです。見積もりの総額だけでなく、人工数を逆算して適正かどうかを確認してください。
どの工事に具体的に影響が出ているかは、姉妹記事「塗料・資材不足で今できない工事・遅れている工事まとめ」で工事の種類ごとに整理しています。
過去25年で「メーカー値下げ発表」はゼロ — 横井25年経験 + 業界統計の照合
横井が2001年に塗装の世界に入ってから今日まで、25年間で塗料メーカーから「値下げ通知」を一度も受け取ったことがない。これは私個人の記憶だけの話ではなく、業界紙バックナンバー・各メーカーの公式IR・SEC提出書類を横断確認した結果でも、同じ結論になる。日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研の3社で、2001年から2025年までの25年間に出された価格改定の公式リリースは、調べた範囲でいずれも「値上げ」「運賃改定」「出荷制限」のいずれかであり、「値下げ」を公式発表した事例は確認できなかった。
2001-2007年:原油高騰局面で値上げスタート、撤回なし
横井が業界に入った2001年から2007年までの7年間は、塗料業界が「コスト転嫁の本格化」を始めた時期だ。2004年7月には日本ペイントが塗料・シンナーを10%以上値上げ(同年8月1日出荷分から)。この値上げは2008年3月の追加値上げまで撤回されることなく据え置かれた。
この時期、為替は1ドル108円前後、WTI原油は40ドル台前半。後の急騰局面と比べれば「穏やか」と言える環境だったが、それでもメーカーは一度上げた価格を戻さなかった。
出典: 日本海事新聞 2004年7月「日本ペイント、塗料・シンナー10%以上値上げ」
2008-2015年:リーマン・震災・シェール革命でも撤回なし
この8年間は、塗料業界が「値下げをしない」という体質を最も明確に示した時期だ。2008年7月、WTI原油は史上最高値147ドルを記録。日本ペイントはこの直前の3月に「塗料10-20%、シンナー15-25%」の値上げを公式リリースした。
ところが、その後WTIは半年で32ドル台まで暴落する(リーマンショック)。原油が3分の1以下になったにもかかわらず、日本ペイント・関西ペイント・エスケー化研いずれも値下げ発表は出していない。当時を知る業界関係者の中にも、「リーマン後に値下げした記憶は、あまりない」と語る声が多い。これは値下げがあったかどうかすら印象に残らないほど、価格は据え置かれたままだったということだ。
2011年の東日本大震災後も同様だ。日本ペイントは2011年6月に「自助努力の限界を超える状況」として、塗料10-15%・シンナー15%以上の値上げを発表(7月1日出荷分)。シーリング材・塗料の供給が逼迫した震災後の局面でも、値上げ撤回や値下げ通知は確認できない。
そして2014-2016年のシェール革命。WTIは100ドル台から26ドル台まで急落した。塗料メーカーの値下げ発表は、この期間にも出ていない。むしろ2018年2月には日本ペイントが追加で5-10%値上げを実施し、関西ペイントが追随した。
出典: 日本ペイント 2008年3月値上げリリース / 日本ペイントHD 2011年6月14日リリース
2016-2025年:コロナマイナス価格・円安160円でも撤回なし
直近10年は、業界の「一方向性」が最も極端に現れた時期だ。象徴的なのが2020年4月20日。WTI原油先物5月限が、史上初めてマイナス価格(終値マイナス37.63ドル/バレル)を記録した日だ。原油を引き取ると、引き取った側が金を受け取るという異常事態。それでも日本・海外いずれの塗料メーカーも値下げ発表は行わなかった。
2021年からの値上げラッシュはご存じの通りだ。関西ペイントは2021年6月→2022年2月→2022年8月→2023年7月と、コロナ禍以降だけで4回連続の価格改定(すべて値上げ)を実施。日本ペイントも2021年9月、2022年5月、2023年3月、2024年、2025年7月と、ほぼ毎年値上げを発表し続けている。
為替が2022年に1ドル145円を突破し、その後150円台・160円台まで進行したが、その間も塗料メーカーから「為替が落ち着いたので値下げします」というリリースは出ていない。Saudi Aramcoが2026年5月の会見で「再均衡まで数か月、遅れれば2027年にずれ込む」と発言したことも、こうした一方向性の現在進行形だ。
この「過去25年で値下げゼロ」という結論は、横井個人25年・250件超の現役経験に基づくものだ。ただし、家業として塗料価格を見続けてきた時間軸は、もう一回り長い。横井塗装は1975年創業——今年で創業50年を迎える。父の世代まで含めれば、家業として塗料価格を見続けてきた累計はおよそ50年に及ぶ。
家業継承の場で、父と何度も話してきた。「これまでメーカーが値下げを発表したことはあったか」——父の答えは決まっていた。「値下げは一度もない」。長年お付き合いのある年季の長いパートナーさんに同じ質問をしても、返ってくる答えは同じだ。私個人25年の現役経験と、創業50年の家業時間軸——どちらのスケールで見ても、塗料メーカーが公式に値下げを発表した事例は確認できない。
塗料メーカーが値下げを発表しないだけではありません。値上げの影響は塗装工事業者の経営に直接ダメージを与えています。東京商工リサーチによる2025年度集計では、塗装工事業の倒産は143件——前年度比+22.2%、過去20年で最多・23年ぶりの140件超え水準でした。倒産の8割超が「販売不振」で、資本金1,000万円未満の小・零細企業が93%を占めています。
さらに直近の動向として、日本経済新聞が2026年5月に報じた東京商工リサーチの新集計では、2026年1-4月だけで塗装工事業の倒産は48件——月平均12件のペースで推移しています。このペースで進めば、年換算で144件以上——前年度の143件と同水準か、それを上回る可能性があります。在庫余力の乏しい小・零細塗装業者は、値上げ分を見積もりに転嫁しきれず、価格競争で吸収する局面で経営が破綻しています。
施主にとって意味することは1つです。値上げ局面では、業者選定の重要性が桁違いに上がります。資材高騰を価格に正しく反映できる業者は工事を続けられますが、競争で吸収せざるを得ない業者は、人件費を削り、工程を削り、最終的には施工品質を犠牲にするか、倒産します。安すぎる見積もりが出てきた業者は、選んではいけません——倒産リスクがそのまま施主の保証リスクになります。
25年見てきて、結論は一つ。「待っていれば安くなる」は、塗料業界の歴史的事実とは合わない。
出典: WTI 2020年4月20日マイナス価格 / 関西ペイント 2022年価格改定 / 日本ペイント 2025年5月16日リリース
1975年創業二代目から見える「値上げの50年史」
外壁塗装の塗料の値段は、本来「だんだん」上がっていくものだった。私が父から家業を継いだ時に教わった価格感覚は、シンプルだった——「塗料はだんだん値上がりする。だから見積もりも、なんとなく上に振っておけ」。
50年の家業継承の中で、この感覚は2025年まで通用してきた。それが2026年、初めて崩れた。
父のやり方をそのまま使えた最初の18年(2001-2019)
2001年に塗装の世界に入ってからの最初の18年間、私は父のやり方をほぼそのまま踏襲していた。
メーカーが価格を改定する。販売店からFAXが届く。「○月○日出荷分から、塗料5%・シンナー10%値上げします」。見積もりの単価をそっと上げる。施主には「材料費が少し上がりまして」と一言添える。それで誰も困らなかった。年に数%、ゆっくり上がる前提で、業界が回っていた。父の代から続く「だんだん値上がり」の常識は、ここまでなら家業の知恵として有効だった。
継承後しばらくして、自分なりに気づいた業界の仕組み
継承後しばらくして、価格感覚だけでは見えない業界構造があることに気づき始めた。きっかけは、ある時期から仕入れ先を2社から4社に増やしたことだ。
仕入れ先を分散させて初めて、同じメーカーの同じ製品でも、流通経路によって仕入れ価格が異なることが見えてきた。大手メーカーの塗料でも実は、自社工場ではなく協力工場ネットワーク経由で作られているケースが多い。販売店を1段噛ませる流通と、工場から直接出荷される流通とでは、コスト構造が違う。
プレマテックスのような「工場直送系」のメーカーの存在を知ったのも、この時期だ。中間流通を1段省けば、塗料の仕入れ単価は同等製品と比べて10〜15%安くなる。25坪の住宅1棟分で計算すれば、材料費だけで数万円規模の差になる。これは父の代では認識されていなかった構造だった。父の現役時代は、地元の販売店から仕入れるのが当たり前で、流通経路を組み替えるという発想自体が業界に存在しなかった。二代目になって、自分なりに業界全体を見渡せるようになって、初めて「だんだん値上がり」だけでは説明できない価格差の正体が見えた。
2026年、家業50年で初めて「追いつかない」局面が来た
そして2026年。日本ペイントのシンナー75%値上げ、関西ペイント50%超、エスケー化研20〜30%(溶剤系)、シーリング材の主要メーカーも出荷停止——一度に来たこの振れ幅は、もう「だんだん」ではない。
仕入れ先を4社に分散させていたおかげで、ある程度の調整余地は残っている。それでも、25年間積み上げてきた「価格感覚で見積もりに反映する」というやり方では、もはやキャッチアップが追いつかない。販売店FAXの値上げ通知に「単価をそっと上げる」だけでは、施主に対して責任ある見積もりを出せない局面に来てしまった。
家業として継承された50年分のノウハウと、二代目として25年かけて積み上げてきた業界理解と、継承後しばらくして気づいた流通構造の知識——その全部を動員しても、今回ばかりは「だんだん」前提の業界経験から外れた事態だ。
施主の立場から見ると、これは何を意味するか。「業者の長年の勘で見積もりを出している」店ほど、2026年の急変には対応が遅れるということだ。逆に、自社で仕入れ構造を組み替えてきた業者は、現時点の価格を正確に見積もりに織り込める。これは2026年特有の業者選定の分かれ目になる。
ただし——50年の家業継承で一度も変わらなかった事実は、今回も変わらない。過去25年、塗料メーカーが公式に値下げを発表した事例は一件もない。それは前章で見たとおりだ。「だんだん」が「急変」に変わっただけで、「値下げが来る」という現象は、私の家業の歴史にも、業界の歴史にも、存在しない。
値下げが起きない3つの理由——「ホルムズ再開まで待つ」に合理性がないわけ
「ホルムズ海峡が再開したなら、塗料も値下げするのでは?」という質問をよくいただきます。結論から言うと、値下げは起こりません。理由を3つに整理します。
理由①:価格改定は原油の短期変動では撤回されない(業界構造)
塗料メーカーの価格改定は、原材料の先渡し契約・在庫評価・販売代理店への通知・流通在庫の更新など、多段階の運用プロセスを経て実施されます。発表済みの値上げを原油の短期変動で撤回することは、業界の慣行として想定されていません。
実際、過去25年間、日本の主要塗料メーカー(日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研、菊水化学工業、アイカ工業)が公式に「値下げ」を発表した事例は、一件も確認されていません。原油が147ドルから32ドルへ急落した2008年リーマン後も、100ドル超から26ドルへ暴落した2014-2016年も、WTIが一時マイナスを記録した2020年コロナ時も、メーカーは一貫して「据え置き」で対応してきました。
これは日本特有の現象ではなく、PPG(米)、Sherwin-Williams(米)、AkzoNobel(蘭)など世界大手でも同様で、経済学では「Rockets and Feathers(価格は上がる時はロケット、下がる時は羽のよう)」として広く実証されている業界構造です。PPG前CEOのマクギャリー氏は2022年の決算説明会で「我々はこの価格を戻すつもりは全くない」と明言し、LIXIL瀬戸欣哉CEOも「値下げをすることは自分たちの首を絞めることになる」と発言しています。
加えて、現代の塗料は石油由来の溶剤よりも、酸化チタン(顔料)や特殊合成樹脂(性能の要)、金属缶・配送運賃・人件費など、石油価格から独立して動くコストの比重が高まっています。原油が下がっても、これらのコストが戻ることはありません。
理由②:4月中旬出荷分はすでに新価格で流通中
日本ペイントは3月19日発注分からシンナー類を最大75%、エスケー化研は4月21日以降で溶剤系20〜30%、関西ペイントは4月13日以降で50%以上の値上げを実施しています。これらはすでに新価格で市場を流れており、流通在庫の大半が新単価に更新されています。仮にメーカーが方針転換しても、すでに流通した材料が戻ることはありません。
理由③:四半期サイクル前提が崩れ、メーカーは値上げを「恒久維持」する方針
塗料業界の価格改定は、かつては四半期単位で運用されてきた。しかし2026年に入って状況は明確に変わった。日本ペイントの6月ダブル改定(前章参照)が示すように、メーカーは四半期サイクルを待たず連続値上げに踏み込んでいる。
さらに、メーカー各社は今回の値上げを「恒久的に維持する」見通しを示している。中東情勢が落ち着いたとしても価格は戻さない、という前提だ。背景はナフサ供給構造の脆弱性、職人賃金・燃料費などの固定費上昇、そして円安とインフレが構造的に進んでいることにある。
「ホルムズが再開すれば値下げが来る」という期待は、メーカーが値下げを行う動機を持たない以上、現実的ではない。値下げを待つ間にも、雨季・夏季の劣化進行、足場代の再発生、見積もり有効期限切れなど、別のコストが積み上がる。
【2026年5月追記】10月以降の契約は、全メーカー値上げが「フル反映」される
本記事公開後の市況変化を1点だけ追記する。
2026年4〜6月の値上げは、各社の在庫消化サイクルの関係で、すべての現場価格に即座には反映されていない。メーカーから卸、卸から塗装店、塗装店から施主の見積もりへ——価格が伝わるまでに時間差がある。
業界の取材報道によれば、2026年10月以降に新規契約される工事は、ここまでの全メーカー値上げが「フル反映」された見積もりになる見通しだ。前章で見た三世代の職人証言どおり、メーカーが値下げに転じる兆しは見えない。
「もう少し様子を見たい」という判断は、待つほどに反映幅が大きくなる構造を踏まえて行う必要がある。
業者選定で見るべき3つの軸
業者選定で値段だけを見ると、安かろう悪かろうの工事に当たります。施工歴25年・250件超の現場経験から、施主が見るべき判断軸は次の3つです。値上げ局面の2026年こそ、この3軸が業者を見分ける決定的な分かれ目になります。
軸① 人件費がしっかり確保されているか — 工事品質は「時間」で決まる
良い工事とは、必要な工程に必要な時間がかけられている工事です。塗装の品質は、塗料の種類よりも「乾燥時間を守れているか」「重ね塗りの間に十分な時間を取れているか」で決まります。そしてその時間を確保するには、見積もりに十分な人件費が組み込まれている必要があります。人件費を削れば、必ず工程時間が削られ、雑な仕上がりになる——これは現場の物理的な制約です。
良い業者: 見積書に人件費の内訳が明示されている。工程ごとの人工数(にんく=職人何人で何日かかるか)を聞けば明確に答えられる。悪い業者: 一式見積もりで人件費が分からない。「人工数は出せません」と言う。極端に安い見積もりが出てくる。
軸② 誰が施工するのか — 「逃げられない業者」を選ぶ
下請け業者は、案件ごとに移動できます。何か問題が起きても、次の現場・次の元請けに移れば責任を負わなくて済む——いわば「渡り鳥」の構造です。一方、地元密着の業者や、自社施工で長年営業している業者は、信用第一で逃げられません。同じ地域で次の仕事を取り続ける必要があるからこそ、責任感が自然と高くなります。
良い業者: 自社施工 or 地元密着で長く営業している。工事後5年・10年経っても連絡が取れる。補修依頼に応じる。悪い業者: 営業会社が契約だけ取って、施工は別の下請け業者に丸投げ。元請けと施工者が違う。連絡先が変わりやすい。
軸③ 工事の進捗が見える形になっているか — 「言った言わない」を防ぐ
塗装工事は「言った言わないが多い」業界です。工程ごとの記録がなければ、施主は何が起きたのか後から検証できません。特に乾燥時間が品質を左右する塗装では、いつ・どの工程を行ったかが見える化されているかが決定的に重要です。報告がスムーズに行われない業者は、その時点で品質管理が破綻している可能性があります。
良い業者: 工程ごとに写真記録・日報・LINEや工事日誌で進捗共有。連絡返信が早い。悪い業者: 工事中の連絡が取りづらい。完了後に「言った・言わない」になる。工程写真がない。
業者として「絶対にやらない」3つ(職人の倫理線)
3つの判断軸の裏側として、施工歴25年の職人が「これは絶対にやらない」と決めている行為が3つあります。逆に言えば、これをやる業者は信用できないというシグナルです。
1. 下塗りと上塗り塗料を混ぜて、一回で仕上げる施工。同業のパートナー職人から聞いた、ある現場の実話です。下塗り(プライマー)と上塗り(トップコート)は、機能が全く違います——下塗りは接着・防錆・吸い込み止め、上塗りは耐候性・色・仕上げ。これを混ぜて一回塗りで終わらせる業者が実在するという話に、衝撃を受けました。両方の機能が破壊され、塗膜厚も不足し、数年で剥離する施工です。意味が分からない、業界の常識を完全に逸脱した行為です。
2. 工事中の連絡途絶(音信不通・進捗報告なし)。責任感がなさすぎます。施主の不安要素 No.1 は「自分の家で何が起きているか分からない」状態です。トラブルが起きた時の対応も不可能になり、後の「言った・言わない」問題に直結します。軸③ の真逆を行く業者は、選んではいけません。
3. ご近所配慮なし(工事前の挨拶を疎かにする)。工事中は騒音・足場・塗料臭・車両通行・養生材飛散など、近隣に影響が出ます。最初の挨拶次第で、大変なことにつながる——業者は工事後に去りますが、施主はその近所と一生付き合います。「挨拶もできない業者」は、細部への配慮全般が欠けているサインです。
3つの判断軸(①人件費 ②責任の所在 ③進捗可視化)と、3つの絶対やらないライン(①混合施工 ②連絡途絶 ③配慮なし)——これらは値上げ局面の2026年において、業者選定の6点フレームワークとして機能します。「この業者は大丈夫か」「見積書のこの項目はどう判断すれば良いか」と迷ったら、無料セカンドオピニオン or AI診断(500円)で、施工歴25年の職人が確認します。
「値下げを待たない」と判断したら、次は業者選定です。値上げ局面では業者間の対応力の差が広がります。以下の3軸で比較することで、値上げリスクを個別の業者がどう吸収するか見えてきます。
軸①:価格の透明性——見積書に4月中旬値上げ分が反映されているか、各項目単価が確認できるか。値上げを盛り込んでいない業者は、契約後に追加請求を提示してくるリスクがあります。
軸②:調達の安定性——塗料・コーキング・下塗材の在庫確保状況、代替メーカーへの切替え可否。在庫のある業者と都度発注の業者では、工期遵守の確度が変わります。
軸③:保証とアフターフォロー——契約後の追加請求条項の有無、10年保証の実質的カバー範囲。値上げ局面では経営体力の差が保証の実効性に直結します。
もし、手元の見積もりが上記3軸で判断できるか不安な方は、施工歴25年・250件超の職人がセカンドオピニオンとして無料で確認します。お急ぎの場合はAI見積もり診断(¥500・即日)もご利用いただけます。
施主が今やるべきこと——3つの選択肢
選択肢A:2026年前半に施工する(値上げ前に確定できる可能性あり)
メリット:
- 現行価格で塗料を調達できる可能性が高い
- 春〜初夏は塗装に適した季節
デメリット:
- 急いで契約すると業者選びが雑になるリスク
- 焦りで判断を誤る方が、塗料代2〜3万円の差より遥かに高くつく
選択肢B:じっくり業者選びをして2026年後半〜2027年に施工する
メリット:
- 十分な比較検討ができる
- 値上げが小幅で済む可能性もある
デメリット:
- 値上げが実施されれば総費用が2〜4%上がる
選択肢C:補助金との組み合わせでタイミングを最適化する
2026年度は外壁塗装に使える補助金・助成金の制度も変化しています。補助金の申請時期と施工時期を合わせることで、値上げ分を相殺できる可能性もあります。
愛知県にお住まいの方は愛知県の外壁塗装助成金ガイド2026も参考にしてください。
国の補助金制度である住宅省エネ2026キャンペーンの対象になるかも合わせて確認しておきましょう。
結論:塗料の値上がりだけを理由に急ぐ必要はありません。
2〜4%の費用増と、業者選びを間違えるリスクを天秤にかければ、冷静に業者を選ぶことの方が圧倒的に大事です。
値上げ後の見積もりが適正かを判断する方法
値上げが実施された場合、「これは値上げ分が乗っている適正な見積もりなのか、それとも便乗値上げなのか」を判断する必要があります。
方法①:人工逆算チェック
見積もりの総額から職人の日当を逆算します。
見積総額 × 0.4(人件費率)÷ 20人工(30坪標準)= 推定職人日当
この推定日当が18,000円以上であれば適正範囲。15,000円未満なら手抜きリスクが高い。これは人工理論の基本です。
なぜ安い見積もりが構造的に手抜きにつながるのか、その経済的メカニズムは「安い塗装業者」が手抜きになる経済的理由で詳しく解説しています。
方法②:塗料代の内訳を確認
見積書に塗料のメーカー名・品番・使用缶数が記載されていれば、メーカーの公開カタログ価格と照合できます。「塗料一式」表記で内訳がない見積もりは、値上げ前でも後でも要注意です。
方法③:セカンドオピニオンを活用
セカンドオピニオン(無料)で第三者チェック — 見積書の写真を送るだけ。所要3分、施工歴25年・250件超の職人が「この金額は適正か」をお伝えします。
より詳しい数値分析が必要な方は → AI見積もり診断(¥500)で即日レポート
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セカンドオピニオンの具体的な活用方法は外壁塗装のセカンドオピニオン完全ガイドで詳しく解説しています。
値上げ分は、どこに転嫁されるのか
外壁塗装の費用は、大きく3つの要素で構成されています。
- 塗料・材料費(全体の約20〜30%)
- 人件費=人工(にんく)(全体の約30〜40%)
- その他(足場代・利益・管理費など)
塗料が値上がりすると、見積もりの総額は上がります。しかし、施主の予算が同じように上がるわけではありません。
ここで業者の対応が分かれます。
誠実な業者は、値上がり分を正直に見積もりに反映します。「去年より塗料代が上がっているので、総額はこのくらいになります」と説明できる。
一方、価格競争を優先する業者は、総額を据え置くために「人工」を削ります。人工とは職人の作業量のこと。塗料代が上がった分、工程の数や時間を減らして帳尻を合わせる。たとえば3回塗りを2回にする、ケレン(下地処理)を省く、乾燥時間を短縮するといった形です。
問題は、工程が省かれても塗り立ての状態では見た目に差が出にくいことです。手抜きが目に見える形で現れるのは、多くの場合2〜5年後。色あせ、剥がれ、膨れといった症状として出てきます。
見積書で見抜くポイント
値上げ局面で見積書を見るとき、確認すべきは総額だけではありません。
「人工数」または「工程の内訳」が記載されているか。たとえば「外壁塗装一式 ○○万円」としか書かれていない場合、塗料代と人件費の内訳がわかりません。値上がり分がどこに反映されているのか(あるいは反映されていないのか)が判断できない。
逆に、工程ごとに人工数や単価が書かれている見積書であれば、「この工程に何日かけるのか」「去年の見積もりと比べて工程が減っていないか」を確認できます。
見積書の読み方について詳しくは、人工(にんく)で見積書を読み解く方法で解説しています。
値上げ局面で省かれやすい3つの工程
現場の実感として、コスト削減の対象になりやすいのは以下の3つです。
1. ケレン(下地処理)
旧塗膜のサンディングや錆落とし。地味で時間がかかるが、塗膜の密着性を左右する最も重要な工程。ケレンを省くと、どれだけ良い塗料を塗っても数年で剥がれる。
2. 下塗り
上塗り塗料と外壁材の間の接着剤のような役割。省略したり薄く塗ったりすると、上塗りが外壁に定着しない。
3. 乾燥時間
工程間の乾燥時間を短縮すると、見た目は同じでも塗膜の強度が落ちる。本来、下塗り→中塗り→上塗りの間にそれぞれ十分な乾燥時間が必要。
これらの工程が見積書にどう記載されているかの確認方法は、外壁塗装の手抜きを見抜くチェックポイントで詳しく解説しています。
【速報】塗料の値上げ・出荷制限の最新状況(2026年4月14日更新)
交渉決裂が塗料市場に与える影響──「第3波」はすでに始まっ���いる
4月12日の交渉決裂により、塗料市場への影響は3段階で進行しています。
第1波(3月):シンナーの75〜80%値上げ。ホルムズ封鎖直後、ナフサ価格が2倍に急騰。溶剤系塗料の希釈に使うシンナーから影響が始まりました。
第2波(4〜5月):塗料本体の10〜20%値上げ。日本ペイントは4月16日出荷分から本体10〜20%+シンナー15〜25%の追加値上げ。全メーカーが追随する見通しです。
第3波(5月〜):水性塗料にも波及。エスケー化研は5月11日から水性塗料も15〜25%値上げを発表。水性塗料はシンナーを使わないため「影響なし」と思われていましたが、樹脂原料(アクリル・ウレタン)もナフサ由来であるため、結局は値上げ対象になりました。「水性に逃げれば大丈夫」という見方は楽観的すぎたと言わざるを得ません。
交渉決裂でホルムズ正常化が遠のいた以上、第4波(全製品の再値上げ+供給制限の拡大)の可能性も否定できません。「もう少し待てば安くなるかも」と工事を先延ばしにしている方は、以下の記事もあわせてご確認ください。
→ 見積もりが去年より高い?便乗値上げかどうかを見分ける方法
中東情勢の悪化による原材料調達の混乱が、塗料業界全体に波及しています。2026年4月9日時点で、塗料メーカー6社・シーリング材メーカー1社と塗料販売店で出荷停止・出荷困難・受注制限・供給制限が確認されています。詳細はシーリング材1社の受注停止と出荷制限で整理しています。
日本ペイント:全般的に通常出荷が困難に
業界最大手の日本ペイントでも、2026年3月末時点で全般的に通常出荷が困難になりつつあるとの情報が、塗料販売店から入っています。特に錆止め関係の塗料は品薄から出荷不可の状態です。
錆止め塗料は、鉄部(雨戸・手すり・鉄骨階段など)の塗装に欠かせない下塗り材です。これが入手できないと、鉄部の塗装工程が進められなくなる可能性があります。
プレマテックス:シンナー類が欠品
プレマテックス社では、油性塗料の希釈に使うPXシンナーが欠品となっています。塗料本体はまだ欠品に至っていないものの、情勢が不透明なため、いつ他の製品も欠品になるかわからない状況とのことです。
シンナーは油性塗料の施工に不可欠です。シンナーが手に入らなければ、塗料があっても施工できません。
関西ペイント:シンナー出荷統制+50%以上値上げ(4月2日発表)
4月2日、関西ペイントが公式にシンナー製品全般の出荷統制を発表しました。
4月13日出荷分より50%以上の値上げ。さらに、4月2日17時以降の受注は前年実績を上限に制限されており、事実上の受注制限です。
関西ペイントは日本ペイントに次ぐ国内2位の塗料メーカーです。大手2社がともに供給制限に踏み切ったことで、業界全体への影響は避けられない状況になっています。
エスケー化研:シンナー80%値上げ(3月〜)
エスケー化研ではシンナー類が3月から80%の値上げとなっています。
日本ペイント75%、関西ペイント50%以上、エスケー化研80%と、大手3社すべてでシンナーが大幅値上げされています。塗料本体よりもシンナーの方が値上げ幅が大きいのが特徴です。油性塗料(溶剤系)を使う工事では、塗料代だけでなくシンナー代の上昇分も見積もりに影響します。
注文が急激に増加しており、業者が材料確保に動いている状況がうかがえます。塗料本体があってもシンナーがなければ施工できないため、工事への影響は大きくなります。
1社あたり1缶のみ、弱溶剤製品との同時注文に限り対応(シンナー単品での注文は不可)。注文が急激に増加しており、業者が材料確保に動いている状況がうかがえます。
塗料販売店でも供給制限が始まっています
メーカーだけでなく、塗料販売店レベルでも公式に供給制限が通知されています。
シンナー受注制限:同時に購入する溶剤塗料の総重量の10%が注文上限。現場情報の確認:物件名・施工面積・直近の施工スケジュールの確認が必要に(買い溜め防止)。価格改定予告:原材料高騰により仕入れ価格上昇の可能性。
塗料販売店のモリエンからの公式通知によると、シンナーは同時に購入する溶剤塗料の総重量の10%が注文上限。発注時には物件名・施工面積・直近の施工スケジュールの確認が必要になっています(買い溜め防止のため)。原材料高騰による価格改定も予告されています。
注目すべきは、販売店が「ホルムズ海峡封鎖→ナフサ供給停止」と公式に言及している点です。これは特定メーカーの問題ではなく、原材料の流通そのものが止まっていることが販売現場で確認されていることを意味します。
モリエンの公式ブログ( https://www.morien.com/blog/3062/ )で最新の供給状況が公開されています。
オート化学工業:シーリング材が全製品で供給制限(4月9日〜)
シーリング材大手のオート化学工業が、2026年4月9日付で全製品の供給制限を開始しました。制限の基準は「2025年4月〜2026年3月の月間平均販売実績」を上限とするもので、解除時期は未定です。
同社の通知では、中東情勢に伴うホルムズ海峡封鎖により原油・石油関連原料の国際的な供給網が著しく混乱していること、注文量が通常を大きく上回り供給体制の維持が困難であることが説明されています。
シーリング材(コーキング)は、外壁のサイディングボードの目地や、窓まわり・ドアまわりの防水処理に使われる材料です。シーリング材が手に入らなければ、外壁塗装工事のうち「コーキング打ち替え」の工程が進められなくなる可能性があります。
すでに業界最大手の一角(出荷停止)、日本ペイント(錆止め出荷不可)、プレマテックス(シンナー欠品)に加え、シーリング材の供給にも制限がかかったことで、塗装工事に必要な材料の確保は一段と難しくなっています。
※この情報は、オート化学工業のFAX通知(2026年4月9日付、NO.4191)をもとに記載しています。
施主の方が今すべきこと
中東情勢の影響は、特定メーカーの個別事情ではなく、塗料業界全体に広がっています。業界最大手の一角、日本ペイント、プレマテックス、関西ペイント、エスケー化研に加え、シーリング材大手のオート化学工業も供給制限に踏み切りました。メーカーの規模や製品ジャンルを問わず影響が出ています。さらに、塗料販売店レベルでも供給制限が始まっており、「メーカー→販売店→施工業者→施主」の流通チェーン全体に影響が出ている状況です。
もし現在、見積もりを受け取っている方や、これから塗装を検討している方は、以下の点を業者に確認してください。
✓業者に確認すべき7つのポイント
- 見積もりに記載されている塗料の在庫は確保されているか
- 出荷停止が長引いた場合の代替塗料の提案はあるか
- 代替塗料に変更する場合、金額や性能にどの程度の違いがあるか
- 工期への影響はあるか
- 油性塗料(溶剤系)で見積もりを受けている場合、水性塗料への変更を提案してもらえるか
- 養生資材(養生テープ・マスカー等)にも入荷遅れが出ている。工期に余裕を持って計画できるか
- 施工に使う塗料は自社で管理・発注しているかを確認する。自社施工の業者と、下請けに材料を支給する元請け業者では、供給危機への対応力が大きく異なる
「値上げ前に急いで契約すべき」と焦る必要はありません。出荷停止で材料が手に入らないのに契約を急がせる業者がいたら、むしろ注意が必要です。材料の確保状況を具体的に説明できる業者を選びましょう。
値上げの先にある「出荷停止」という現実
塗料の値上げは、原材料価格の上昇が根本原因です。その延長線上には、値上げしても対応しきれない「出荷停止」があります。今回の事例は、中東情勢が塗料の流通に直接影響していることを示す具体例です。
この状況は今後も変化する可能性があります。新しい情報が入り次第、このページを更新していきます。
現場で何が起きるか——塗料が足りなくなった時のリスク
供給が不安定な今、最も注意すべきは「途中で材料が足りなくなった場合」です。
自社で材料を管理している業者であれば、事前に必要量を計算し、塗料を押さえておく判断ができます。筆者(横井)も、今回は屋根用塗料と調色の基本となる白を優先的に発注しました。白さえあれば手持ちの色材で多くの色に対応できるからです。
一方、下請けに施工を任せている元請け業者の場合、構造が異なります。下請け職人は元請けから支給された塗料を塗るだけなので、自分で材料を確保する判断をする立場にありません。また、現場を管理する監督も塗料の専門知識が深いとは限らず、「見積もりに書かれた塗料」と「実際に塗られた塗料」が違っていても気づけないことがあります。
施工の途中で材料が足りなくなり、別の塗料で残りを塗られたとしても、塗り立ての状態では見た目で判断するのは難しい。しかし数年後に色あせ方や剥がれ方の違いとして現れることがあります。
今の供給危機で業者に確認すべきは、「塗料を確保しているか」だけではありません。「誰がその塗料を管理し、過不足をどう判断しているのか」まで聞いてください。具体的に何をどう確保しているかを説明できる業者は、材料の性質を理解しています。「大丈夫です、確保しています」の一言で済ませる業者には、もう一歩踏み込んだ質問をしてみてください。
※この情報は、販売代理店経由の施工店に届いたメーカー通知、関西ペイント公式発表、塗料販売店(モリエン)からの公式通知、および各メーカーへの直接確認をもとに記載しています(2026年4月3日更新)。
なお、品薄の影響は塗料だけにとどまりません。ローラー・刷毛・養生テープなど、塗装工事に使う副資材(消耗品)にも供給の逼迫が広がっています。工具専門商社のセール案内にも「あらゆる商品が品薄」と明記されるほどです。つまり、見積もり金額の上昇は塗料価格だけが原因ではなく、工事原価全体が上がっていることを理解しておく必要があります。
【4月上旬の主要動向(4/4-4/6 統合)】
4月4日に日本ペイントが塗料本体の値上げを本格化させ、4月6日には大信ペイント60-70%、関西ペイントがシンナー出荷制限を強化。エスケー化研も溶剤系の値上げ(4/21出荷分から20〜30%・水性は5/11から15〜25%)を予告した。各社が個別に出した通知の本質は同一で、4月中旬出荷分以降はすでに新価格で流通中。詳細は次のセクションの構造論証を参照。
【4月4日追記】塗料供給が不安定な今、追加で確認すべきこと
塗料供給が不安定な今、見積もりを受け取った際に確認すべきポイントが増えています。
- 見積もりの有効期限:値上げ前の価格で契約できるか確認する(日本ペイント製品は4月16日出荷分から新価格)
- 使用シンナーの確認:シンナーの転売・品質不安が社会問題化しています。正規ルートで仕入れた純正シンナーを使用するか、業者に確認しましょう
- 代替塗料の提案があるか:特定メーカーの塗料が入手困難な場合、同等性能の代替品を提案できる業者は信頼性が高い
- 工期の見通し:材料調達に時間がかかるケースが増えています。着工までのスケジュールを事前に確認する
塗料だけではない──副資材にも波及
ナフサ高騰の影響は塗料以外にも広がっています。
断熱材(ウレタン系):4月から約40%値上げ。ルーフィング(防水シート):5月1日から約40〜50%値上げ+出荷制限。シーリング材にも影響が拡大中です。
施主への影響:外壁塗装の総工事費には、塗料以外にコーキング(シーリング)や防水処理の費用も含まれます。副資材まで値上がりすると、塗料代だけでは収まらない総費用の上昇につながります。見積書の「諸材料費」や「副資材費」の項目にも注目してください。
「この見積もり、値上げに便乗されていない?」と感じたら、便乗値上げチェックリストで確認してみてください。
【4月7日追記】5月に塗料本体の値上げ第2波──シンナーだけの問題ではなくなる
ここまでの値上げは主に「シンナー」でした。しかし、複数の業界情報源によると、5月には塗料本体の全面値上げ(10〜20%)が見通されています。全メーカー横断的な動きです。
日本ペイントはすでに4月16日出荷分から塗料本体10〜20%の値上げを発表しています(本記事上部参照)。他メーカーも追随する流れです。
「第1波」と「第2波」の違い
第1波(3月〜4月):シンナーの値上げ。シンナーは塗料を薄めるための溶剤で、ナフサから作られます。値上げ幅は50〜80%と大きいですが、外壁塗装の総費用に占めるシンナー代の割合は限定的でした。
第2波(5月〜):塗料本体の値上げ。塗料そのものの価格が10〜20%上がります。塗料代は外壁塗装の総費用の15〜20%を占めるため、施主の負担増はシンナー値上げよりも大きくなります。
施主がとるべきアクション
4月中に見積もりを取得している方:その見積もりの有効期限を確認してください。5月以降に再見積もりになると、塗料本体の値上げが反映される可能性があります。ただし、「値上げ前に急いで契約」は禁物です。
これから見積もりを取る方:「この見積もりは値上げ後の価格ですか?」と業者に確認してください。5月以降の施工であれば、値上げ後の仕入れ価格が反映されているのが正当です。逆に、値上げ前の旧価格で見積もりを出しておきながら、契約後に追加請求する業者には注意が必要です。
「値上がりするから急げ」ではなく、「値上がりするからこそ、見積書の中身を冷静にチェックする」──これが今もっとも大切なことです。契約を急ぐべきかどうかの判断基準は、こちらの記事で詳しく解説しています。
値上げだけでなく、2026年は「工事が完了するか」自体がリスクになっています。下請け構造の完工リスクも合わせてご確認ください。
→ すでに契約済みの場合の確認ポイント:契約後の値上げ、追加請求されるケースとされないケース
【2026年6月】原油・ナフサは反落、ホルムズ海峡も再開へ——それでも塗料の値上げが続く理由
ここまで見てきたとおり、2026年前半は中東情勢を背景に塗料原料が上昇する局面が続きました。その局面は、2026年6月に次の段階へ入ります。原油とナフサはピークから反落し、ホルムズ海峡も再開に向けて動き出しました。数字だけ見ると「危機は峠を越えた」ように見えます。けれども、塗料の原料に効いてくるのはこれから——時間差があります。ここでは2026年6月時点で公的に確認できる事実だけを並べます。判断は読者にお任せします。
塗料の溶剤・希釈剤に使う芳香族溶剤(キシレン・トルエン=BTX)は、ナフサショックの川下にあたります。メーカー各社は公式に値上げを発表しています。関西ペイントはシンナー類を改定し(4月13日出荷分から、品目により50%以上)、あわせて出荷制限を実施、さらに塗料の改定(5月29日)も告知しました。日本ペイントも6月1日出荷分から塗料類全般の改定を実施しています。背景として各社が挙げているのは、ナフサ・中東情勢と、それに伴う出荷制限・受注停止です。
経済産業省・石油化学工業協会の月次統計を見ると、石油化学製品の生産は前年同月比で減少が続いています(3月は前月比でも減少)。キシレン・トルエンはこの石化製品の一角で、塗料・シンナー・希釈剤に向かう川下です。つまり溶剤側は、原油やナフサの店頭価格が緩んでも、すぐには楽にならない位置にあります。
ホルムズ海峡は2026年6月に封鎖解除・航行再開へ動き出しましたが、海峡が「開く」ことと船が通常どおり通る(航行再開)ことは別の段階です。合意の枠組みでは戦闘終結(60日間)を経て次段階の協議に入りますが、機雷の掃海や設備の復旧、保険・運航の信頼回復には相応の時間がかかります。原料コストが実体経済に波及するまでにも、さらに時間差があります。だから「再開した=塗料原料がすぐ安く戻る」とはいきません。
こうした状況で、私(横井)は施主の方に水性塗料を実際に提案する場面が増えています。理由は二つです。一つは供給面——溶剤系(油性)の確保が不安定で、出荷制限という公式の事実が「いつもどおり入る」とは言いにくい状況を裏打ちしています。もう一つは性能面——水性塗料は近年、性能の点でも十分に魅力があるからです。水性と油性の違いについては水性塗料と油性塗料の違いで詳しく書いています。
まとめると、危機のピーク(価格の急騰と海峡封鎖)は越えつつあります。しかし溶剤側の値上げ・出荷制限は公式に続いており、海峡再開後の正常化にも時間差があります。「危機のピークは越えたが、塗料原料への影響はこれから時間差で出る」——これが2026年6月時点で公的に確認できる構造です。
まとめ——「値上がりするから急げ」ではなく「値上がりするからこそ冷静に」
この記事の要点を3つにまとめます。
- 塗料メーカーから価格改定の可能性を示す通知が届いている。ただし現時点では「確定」ではなく「可能性」の段階
- 塗料代は総費用の15〜20%。仮に10%値上がりしても総費用への影響は2%程度。焦る必要はない
- 値上がり後こそ「安すぎる見積もり」に注意。手抜きで吸収する業者が増えるリスクがある
「値上がりするから急いで」ではなく、「値上がりするからこそ、見積もりの中身を冷静に確認しましょう」——これが現場で毎日塗料を使っている職人としての正直なアドバイスです。
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2026年3月現在:現場で起きていること(職人からのリアルタイム報告)
現場の職人への取材をもとに、2026年3月25日時点の最新状況をお伝えします。
現在、すべての仕入れ先から納入制限の連絡が入っている状況です。塗料の在庫確保が難しくなりつつあり、発注から納品までのリードタイムも延びています。
特に影響が大きいのが油性塗料(強溶剤2液ウレタン等)です。原材料の供給不安から、水性塗料への切り替えを検討する現場が増えています。屋根塗料についても、先行発注でリスク回避を検討する動きが出てきました。
施主への具体的な対策
- 契約済みの場合:今すぐ業者に塗料の発注を依頼してください。塗料の確保が遅れると、工期にも影響が出る可能性があります。
- 検討中の場合:水性塗料を選択肢に入れましょう。水性塗料は供給が比較的安定しており、性能面でも近年大きく向上しています。
水性か油性かで迷っている方は水性と油性の違いを職人が正直に解説した記事をご覧ください。2026年の供給状況をふまえた選び方を詳しく紹介しています。
- 色選びはGeminiなどのAIカラーシミュレーションで事前に徹底的に決めておくことをおすすめします。発注後の色変更が以前より難しくなっているためです。
- 「3月中なら据え置き価格」という業者の言葉は要確認です。実際の仕入れ状況次第で変わるため、契約書に塗料の品番と価格が明記されているか確認してください。
よくある質問
Q. 2026年に外壁塗装の塗料は確実に値上がりする?
A. 現時点では「値上がりの可能性がある」段階です。塗料メーカーからは4月以降の価格改定の可能性を示す通知が届いていますが、確定ではありません。
Q. 値上がり前に契約した方がお得?
A. 塗料代は総費用の15〜20%で、10%の値上げでも総額への影響は2%程度(100万円の工事で約2万円)です。急いで業者選びを誤る方がはるかに大きなリスクです。
Q. 値上がりを理由に「今すぐ契約を」と言われたら?
A. 冷静に判断してください。値上がりの影響は限定的です。「今月中なら旧価格」は契約日と塗料仕入れ日が別なので根拠がないケースもあります。
Q. 値上がり後の見積もりが適正かどうか判断するには?
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Q. 塗料の値上がりは過去にもあった?
A. 2022年に大手各社が10〜15%、2023年にさらに5〜10%の値上げを実施しています。今回は2年ぶりの値上げリスクです。
この記事の著者
横井隆之
ヨコイ塗装 代表 / 外壁塗装コンサルタント
愛知県丹羽郡扶桑町でヨコイ塗装を経営。施工歴25年・250件超の施工実績を持つ外壁塗装の専門家。著書3冊(外壁塗装の品質公式・外壁塗装の不都合な真実・外壁塗装 工程別チェックポイント21)。独自理論「塗装方程式」の提唱者。施主の立場に立った公正なアドバイスを提供し、YouTube、ココナラ、MOSHなど複数のプラットフォームでセカンドオピニオンサービスを展開中。
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